囚われた光、触れた
第45話です。宜しくお願いします。
――これは遠い過去、まだ世界や大我が生まれるずっと前の話。
神界セレスティア。
永遠の光に包まれた壮麗な都市に、不釣り合いなほど重く黒い門があった。
その奥はゼウスが作り出した“神罰の牢”。
天界に生まれたどの天使よりも強く、制御しきれぬ“闇”を抱えた堕ちる前のルシファーは、そこに何度も閉じ込められていた。
ガチャリ――
硬質な鎖が外される音と共に、ルシファーは牢から引き出される。
その瞳は血走り、額には割れた血管の筋が浮かんでいた。
> 「クソッ…ゼウスの奴……。力が少しでも規格外だとこれかよ……。」
その口調は荒く、息は獣のように乱れている。
看守の下位天使たちは怯え、遠巻きに鎖を引くだけだった。
ルシファーはずっと孤独だった。
己の力を恐れ、忌避し、ただ制御できない化け物として扱う周囲。
ゼウスですら――自分を監禁し、恐怖で支配するだけだった。
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牢の外で待つ光
牢の門が開くと、いつものようにそこには一人の天使が立っていた。
金の髪、柔らかな微笑み。
そう――ミカエル。
ルシファーは顔をしかめ、苛立った声を漏らした。
> 「……またお前か。」
当然のように背を向けて歩き出す。
だが、振り返ればミカエルは一定の距離を取り、静かに後をついてくる。
ルシファーが自分の住処まで戻ると、ミカエルはいつものように深く頭を下げ、そのまま静かに去っていった。
このやりとりは何度も繰り返された。
牢から出れば、必ずそこにミカエルがいた。
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ある晩、またも牢から出たルシファーは、ついに足を止めた。
> 「……なあ。お前、いつも待ってるが……なんでだ。」
ルシファーは苛立ちを隠せない表情で眉をひそめた。
> 「俺とは特に関わりもないだろ。なのに……何でこんな俺に付きまとう。」
ミカエルは驚いたように目を見開き、それからふっと微笑む。
> 「ルシファーは忘れてるかもしれないけど……昔、私に声をかけてくれたのはルシファーだったんだよ。」
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光景が過去へと滲む。
小さな頃のミカエルは、まだ力も弱く、ゼウスに見放され、他の天使たちからも距離を置かれていた。
白い大聖堂の片隅で、声もなく涙を流す自分に声をかけてくれたのは――
> 「泣くんじゃねえよ。……お前、弱そうだし、俺が力の出し方教えてやる。」
ルシファーだった。
彼はぶっきらぼうに、荒い言葉でオーラの流し方や異能力の使い方を教えてくれた。
教え方はめちゃくちゃで、全然うまくいかなかったけれど――それでも。
> 「優しかったんだよ。誰よりも。」
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ミカエルは微笑みを絶やさず、静かに言葉を続ける。
> 「だから私は知ってるんだよ、ルシファー。
本当はとても優しい人だって。誰も見ようとしないだけで……。」
ルシファーの胸に、何かが突き刺さる。
自分の乱暴さも、暴力も、全部理解した上で、それでも寄り添う天使がいる。
> 「……お前、変な奴だな。」
思わず呟くと、ミカエルはくすっと笑って首を振った。
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それから――いつしか二人は誰にも言えない秘密を共有するようになった。
夜の神殿。
誰もいない広間でそっと手を取り合う。
> 「ゼウス様に見つかったら、私……」
> 「バカ言うな。見つかるわけねえだろ。」
口調は荒くても、ルシファーの手は恐ろしく丁寧だった。
長い睫毛を震わせるミカエルにそっと口付ける。
ゼウスは天使たちの恋も、子を成すことも禁じた。
それでも二人は――抗い、愛し合った。
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ある夜、ルシファーはそっとミカエルの腹に手を置いた。
> 「お前……少し、違うな。」
ミカエルは頬を赤く染め、微笑む。
> 「ルシファー……私……。」
二人の中に芽生えた小さな命。
天界にあっては許されざる存在。
それでも二人は、その小さな奇跡を心から愛おしく思った。
ルシファー(心の声)
> 「……こんな時間が、いつまでも続けばいいのに。」
だが、この時の二人はまだ知らなかった。
ゼウスの冷酷な決断と、それが引き起こす哀しすぎる未来を――。
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夜空に抱き合う二人を映し、星々が涙のように瞬く。
愛した者のために抗い、守り抜こうとしたその先に待つものを、二人はまだ知らない。
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ルシファーとミカエルの悲しい過去です。




