18.蘭学者
「先生、おみねが腹痛で動けねんです。診てやってくれねえか」
「よし!わかった!連れて行け。どんな事でも言いなさい。そして方々に宣伝するのを忘れるな、わしは有名にならねばならん。あの平賀源内よりもな」
「美山堂さん」と呼ばれる蘭学者がこの地に住み着きもう十年ほどになる。
時は享和の世、江戸時代の中期、昔から辛酉の年に改元する習わしで昨年享和と改元された。
あの平賀源内が獄死してから二十年ほど後の世である。
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「お父、お父、白装束が死にかけてるぞ」
「ごん、そりゃあさむれえが白装束着てるだからだろう?てめえで腹でも掻っ捌いたんじゃねえのか?」
「違うぞ!腹から血は出てねえ。髷も結ってねえ」
「仕方ねえなあ、どこにいるんだ?あないしな」
「おいこりゃあ、確かに白装束だな。ごん、近づくんじゃねえぞ。なんか棒っ切れ探してこい」
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「わっはっは、助かった助かった。すまない、ありがとう、感謝する。こりゃあ儲けもんだ」
大工の藤吉は白装束を家に連れ帰り看病してやっていた。息子の権吉が見つけてくれたおかげである。
「おい、権吉と言ったか?助けてくれたんだな。お礼にこれをやろう」
白装束は服の袋から取り出した飴を権吉にくれてやった。
「なんだこれ?食えるのか?」
「おおう、そうかそうか。これはだなこうしてこうして、ほら手を出してみろ」
「なんだこれ!うめえうめえ!なんだこれ!」
「それはな南蛮の飴だ。ただそれひとつっきりしか無いから大事に食べるんだぞ」
「わーい」と言いながら権吉は走って出ていった。おそらく遊びに出かけたのだろう。
「さて、藤吉どの。改めて感謝申し上げる。ときに今は何年になったのかな」
「あんたどっから来たんだ?竜宮城にでも行ってたってのかい?」
「ああそうだ。竜宮城から帰ったところで家もなくなって途方に暮れておったのだ」
「今は天明三年だ」
「天明、天明?」
西暦でいうと一体何年なのだと男は思った。
調べるための装置も全て失ってしまった。何も分からない。おそらく江戸時代に来てしまったのだろうと、この人達を見た瞬間に理解をして芝居を続けていた。
どうして会社の連中にこれを知らせることが出来るのか。太賀は自分のした過ちにようやく気付いて落胆をした。先ずは現状を知らねばならない。
「藤吉どの、すまぬ。しばらくここに置いてくれぬか?頼む。行き場がないのだ」
「ええぇ!嫌だよー。得体の知れねえ奴を住まわせる?お里に怒られるじゃねえか!」
「頼む!大工の下働きでも何でもする!少々腕には覚えがあるのだ、頼む」
「えええぇー!」
そうしているうちにお里が洗濯から帰ってきた。
「あら、お客さんかい?珍しいねえ」
「客じゃねえよ。道端で倒れてたんで引っ張ってきただけだよ」
「藤吉の奥殿か?」
「嫌だよー奥だなんて、そんな大したもんじゃないよ」
藤吉は事の顛末をお里に説明した。
「仕方ないねえ、職が見つかるまでだよ」
太賀はご先祖様達と関わって生きていかねばならぬようになった事を心に決め、何としてでも後の世のあの機械を使う人間に情報を渡さねばならない使命を感じ取っていた。




