わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。
本日、なんの集まりかはわかりませんが、王城へ召集されておりますの。
まあ、わたくしこれでも現王太子の婚約者なので、その関連だと思うのですが……
王城へ呼び出される理由に、とんと心当たりがありません。
王妃教育はもう終了しておりますし……ああ、無論、優秀な結果を残しましたわ。
と、少々訝りながら王城へ到着。すぐに陛下と王太子の揃っている部屋へ通されました。
王太子の隣には……ここ暫くの間、王太子が構っている女性が座っておりました。
「父上! 僕は、こんな傲慢で鼻持ちならない冷酷非道な悪女と結婚なんかしたくありません! この女は、こともあろうに権力を使って彼女を脅し、相思相愛な僕と彼女を引き離そうとしたんですよっ!? 王妃になるなら、側妃や愛妾くらいで煩く言うのは間違っているでしょうっ!?」
と、王太子が宣いました。
一応、婚約者に集る羽虫へ忠告するのは義務ですし、節度を求めるのは当然の権利。それに、忠告で留めて、他になにかをした覚えはないのですが?
「あたしぃ……怖かったんですぅ……でも、その人が謝ってくれれば、それでっ……」
陛下は、とても頭が痛そうです。
「……はぁ……」
深い溜め息が落ちました。
「ふっ、君は本当に優しいな。お前がどうしても僕と結婚がしたいというなら、今ここで僕と彼女に深く頭を下げて謝罪しろ! そうすれば、お前に情を掛けて結婚してやる! 仕事は、全部お前がやるんだぞ!」
フンフンと鼻息荒く王太子が言いました。
「ぼさっとしてないで早くしろ! 本当に反省しているのかっ!?」
と、茶番を見せられて……
「どうやら、わたくし悪女にされているようですわね。でも、わたくしも反省しておりますわ」
わたくしも、溜め息を吐いて心からの反省を口に出します。
「ハッ! やっぱりな! お前は僕のことを愛してるからな!」
王太子が鼻息荒く、勝ち誇った顔をしていますが……
「いえ、お前を愛してなどいませんが?」
「へ? え? は? え? 今、なんて?」
驚きの表情をする王太子を無視。
「少々人語を解するからと、目を掛けてやったのが間違いでしたわ。所詮、豚は豚。自分と似たような感性を持つ雌豚と、ところ構わず交配をする品性の無さ。ああ、人語を解するからと人並の知性と理性を豚に求めたわたくしが悪かったのです。ごめんなさいね? もっと早く、わたくしが決断を下していれば……豚は豚同士で娶うことができたというのに」
わたくしは、認めましょう。自分の間違いを。王族の血を引いていて、多少見目が良かろうとも、本性と品性が下劣な豚には無理だったのです。
「は? え? なにを言っているんだ?」
「ああ、お気になさらず。仕方ありません。豚は雌豚と番いたいと仰せです。故に、陛下……いえ、伯父様。わたくしも覚悟を決めました」
「うむ。其方には苦労を掛ける。すまぬな、我が愚息が……」
「いえ、長子を優遇するのは、ある程度の権力争いや軋轢を生まぬための慣習です。それに、わたくしも傲っていたのです。自分が、豚をどうにかできると……けれど、豚は豚。畜生に人の道理。それも、統治者の人品骨柄を求めるのが間違いだったのです」
我が国は、陛下……伯父様のお子が現王太子の他は王女しかおりません。
わたくしは、陛下の弟の娘。現王太子とはイトコ同士の間柄です。
「そうか……では、本日よりお前の王太子位、及び王籍を剥奪。王弟が娘である公爵令嬢を王太子とする!」
「承りました」
「え? ち、父上っ!? 一体、どういうことですかっ!?」
「どうもこうも無いわ! 己のやらかした所業であろう!」
現王妃は、他国出身。しかも、我が国よりもちょっと大きい国です。
そして、産まれた第一王子を、それはそれは甘やかして育てました。王女達はそうでもない……と言いますか、自分の娘を女としてライバル扱いし、邪険にするって、母親としてどうかしているとしか思えませんけどね?
そんなワケで、王妃とその出身国が少々面倒な我が国の取るべき道は複数ありました。
現……いえ、元王太子を国王にし、周囲の全方位へ迷惑&負担を掛けて国を回す。現実的に考えて、ある種の地獄が形成されると思われますわね。
王女達のうち、一人を女王へ即位させる。とは言え、彼女達はいい子ではありますが、如何せん国王となるには性格が気弱なのです。王妃に邪険にされて育てられた弊害でしょうね。
そして、王弟である父の娘。つまり、わたくしを女王へ即位させること。今のところ、これが一番無難な答えになったのでしょう。
女王即位は、自国の貴族と周辺諸国へ侮られる可能性があったので長らく保留として、暫定的にわたくしが豚の婚約者として調……いえ、教育を施す予定でしたが。
万が一の可能性を考慮し、王妃教育と並行して帝王学を学んでいたので思うように時間が取れず……結局は、豚へ人間の道理と倫理観を説き、統治者としての心構えを叩き込むことができませんでした。
これも偏に、わたくしの実力不足。
ああ、自分が不甲斐ないですわ……
「そういうワケですので、豚は去勢した後、そこの雌豚と番うことを許しましょう。豚に相応しい家畜小屋を用意して差し上げますので、そこで終生おとなしく過ごしなさい」
と、わたくし達の言っている意味がわからず、伯父様へ縋り付いている豚へ告げました。
「医務室へ連行せよ。多少手荒くとも構わぬ」
と、ギャンギャン喚く豚の番は簀巻きにされ、これから処置をされるべく医務室へと連行されて行きました。
ああ、これから女王即位に向けて忙しくなりますわね。
王配に据える殿方も選びませんと。今度は統治者としての責務を理解できる方……とまでの高望みはしませんが、人としての道理と理性を最低限兼ね備えている方がいいですわ。
少々不足するところがあっても、調教……いえ、教育を施せばいいだけのこと。
うふふ、帝王学も大っぴらに学ぶことができますし、王妃教育もこれからは不要。面倒な現王妃と顔を合わせる必要もありません。
時間にも余裕ができますもの。王配を調教する時間も作れますわ。まずは、どこぞの豚の二の舞にならないように。わたくしに逆らわないことを徹底的に仕込まなくてはね♪
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
悪役全力オーバーキルの第三段。
まあ、なんか暑さにやられてるとこんなん浮かんだので書いてみた。…( っ゜、。)っ
ナチュラルにイトコ(第一王子)を豚(見た目はそんなに悪くないよ)呼ばわりする傲岸不遜なドS主人公ちゃん。多分、幼少期からハイスペックで女王様な性格です。
反省はしている。但し、豚に人間の道理を説くのは自分には難しいことだったと気付かないで、豚を増長させてしまったことに対して。
主人公「わたくしが、もっと早く諦めていれば……豚もこんなに増長せず、家畜小屋で雌豚と幸せに暮らしていたことでしょう。周囲も無駄に苦労することはなかったことでしょうに。決断が遅くて、本当に申し訳ありませんわ」(´・д・`)
国王「いや、わたしも……もっと早く王妃とアレ見切りを付けていればよかったのだ」(l|l =д=)
多分、これからいろんな意味で女王様と崇められる統治者になることでしょう。(((*≧艸≦)ププッ
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