王の影、咆哮の鼓動
第7話です。宜しくお願いします。
異形と化した夜――元・騎士団長ヴァルド。
その体から溢れ出す闇は、先ほどまでとは比べものにならなかった。 膨れ上がる黒い炎、空間を歪ませる瘴気、そして何より、その瞳に宿った“狂気”の色。
昇子が震える声で呟いた。 「……まさか……あれって……」
「……夜の……“王クラス”……!」 世界の顔から血の気が引く。
大我も呻くように言った。「まじかよ……あんなもんが……」
ヴァルドは雄叫びと共に地を蹴り、異常な速さで世界へと迫った。
「っ!」
世界は即座に《光紋結界》を展開。 光のバリアが瞬時に彼の前面に広がり、ヴァルドの一撃を正面から受け止める。
ズガァァン!!
衝撃波が走り、バリアが震えるが、光が夜の攻撃を受け止め、逆に触れた腕の一部を土に還す。
「バケモンめ……」
昇子と大我が反応する間もなく、ヴァルドは再び呪文を紡ぐ。
「《黒詠連鎖・改》」
空間がねじれる。 再び、3人の意識が暗闇に飲まれていく。
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世界は、かつての地下室にいた。 だが今度は違う。
目の前の扉の向こうから聞こえるのは、蓮二の声ではない。
それは、幼い自分自身の声だった。
「逃げるなよ……お前が閉じ込められたのは、自業自得なんだ……」
世界は叫ぶ。「違う……そんなの……違うって言ってるだろ!!」
けれど、足は動かない。光も放てない。
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昇子は、かつての自宅が燃え落ちる光景を見ていた。
「ママ……! お願い、起きて……! 私が守るからっ……!!」
燃え盛る部屋の中、幼き自分の声が耳に突き刺さる。 彼女はその場で膝をついた。
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大我は、世界が蓮二とすり替わっていたあの日々を、延々と見せられていた。
「気づかなかったなぁ……」「お前が、弱いからだよ」
世界に似た影が、自嘲気味に笑う。
「ちくしょう……! 違う、俺は……俺はあいつを信じてたのに……っ」
拳を地面に叩きつけるが、何も変わらない。
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3人が幻影の中でもがくその時だった。
微かに、風が動いた。
「……起きろ、三人とも。……まだ、終わってねぇぞ」
それは、どこからともなく聞こえた“声”。
だが、確かに耳元で囁かれたその声音に、3人の目が一斉に見開かれる。
「……獅堂さん……」
意識が現実に戻る。
そして、彼はいた。
崩れたビルの瓦礫の上に、獅堂声司。
オーラが爆発するように膨れ上がり、彼の姿を包む。
「滅多にねぇな……夜の“王クラス”なんてよ」
拳を構えた彼の表情は、戦士のそれだった。
「見てろよ、お前ら……これが“S階級”ってやつだ!!」
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ヴァルドが吠える。
咆哮は空気を振動させ、壁を割る。
だが、獅堂は動じない。
「《ブラステッドボイス:単一波動》ッ!!」
彼の声が一点に集束し、矢のような音の槍がヴァルドの肩を貫く。
「続けて……《全域拡散・共鳴振動》ッ!!」
ドォォンッ!!!
地面ごと吹き飛ばす広範囲攻撃。 音波がヴァルドの体内を震わせ、動きが鈍る。
だが、ヴァルドも悪魔オーラで反撃。
その叫びは“感情を凍結”させるほどの呪詛を含んでいた。
一瞬、獅堂の動きが止まる。
「が……っ、なかなかやるじゃねぇか!」
笑いながら、獅堂は踏み込む。
「じゃあ、これで終わりだッッ!!」
最後の《爆音発声・極限振動》
全身から放たれる爆音がヴァルドを直撃。
黒炎が吹き飛び、肉体が弾けるように崩れていく。
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「……私は……誰かを……守りたかった……だけ……なのに……」
その声は、かすかだった。
彼の脳裏に浮かぶのは、王女の笑顔。
「ありがとう……あなたがいたから、私は今を信じられる」
最後の記憶。
ヴァルドの姿が静かに、塵となって消えていく。
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3人は呆然と立ち尽くしていた。
昇子:「……全然、歯が立たなかった……」
大我:「あれが……S階級……」
世界:「……あれが“夜”ってやつの……果てか……」
獅堂が振り返り、肩を回す。
「よく見てただろ? 次は……お前らの番だ」
その言葉に、3人の胸に火が灯る。
彼らはまだ弱い。 だが確かに、前に進み始めていた——。
遂に獅堂さんの力が…。
流石にお強い。