ここから、俺たちの任務だ!
第5話です。宜しくお願いします。
虎威家の医療室。
静かな陽光が差し込むその部屋で、虎威世界はゆっくりと瞼を開いた。
「……ここは……」
目を細めながら、ベッドの上で身体を起こそうとする。 その瞬間、勢いよくドアが開いた。
「せかいぃぃぃ〜〜〜〜っ! 無事だったのねぇぇぇ〜〜っ!」
叫び声と共に飛び込んできたのは、彼の母・虎威金糸雀だった。
「母さん……ちょ、落ち着いて……って、重いっ!」
泣きながら世界を抱きしめる金糸雀。
「本当に……本当に心配したのよぉ……! もう……っ、どうしてそんなに無茶ばっかり……!」
「平気だよ。俺は、ちゃんと……ここにいるから」
その瞬間、ブゥン……と小さな虫が部屋に入り込んだ。
「……ッ! む、虫ィィィィィィィィィ!?!? ぎゃああああああああああああ!!」
パニックを起こした金糸雀が、慌てふためきながら両手を突き出す。
「《フレイムヘル!》 フレイムヘル!! フレイムヘル!!! フレイムヘル!!!!」
数発の小規模爆炎が連続発生。 虫が消し炭になったのを確認したあとも、しばらく部屋の壁や備品が燃え続ける。
「落ち着いて母さん! ……もう、虫は死んでるから……!」
世界が叫ぶ。
「この異能力、《火炎地獄》は対象が“死ぬまで”燃え続けるんだってば! 一回で充分だよ! これ……ほんとに怖すぎる異能力だ……」
「だ、だって……だって……もう、無理だったのよぉぉぉ……!!」
周囲の医療スタッフが火を消しに走るなか、世界は頭を抱えてため息をついた。
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数時間後。 医療室前の庭でリハビリをしていた世界のもとへ、見慣れた影が駆け寄ってくる。
「うおおおおおおおお世界ぇぇぇぇぇ!!」
丹羽大我だった。
「っとぉ!?」
《ボディアンスロ》を発動し、足をウサギに変化させて高く跳び、その勢いで世界に抱きつく。
「ぐふっ……ちょ、バカ……!」
「よかったよおおお! 生きててよかったあああ!!」
「……ありがとな、大我」
そして、少し離れた場所から歩いてきたのは、鈴菜昇子だった。
「ようやく本物ってわけね」
「……虎威世界。第3部隊所属、B階級」
「鈴菜昇子。こっちも同じく第3部隊、B階級よ。ま、これからよろしくってことで」
「よろしくな」
昇子が少しだけ笑みを浮かべた瞬間、さらに豪快な声が響いた。
「おおーっ、ようやく“本物”が来たかァ!」
筋骨隆々の大男が歩いてくる。 獅堂声司。S階級、第3部隊隊長。
「初めましてだな、虎威世界。試験の時から変わってたらしいが、これが“本物”か。楽しみだぜ」
世界は礼儀正しく頭を下げる。
「虎威世界です。これからよろしくお願いします、隊長」
「ガハハハ! 真っ直ぐな奴は嫌いじゃねぇ! よろしく頼むぜ!」
「俺が虎威世界。こっちは大我と昇子。こいつらと一緒に頑張るつもりです」
「ふむふむ、こりゃあ俺の隊もにぎやかになりそうだ!」
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その時、獅堂がふと思い出したように口を開く。
「そうだ、お前の治療の件で呼んだやつが来てるんだ」
静かに現れたのは、優しげな微笑を浮かべた女性だった。
「あなたが……世界くんね。よく、がんばったわね」
第4部隊隊長、姫宮真癒。 S階級の治癒能力者。
「あなたの体と心、少しでも軽くなりますように……」
そっと手をかざすと、空中に金色の光輪が広がった。
「《祝福祈環》」
世界の身体が柔らかな光に包まれる。 痛みが薄れ、体がふわりと軽くなる。
「……これが、癒しの……」
昇子:「すご……S階級って、本当にこんなことが……」
大我:「すっげぇ……あったかい……」
姫宮は優しく微笑みながら言った。
「あなたたちの傷は、きっと、あなたたち自身の力でも癒えるわ。これはその“きっかけ”よ」
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後日。訓練場にて。
獅堂が3人を呼び集める。
「さて、いよいよ“初任務”だ!」
「任務ですか?」と世界。
「ああ。第18区域に、公爵クラスの夜が出没したとの情報が入った。 お前ら3人なら、問題なく対応できるレベルだ。俺からの“力試し”ってわけよ」
昇子:「公爵クラスか……」
大我:「よーし、燃えてきた!」
世界:「了解。任せてください」
「ガハハ! そうこなくっちゃな!」
獅堂が豪快に笑いながら言った。
「さぁ、俺の隊の“新しい風”を見せてみろよ、三人とも!」
母強し。怖いです。