残響と真実、そして涙
第44話です。宜しくお願いします。
夜が明ける少し前――
戦いの熱が徐々に冷めていく中で、静寂が訪れた街には、崩れたビルや引き裂かれた道路、黒く焦げた地面が生々しく残っていた。
その中心で、朝日の精鋭たちは思い思いに呼吸を整えていた。
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「……やっと……終わったんだな……」
鈴菜昇子は崩れた建物の影に腰を下ろし、ぐったりと上を仰いだ。吐く息はかすかに震え、頬には疲労と安堵が混ざった笑みが浮かんでいた。
少し離れた場所で、獅堂声司が血の付いた手を振り払うようにして、鷹峰迅に話しかけている。
「おい迅、まだ戦える顔だな?」
「お前ほどじゃねぇさ。……まぁ、俺たちS階級が潰れたら終わりだからな。」
二人は軽口を叩きながらも、緊張をまだ解かず、周囲を見張る。
姫宮真癒は白い光輪を淡く輝かせ、黒鋼一漢や仙道喰真、栗花落彩芽の傷を癒やして回っていた。
「みんな、本当に……よく生きて戻ってきてくれましたわ……」
羽仁真嵐と香坂柚璃は少し離れた瓦礫の上に腰を下ろし、お互いに寄りかかりながらかすかな笑みを見せる。
「終わった、んですよね……」
「ああ……これで、少しは静かになる。」
二人の視線の先には、かつての戦場――いくつもの夜が消え、瘴気の残骸が転がる街角があった。
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そしてそのさらに奥、半壊したビルの影で――
丹羽大我と虎威世界が並んで腰を下ろしていた。
二人の服はところどころ破け、血と埃で汚れている。
それでも、隣に仲間がいるというだけで少しだけ呼吸が楽になる。
世界が深く息をつきながら呟く。
「……もう少しで、全部終わらせられる気がしてたんだがな。……色々ありすぎて、頭が追いつかねぇ。」
「……世界、ちょっと……話しておきたいことがある。」
「ん?」
大我は俯いて拳を握りしめ、そして顔を上げた。目は不安と覚悟の混じった光をたたえていた。
「俺……思い出したんだよ。ミカエルと……ルシファーって名前を。……俺の、親の名前を。」
世界の目が、ほんのわずかに揺れる。
「何、言って……」
「俺は……大天使ミカエルと、堕天使ルシファーの子供だ。
それに……多分――お前と、兄弟なんだよ。」
時間が止まったような静寂。
世界は拳を握りしめたまま俯き、長い沈黙のあと、吐き捨てるように言った。
「……冗談だろ、そんなの……。」
「……分かってる。俺も、そう思いたかった。でも……アイツ(ハウリングレイジ)に言われて、頭に流れ込んできたんだよ。
母さんの声も……父親の声も。……気持ち悪いくらい、はっきりと。」
世界は息を詰め、胸に手を当てた。
「……クソ……。どこかで分かってたのかもしれねぇな……。俺が……普通じゃないってことくらい……。」
しばし沈黙が続いたが、やがて世界は顔を上げて大我の肩を軽く殴る。
「……まぁいい。兄弟だろうがなんだろうが……俺の面倒はこれからも見てもらうからな。」
「ハハ……上等だ。弟の面倒見るのは、兄の役目だからな。」
二人は並んで小さく笑い合い、拳をぶつけあった。
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――そのとき。
不意に廃墟に風が吹き込む。重い風だ。普通の空気ではない。
世界と大我が同時に振り返ったその先。
空間が裂けるように揺らぎ、そこから銀髪に黒い角、折れた羽根を持つ男――ルシファーが歩み出てきた。
「……また、会えたな。」
世界が悲しそうな目でルシファーを見つめる
「お前は……。いや、父さんなの…か?」
だがルシファーは世界ではなく、その隣にいる大我を見ていた。
瞳が大きく見開かれ、かすかに震える。
「……そのオーラ……ミカエル……?」
世界と大我が揃って目を見開く。ルシファーは口元を手で覆い、その場に膝をつく。
「君まで……生きていてくれたのか……。ミカエルが……君を……」
震える声。頬を伝う涙。
世界は思わず息を呑んだ。大我も、その場で立ち尽くす。
ルシファーは涙を拭いもせず、泣き笑いのような顔で二人を見上げる。
「ありがとう……生きていてくれて……。
本当に……ありがとう……」
その言葉のあまりの重さに、世界も大我も何も言えずにただ立ち尽くす。
――やがて空が微かに白み始めた。
崩れた街の中、父と息子二人のシルエットだけが静かに浮かび上がる。
その沈黙が、次に語られるべき全ての真実を待っているようだった。
ルシファーが再び現れましたね…
真実がやっと明かされます。




