9.ボリスデイリー社にて
「木村!木村はいるか!」
森が捲し立てている。
「電話しても出やがらねえ!」
部屋の向こうの隅で女性記者が大声を上げた。
「木村さんはいつものアレです!!」
「なに?またかあいつ!」
そうしている内に木村は何食わぬ顔をして自席に着席していた。
「木村くんよぉ、てめえ長えんだよ。クソが長えんだよ!」
「はい!森さん!すんません!今日は途中で切ってやめましたのでお許しを!」
電話中の女子社員やお茶を飲んでいる社員がそこかしこで吹き出した。
「緑村美月の記事をよ!コラムに載せるんだから早くゲラ出さなきゃなんねえの!」
ボリスデイリー社はこの時代において紙媒体として生き残っている数少ない新聞社である。大火の十数年後に設立された会社であるが、政治色を嫌い我が道を行く新聞社だともっぱらの評判だ。
「ですがね、森さん。俺はとんでもない事に気づいたんですよ」
「なんだ?そのとんでもないって」
「その前に訊いてもいいっすか!?」
「なんだ!」
「うちの会社のボリスって何なんですか!」
「てめえ!前にも説明してやったろうが!噂だぞ。噂の範囲だ!よく聞け。うちの社主がな"なんとかの冒険"って童話が好きなんだとよ!!」
「その物語に出てくる龍の名前がボリスなんですよね?」
「てめえ!わざとか?わざとだな!」
フロア中からクスクスと笑い声が起こった。
落ち着きを取り戻した森は少し静かに聞き直した。
「木村、そのとんでもない事について詳しく話せ」




