14.火事
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「助けてください!中に妻と子供がいるんです!!」
中村隆司は図書館勤務から帰宅し、自分が住んでいたはずのアパートメントが業火に包まれているのを目撃した。
「ああ、さゆり、祐介、ああああぁ」
レスキュー隊にどんどん救助されてくる人たちの中に隆司は自分の大事な人がいるのをまだ発見できずにいた。
もうどうみても亡くなっていると思われる人が運び出されている。23人目の救助者を見て隆司はそこに走り「祐介!!祐介大丈夫か、大丈夫なのか」
隊員が言う「おそらくまだ心臓は動いていますが、チアノーゼが出ています。危険ですので緊急処置を施します!!」
ドクターカーの医師が祐介の喉にアルコールをぶちまけ、彼の喉に切りつけた。
「何をするんです!!祐介が死んでしまう」
飛びつこうとした隆司を羽交い絞めにした隊員は
「緊急処置中です!!!冷静に!!お父さん」
切開した気管にチューブを挿し入れ気道を確保したのだ。
「ピシューピシュー」と管から笛のような音がして祐介は呼吸を取り戻した。
「あああ、祐介・・・・・・」
しかし24人目の救助者のさゆりは既に帰らぬ人となっていた。
一子の祐介は大学病院に入院した。
隆司は妻の死を彼にしばらく隠そうと思った。
お母さんに会いたいとせがむ息子に心を鬼にして
「お母さんは違う病院に運び込まれたんだ。もうすぐ会えるよ」と嘘を言うしかなかった。
祐介は縫合手術の後経過観察と術後処置のためにしばらくは入院となった。
隆司は毎日同じ時間に病院に来て2時間は一緒に居てくれた。
何回か父が訪れた次の日の事。黒衣の外国人女性が彼の部屋を訪れた。
「おばちゃん誰?」
「わたしは看護士よ、熱を測りに来たのよ」
「嘘だい、看護師のお姉さんは白い服を着ているよ」
黒衣の女性はふっとため息をついて「そうね、わたしは嘘をついている。でもねこれだけは覚えていて。わたしはあなたを傷つけない。あなたを護りに来たのよ」
「うん信じるよ、おばちゃん優しい眼をしてるもの。お母さんもそんな眼をしてるんだよ」
「そうなの?お母さんはきっと優しい人なのね」
「そうだい、お母さんより優しい人なんていないよ」
「ふふふ、可愛いお人形さん、これを差し上げますわ」と言いチェーンで繋がれた二つの金属板を差し出した。
「なにこれ、きれい」
「それをずっと大事にしていなさい。ずっと後のことだけどきっといいことがあるわ」
と言い病室を去った。
祐介はこのことを全く覚えていないが、ふたつの金属板を今も大切に持っている。
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「父さん、あれは夢だったのかな。いまでも夢の中の夢みたいな感じで頭の中に何度も流れてくるイメージがあるんだよ」
「なんだ祐介、夢の夢ってのは」
「母さんが死んだ日ボクは病院に運び込まれたよね。病院から父さんが帰った後にボクのところに来た女の人がいたんだよ」
「ああ、あの時おまえはしきりに黒い服着たおばさんが来たって言ってたよな。葬式帰りみたいな縁起が悪い人間が病院に来るかね」
「わからないんだよ、夢なのか何なのか。でも実際にこのプレートは何なのさ」
「そりゃあ、おまえの幼稚園友達の親御さんが友達と来てくれた時に渡したんだろ」
「不思議なんだよ。何にも覚えていないのになんかこれだけは手放せないんだよ」
これはなんなんだろう。




