16.二子玉川
中村綾香はきょとんとしている黒髪の外国人を見てもう一度言ってみた。
「なにかごよーですか」
トツゼンノホーモンユルシナサイ、ミチルにアイニキタとだけ繰り返す外国人の手を握り玄関に強引に引っ張った。
「おかーさん、おかーさん、お客さんだよー!!外国人のお客さーん。靴は脱いでね!お客さん!!おかーさんー、上がってもらったよー」
「まあ、騒がしいわね。一体何が起こったの?」と中村家の後妻である美知留は客人を見て叫んだ。
「みらい!!みらいなの?よく来たわね、さあさ入って入って」と彼女の背中をリビングに押し込んだ。
「あら、みらいにしては若すぎるわね。あなたどなた?」
似たもの親子なのだろう。
天然母娘である。
慌てたアマンダは話し始めた。
事情をようやく察した美知留はアマンダに謝り歓迎した。
「そうなの、わたしとみらいは短い間だったけど友人だったわ」
「お母さん、英語話せるんだ。すごーい、何言ってるか全くわからないわ」
美知留は言う「今の時代、外国語なんて話せる必要は全く無いからね。わたしは最後のバイリンガルかもしれないわね」
美知留はアマンダの事情を全部聞かないうちに「アマンダ、今日はここに泊まりなさい。ホテルはキャンセルしなさいね、ふふっ」
美知留は隆司と祐介に電話して理由は話さずに今夜は早く帰ってくるように促した。
「さあ綾香、今夜は夜通しパーティーよ」
笑った泣いた大いに笑った。
四人と一人は元からあった家族のように笑った。
アマンダが美知留に母から言伝を託されたことと、その「忘れ物」を手渡す時が来た。
「アマンダ、ありがとう。それは多分みらいからの手紙よね。あのとき私は素直になることが出来なくて仲違いしたまま帰国したの」
美知留は少しうつむいて続けた。
「貴女のお母さんは私に手紙を渡そうとしたけど、大人げない私はそれを拒否してしまったの。何が書いてあるのかは読まなくてもわかるわ。貴女のお母さんは勝気な人、人一倍傷つきやすい人だったけど私はその傷つきやすい人を更に傷つけてしまったのよ。ごめんなさい。そうだ私、今からみらいに電話してみるわ。時差は二時間だからまだ起きてるわね。あなたは幸せを呼ぶ天使のような娘ね」
美知留は別室へ行きビデオ通話でみらいを呼び出した。
そのあと一時間ほど長電話をしていたようだ。部屋からはすすり泣く声と謝罪の言葉と感謝の言葉があふれていた。
妹は宿題をすると言って自室に戻り、父親は風呂に行った。
部屋に残されたボクとアマンダ。
彼女はこの旅で経験した不思議な出来事を話し出した。
琵琶湖に浮かぶ島での不思議な体験。祖父方の実家が御神酒を作る造り酒屋の家系だったり、ブリスベンの上空で出会った老夫婦のこと、その婦人の銀髪や眼がとても奇麗だったこと、声を聴いてるだけで宙に浮かびそうな気持のよい声だったこと、銀のネックレスを貰ったこと。黒衣を着ていたこと・・・・・
「黒衣って言ったかい?銀髪で金属の贈り物を唐突にする?」
ボクの中で記憶の螺旋がはじけ、また元通りになるような感覚があった。
病室に来た黒い服のおばさん、金属の二枚の板、消えた記憶、アメリカ、緑村美月、黒衣の占い師、喉を汚した男・・・・・飛行機の老婦人、銀で縁取られた護り石・・・・・
「アマンダ!ちょっとその護り石っていうネックレスを見せてくれ」
ボクは思った。
これは何としても美月にもう一度会わねばならない。
木村に電話した。
そしてこれは危険な道かもしれないと伝えた。
アマンダの護り石は蒼い石の周りに12個の違った石が回っている。
銀という素材と石は何らかの関係があるのか。ボクの貰った金属板は素材は何で何に使うものなのだろうか。
アマンダの見た黒衣の老婆と僕が20年前に見た老婆は違う人間なのか。
緑村の言ってた黒衣の占い師はどうなんだ。もしかして全て同一人物なのか。
そんなはずはない・・・
頭が混乱してきた。




