23.信濃へ
村の庄屋に道中手形を発行してもらった美山堂さんは、付いていきたいとせがむ権吉をたしなめていた。
「権よ、おまえは亡くなった父親の跡を継いで立派な大工にならねばならん。わしのような世捨て人にはなってはいかん。分かるな?権」
十四に成ったばかりの権吉は、美山堂で手習いとして働くことの楽しさを覚えたばかりだ。
そんな美山堂を閉めてまでなんだか分からない旅に出てゆく師匠の事を許せずにいた。
「だめだ権吉、お前は母親をひとりにするつもりか!」
おう、なんだかビデオで観た時代劇風の展開だなと自画自賛しながら太賀は自分に浸っていた。泣き縋る権吉の手を振りほどき太賀公聡は三度笠を被りこう言った。
「あっしには関わりのねえ事でござんす」
それは昔観た古いドラマの無宿渡世人の台詞であった。
「なんだよ!師匠!訳わからねえよ!」と権吉は泣くだけだった。決まった!と思いながらも、権吉には少し可愛そうなことをしたと後悔する太賀だった。
歩きながら太賀は考えていた。
俺がこっちの世界に辿り着いた日時を正しく知らねばならん。
あの日お里が言ったのは「六月四日」だと言った。藤吉は「天明三年」だと言った。
旧暦と今の暦を照合しなくてはならない。どうすればいい。
そうだ。
平賀源内が捕まった獄中で死んだのはその四年前の安永八年十二月十八日だと庄屋が言った。
この職についた俺は学生時代に江戸の世に住んでいた「元祖発明王」の誕生日と死んだ日を覚えていたはずだ。
確かにあの頃は覚えていた。
「思い出せ!くそっ。俺はその日を探り出し、後輩たちにデータを送らねばならん」




