表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

親違うガチャぉ

 ドンッ!! 


「今日はやたら地獄道(じごくどう)行きの案件が多いわね……」

 

私は帰宮後もいつも通り深紅の漢服(かんぷく)(すそ)を折り上げ、自分の背丈の半分ほどの高さもある六角形の判子(はんこ)を抱えていた。


それと同時に無意味で小さな愚痴(ぐち)をこぼしてみる。


今、私が(たたず)む執務室の中は北側の壁に大きなタペストリーが1枚。


その下に朱塗りの文机が一台。


それと両手を広げた程に大きい唐紙が部屋の中央に百枚程。


あとはその脇に大きさの異なる判子が6個置かれているだけの無機質な空間だ。 


「……っ」


そんな執務室で今日も私は眉間(みけん)に深い皺を寄せ生まれたての子鹿のように震えながらいつも通り大きな判子を持ち上げるという激務を強いられている。


今、現在の私の仕事は転生希望者の査証(ビザ)六道(刑場)別に判子を押す事。


だだ、それだけである。 


誰にでも出来る単純な作業。


だが苦行(裁判)を終えた転生者(彼ら)の命運が(ゆだ)ねられた査証(さしょう)に判を押し間違えれば、冥府を統べる十王(じゅうおう)とて裁きを(まのが)れることはできない。  


責任と判子だけは重い仕事。


前科者1犯である私は毎日“2度目の失態はない”と心して判子を抱えて激務に従事している。


* 


判子は1日の死者の数から考えるとノルマは5秒に1枚。


冥府では老いることも死ぬこともないが多忙の為、精神は日々(けず)られていく。 


特に地獄道(じごくどう)行きの判子は六道の判子の中で1番大きくただひたすらに重い。


なので、退勤に近いこの時間の″地獄道行きの判子を持ち上げる”という作業は背の高くない私にとってとりわけ重労働なのだ。


 ドンッ!



「……よし!これが今日、最後の査証(さしょう)だったわね。持ち越し分終了。今日は先週よりも死者が少なくて良かったわ。現世、平和が一番。()、片付けはお願いね」


御意……(ぎょい)



私は判子と今日最後のノルマであった地獄道(じごくどう)行きの査証(さしょう)の後片付けを部下に押し付けると(ふすま)の向かいにある私室へと()を進めた。


 パタンッ  



 ガタンッ ドサッ…… ピッ


「疲れた~」


部屋の中央に置かれた朱色のソファーに埋もれながら私は肘掛けに頭を預け、壁にかけられた(カレンダー)を横目で(とら)えた。


その後、人間道(にんげんどう)の情報を仕入れる為に設置したデータ通信箱(人間道(にんげんどう)で言う所謂(いわゆる)テレビ)の電源を入れる為にチャンネルに手を伸ばす。


ピッ 


今日も仕事終わりの私の癒やしの時間(ルーティン)が始まる。



今日も始まりは面白味もない内容だった。


いつも通りの興味のわかない長いCM。


その後、いつもと違うのは今日は特番が組まれていた事くらいだ。


特番の名前は“親ガチャ~地獄の沙汰も運次第~”


「なんて妙なタイトルだこと……」


私は新聞のテレビ欄から目を離し、画面の方を見た。


通信箱に目をやると画面の右側に白髪交じりの無精(ぶしょう)ひげを生やした初老の男性。 


左側にピンマイクをつけた若い女性の姿が映し出されていた。 

 

まだ番組は始まったばかりのようだ。


私は今、時事関連のテレビ(ニュース)を見て現世の人間の事を知るということを単調な毎日を生きる(かて)としている。 


人間とは十人十色と言われる通り、同じような姿カタチをしているようで声色や性格が違うから実に興味深い。 


今、画面に映し出された男は上等な真新しいグレーのスーツを着せられているが、髪はボサボサで落ち着きはなく、左足は貧乏ゆすりをしてリズムをとっている。 


対して女性は清潔感のあるショートヘアに薄化粧で今が盛りと言わんばかりの大輪の(ごと)く美しい笑顔を浮かべている。 


両者は前世の徳の積み方が違ったようだ。


彼女は桜色のスーツに身を包み柔らかい声色で今、話題の【親ガチャ】について話をはじめた。


 

「……【親ガチャ】。まだ知らない方もいらっしゃると思うので社会心理学者、田中(たなか)(はじめ)さんに解説してもらいます。田中さん、お願いします」


「……」



画面が局アナだと名乗った女性の顔から小汚い男性の顔のアップへと切り替わる。 


しばらくの沈黙の後、田中さんと呼ばれたその男性はめんどくさそうに溜息(ためいき)をつき、伏し目がちに原稿(げんこう)を読み上げ始めた。

 


「え~。【親ガチャ】とは、子どもは自分で親を選ぶことができず、どういう境遇(きょうぐう)に生まれるかは運任せであることを抽選形式でカプセルトイなどを購入するガチャに例えた造語(ぞうご)で……」



男性は黒縁の分厚いメガネのフレームを指で押上げながら死んだ魚のような目をして親ガチャの解説を読み上げていった。 


見ているこちらも興ざめしてしまいそうなやる気のない雰囲気満載だ。


そして原稿を一通り読み終えると男性は天を仰ぎ口を開き大きく息をした。


「そうなのですね……」


「へぇ~……それで、 はぁ……」


「……(目線で合図)」

 


女性は、初めこそ男性の話に儀礼的な相槌(あいづち)を打っていた。


だが、男性は話が佳境(自分の専門領域)に入ると眼を血ばちらせ、発言は一般論から男性の妄言(もうげん)へと変わっていった。 


(くだん)の美しい姿の女性の眉間には不似合いな皺が刻まれていく。


番組の終盤。


女性が画面の向こう側にいるスタッフの方に意味有り気に頷いた。(合図をおくった。)


この番組は女性が素早く席を立って逃げるように画面から消える事で強制的に終了したようだ。 


画面が短いCMに変わる。


どうやら番組は生放送中に思わぬトラブルに見舞われてしまったらしい。


画面を去る彼女の悲壮感を漂わせる後ろ姿を他所に画面の最後に映し出された男の横顔は、まるで自分は勝ち組だといわんばかりの嫌な笑い方をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ