纏影(てんえい)のレグドラーシュ
「ハァ…ハァ…ハァ…!」
人が思い切り走っている。
楽しそうに、では無い。
苦しそうに、何かから逃げているようだ。
その人の名前はリュート・カムエラ 銀髪で顔立ちが幼く、声も中性的だが、男性である。
黒い影が、リュートへと迫っていた。
比喩ではなく、本当に黒い影が、リュートめがけて迫っているのだ。
その影を出しているのは、リュートを追いかける細身の男性であった。
男性は影を纏い、さらにその影を伸ばしている。
影はリュートの足元に絡みつき、転ばせる。
纏影者。
その字の通り、影を纏う者である。
影は人や物に光が当たることにより生まれるもの。
纏影者はその影を纏い、変化させ、人より優れた能力を発揮する。
およそ120年前より、この国カムイや、他国の一部の人に備わり始めたとされる。
「わぁぁぁぁ!」
その様子を見ていた周りの人々は逃げ惑う。
女性を助けようと立ち向かう者はいなかった。
「逃げても無駄だよぉ♡」
男は悪趣味な笑みを浮かべてリュートへと近づく。
リュートは足に影が絡まり上手く動けなかった。
「俺と一緒にイイコトしようぜぇ、なぁ?」
「僕は男…なんだけど」
「知ってるよぉ、でも可愛い顔だからよぉ…!」
「えぇぇぇぇ!?」
ドスッ
鈍い音が鳴った。
男から飛び出した影が、リュートの心臓を貫いていた。
「人形みたいに大人しくなっている方がよぉ、可愛くていいよなぁ…!」
リュートは悟った。
あぁ、ここで僕の人生は終わって、この人に玩具にされちゃうんだ。
でも
諦めたくない。
生きるのを。
まだ16歳。人生これからだ。
そう思った時、リュートの体から黒い影が噴き出した。
「なっ…!?」
リュートの影は色づき、体を覆い、そしてリュートは異形へと姿を変える。
「これは…僕は…」
リュートは驚いた。
まさか自分が纏影者に…?
何故そうなったのかは分からない。しかしこれはチャンスだ。
生き残るチャンス。
心臓は何故か動いている。
無事のようだ。
「お前も影使えるからって、調子に乗るなよぉ!」
男が影を這わせる。
その影がリュート目掛けて襲いかかった。
しかし、手刀であっけなく切り裂かれた。
影を影で滅する。
それが纏影者なのだ。
「心で感じる。この力の…この姿の名前は…」
そのまま男目掛けて拳を繰り出し、蹴りを入れる。
「レグドラーシュ」
男は倒れ伏す。
しかし諦めてはいない。
今度は自身の影を体に纏わせ襲いかかってきた。
「…ごめんなさい。」
そう呟くと、リュートは再び男を殴り倒し隙を作る。
「ギガ・ブレイズ・サジッタ!」
そう叫ぶと、リュートの体から炎が噴き出す。
相手を見据え、弓矢を構えるようなポーズを取る。
そして巨大な弓となった炎に放たれたリュート自身が矢となって、男に蹴りを放つ。
男を貫通したリュートはそのまま着地。
男は今度こそ地に伏し、動かなくなってしまった。
「ごめんなさい。」
リュートはもう一度呟くと、男の方を向き、黙祷をした。




