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悪役令嬢の娘の母親というモブポジションに転生したけど、夫に家政婦扱いされてた私は、娘の破滅フラグを回避しつつ、クズ一家を社会的に破滅させて幸せを掴みます

作者: 結城斎太郎

「……ああ、最悪」


ベッドの上で目を覚ました私は、あまりの状況に思わずため息を漏らした。記憶を整理していると、頭がズキズキする。


――私はごく平凡な会社員だった。婚期を逃しつつも、穏やかな日々をそれなりに楽しんでいた。


だがある日、残業帰りにコンビニの駐車場でトラックに撥ねられ、命を落とした。そして次に目覚めたらこの世界にいたのだ。


転生先は、乙女ゲームの世界。しかも私は「悪役令嬢の母親」。……といっても、ゲーム内で一言も登場しない、完全なるモブ中のモブである。


「しかも、夫がクズってどういうこと?」


ここ、アロイージア辺境伯家の当主である夫――グレゴリーは、完璧なまでの自己愛と無神経を兼ね備えた最低男。私にはほとんど関心がなく、代わりに溺愛しているのは愛人であるロザリンとその娘イザベラ。


私が産んだ娘――アメリアは、「悪役令嬢」として、原作では断罪される未来が待っている。


「でも、私は……このままじゃ終わらない」


娘の未来を守る。クズ夫とその一派を社会的に破滅させる。そのために、私は動き始めた。



---


アメリアはまだ十歳。無邪気で、どこまでも素直な子だ。原作のように高慢な悪役令嬢になどさせない。


「お母様、今日のパンケーキ、とっても美味しかったですわ!」


「あら、ありがとう。でも、“ですわ”はやめましょうね」


「えっ? でも、令嬢は“ですわ”って喋るものだって……」


「そんなの、無理して真似しなくていいのよ。あなたはあなたらしく、ね?」


子供らしい笑顔を浮かべるアメリア。その頬に手を添えると、改めて思う。


――この子の未来は、私が守る。


そのために、私は屋敷内の使用人たちの不正を調べ上げた。愛人ロザリンが私物化しているメイドたちは、表では「奥様」と呼びながら、裏では私の悪口三昧。だが証拠を押さえればいい。日記、帳簿、さらには裏金の出入り記録――一つ一つ、完璧に記録する。


「ふふ、見せてあげるわ。元社畜の執念を」



---


そして迎えた、社交界シーズン最初の舞踏会。


この日、私は一世一代の大勝負に出る。


「……あなた、何を着ているのですか?」


愛人ロザリンが、私のドレス姿を見て目を剥いた。彼女が仕立て屋と組んで、私のドレスを汚しておいたのは知っている。だが、私はそれを事前に察知して対策しておいた。


「お義姉様からのおさがりですけど、似合ってますか?」


ニッコリ笑うと、周囲の貴族たちはどよめいた。


――あの“影の薄い妻”が、ついに姿を見せた。



---


「グレゴリー様、失礼いたします」


私は、公の場で封筒を差し出した。


「これは?」


「お手元の領地収支に関する疑義。監査局に正式に提出させていただきました」


場が凍りつく。


――そう、これは戦争。証拠はすべて揃っている。夫と愛人が私を排除するために不正に金を動かしていたこと、使用人の一部がグレゴリー側に肩入れし、私の動向を探っていたこと――すべて、記録済みだ。


「……貴様、何をした……!」


「私の人生、あなたたちの都合で潰されるわけにはいかないの」


「くっ……!」


グレゴリーの顔色が変わる。


貴族社会は“体裁”が命。不正が明るみに出れば、立場は一気に崩れる。しかも私は、王宮側の古い知己――アメリアの誕生日会に出席した第三王子と手を組んでいた。


「私は、娘の母です。娘の未来のために、あなたを許すわけにはいかない」





□♡▽○




「……不正の証拠を、王宮に?」


グレゴリーの顔から血の気が引いた。


私が差し出した封筒には、彼の不正会計だけでなく、王室からの補助金を着服していた証拠も含まれていた。しかも、王室関係者である第三王子アルヴェイン殿下の直々の捺印が入った調査状付き。


「……妻のくせに……貴様ぁ……!」


グレゴリーが叫び、手を上げようとした瞬間――


「そこまでです、辺境伯殿」


重々しい声とともに、第三王子が場内に姿を現した。


「王宮からの命を受け、監査と保護のために参上しました。お前たちの不正の数々は、すでに証拠付きで提出済みだ」


「なっ……王子、これは妻の讒言だ! で、ですが、これは陰謀で……!」


「戯言を。記録は王宮にて確認済み。なお、あなたの妻――レティシア夫人の報告は極めて信頼性が高いと評価されている。加えて、あなたの“正室であるにも関わらず虐げられていた”記録も含め、極めて悪質と判断された」


その言葉に、場内の貴族たちの表情が一変する。誰もが、グレゴリーを避けるように距離を取り始めた。


「グレゴリー・アロイージア辺境伯。あなたには監査が入ります。それまでは、公的立場を一時凍結し、屋敷の管理も夫人に一任することとする」


「くっ……!」


夫は悔しげに唇を噛みしめたが、それ以上、何も言えなかった。



---


「レティシア様、どうかお許しください……!」


翌朝、私のもとに跪いたのは、これまで私を見下し続けていたロザリンと、その取り巻きのメイドたちだった。


「お義姉様! 私、あなたを侮っていたわ! でもそれは誤解で……あの時も本当は……!」


「私を“空気”扱いしたこと、忘れてないわよ」


私はにっこりと微笑む。


「でも、もういいの。あなたたちが屋敷から出ていってくれるなら」


「っ……!」


屋敷の財政も再構築。無駄に増やされていた愛人とその取り巻きの分を削るだけで、かなりの支出が抑えられる。さらに、使用人たちの一部も総入れ替えした。


「……お母様、怖かったの?」


夜、私の布団に潜り込んできたアメリアが、ぽつりと呟いた。


「ううん、少しだけ。でも、あなたがいたから頑張れたのよ」


私は娘を抱きしめ、額にキスをする。


「もう心配いらない。私たちは、これから自分たちの力で幸せになるの」


「うん……!」



---


それから数か月。


辺境伯家は私が再建に着手し、王室の支援を受けて改革が進められた。


一方、グレゴリーは不正の責任を問われ、爵位を剥奪こそ免れたものの、中央貴族会からは除名。名ばかりの“元辺境伯”として遠地で幽閉生活を送る羽目になった。


ロザリンはというと……財政支援の見込みもなくなった途端、彼を見捨て、実家に泣きついたものの、そこもすでに援助を断られていたらしい。


「やったことの報いよね」


私は娘と手を取り、新たな生活を歩んでいた。



---


「レティシア様、どうかこれからもこの国の改革をお手伝い願えますか?」


王宮に呼ばれた私は、第三王子アルヴェイン殿下からそう告げられた。


「貴族の腐敗と女の地位の低さ、どちらも無視できません。貴女のような方の力が、今こそ必要なのです」


「……考えさせてください。私はまず、娘の幸せを第一にしたいので」


「ええ、もちろん」


王子は優しく微笑んだ。


実は彼、アメリアの誕生会で出会って以来、何かと親切にしてくれていた。そして今、アメリアにも「“王子さま”って本当に優しいんだね!」などと懐かれている。


まさか……恋愛フラグ?


いやいやいや、娘の将来のためにも、私が今すぐ“再婚”なんて……。


――そう思っていた矢先、アメリアが唐突に言った。


「お母様、あの王子さまと結婚すれば、私、王女になれますわよね?」


「やめなさい」


「でも王子さまってイケメンだし、お母様にも優しいし、いいと思うの!」


「ほんとやめなさい」


娘に背中を押されながら、私は思う。


――モブなんかじゃない。私は、娘の未来を守った“母”であり、この世界で“自分の物語”を歩く一人の人間だ。


ここからが、本当の私たちの人生。


娘と手を取りながら、私は穏やかに微笑んだ。




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