毒腹の飽食、罪は連鎖して
第41話です。宜しくお願いします。
地面が毒の霧で霞んでいた。
どろどろとした黒紫の液体が、小さな溝を流れ、泡を立てて溶かしていく。
「……クソっ、視界も呼吸も……最低だな」
仙道 喰真が鼻を摘まみながらも軽い調子で言った。
その隣、鈴菜 昇子は息を詰め、腕にできた黒い痣を見て苦い顔をする。
「毒、回ってる……でも、まだ……!」
一歩踏み出すと、霧の奥から丸い影が揺れた。
「勿論だよォ……お前らがどんだけ足掻いても……結局、俺の胃袋に入るだけだァ……」
暴食の七罪、トニー。
笑みを崩さず、唇の端から毒の唾液を垂らし、その液体が地面を溶かす。
「俺ァ……ずっと、腹ァ減ってんだよ……全部食わねえと、満たされねェ!」
ぐぐっと太い脚が地面を踏みしめ、毒の瘴気が一層広がる。
「昇子ちゃん、そろそろ決め時だぜ?」
仙道が昇子に横目をやる。
昇子は顔色を少し青くしながら、それでも力強く頷いた。
「はい……仙道さん!」
仙道はにっと笑い、体重を極端に軽くした。
ふっと風に浮かび、トニーの視界を翻弄するように飛び回る。
「なんだァ……チョロチョロと……!」
トニーが苛立って両腕を叩きつける。
地面が盛大に割れたが、仙道はひらりとその上を舞う。
その隙を昇子は見逃さなかった。
「……いけっ!!」
昇子は周囲の地面、瓦礫、空気中――そこにあるわずかな水分すべてを急速に加熱。
一気に温度が跳ね上がり、トニーの足元が爆裂する。
「ぐおっ……!?……は、ハハッ、まだまだだァァ!!」
トニーは全身から毒液を噴き出しながら前進してきた。
だが、その毒は周囲の爆裂の熱で気化し、さらに仙道が軽く着地した瞬間、体重を最大化させ地面を踏み砕く。
「どーんっ、と行こうかァ!」
一気に崩れた地面のひびがトニーの足元を裂く。
バランスを崩したその巨体に、昇子は息を切らしながら最後の力を込める。
「……寄るなって……言ったでしょっ!!」
自分の血の汗まで利用し、周囲の湿気とまとめて爆発を起こす。
猛烈な爆炎がトニーを飲み込み、火花と黒い煙が舞った。
やがて火が収まると、トニーはふらふらと立っていた。
全身に無数の裂け目を作り、毒がそこから溢れては地面に吸い込まれていく。
「……やるじゃ……ねェか……お前ら……」
トニーは顔に残った笑みを崩さず、そのままゆっくりと崩れ、土に還った。
「……ふぅっ……」
昇子はその場に膝をつき、荒い息を吐く。
仙道がその横に座り込み、軽く頭を撫でた。
「マジでカッコ良かったぜ、鈴菜ちゃん」
「……調子……狂います……仙道さん……」
昇子は赤くなった顔をそむけるが、次の瞬間、二人は同時に顔を上げた。
まだ戦場は終わっていない。
遠くで爆発音、そして禍々しいオーラの波動が感じられた。
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イラース vs 真野&柊
別の区域。
イラースが苛立ったように瘴気を両肩から噴き出し、地面を黒く染めていた。
「イライライライライラ……なんでだ……もっと……燃えろよ……全部、壊れてしまえ……ッ!」
真野 銃菜が腕を大きな戦斧に変形させて口笛を吹く。
「派手にやるねぇ……でも、そーゆーの嫌いじゃないわ!」
柊 夢子がぽやっとした顔で、イラースの頭上を指さす。
「……空が泣いてる。夢の中みたいだねぇ……?」
イラースの目がぎょろりと動き、次の瞬間、瘴気が噴火のように拡がった。
「燃えろ……ッ!!」
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エンジー vs 如月&神代
さらに別の場所。
木々の間を歩く神代 鏡華と如月 姫華。
周囲の空間にはいくつもの光の鏡が浮かび、索敵をしていた。
「……気配が濃い。この先に何かいるわ」
姫華は軽くスカートをつまんで頷き、目を細めた。
その前にふっと現れたのは、エンジー。
「いいな……その能力……俺にくれないかなぁ……?」
ぬらりとした笑顔に、如月は吐き捨てる。
「気持ち悪いですわ。鏡華さん、さっさと片付けてくださる?」
神代は冷徹に視線を向け、小さく息を吐いた。
「同感ね。排除するわ」
エンジーの顔が嬉しそうに歪む。
「いいな……いいな……欲しい……欲しい……!!」
瘴気が一気に増幅し、次の瞬間、木々がごうんと音を立てて倒れる。
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戦場の至る所で新たな決戦の火蓋が切られようとしていた。
――罪は連鎖し、戦いは終わらない。
最近とても読んでくれる方が増えていて嬉しいです。
七罪編も終盤戦に入りつつありますのでこれからも宜しくお願いします。




