眠気と怒気、裂ける決着
第40話です。宜しくお願いします。
怠惰の瘴気が一帯を支配していた。
瓦礫の街区、その中心。
羽仁真嵐と香坂柚璃は、膝に手をついて荒い呼吸を繰り返している。
頭が重い。意識が溶けるように暗転しそうになる。
「……眠れよ。楽になるからさ……」
スローのくぐもった声。
彼の口元は退屈そうに緩んでいる。
(……まずい……また……来る……)
羽仁は自分の脈が遅くなるのを感じた。香坂も同じだ。
二人は互いに目を合わせると、小さく頷く。
「風間さん……まだ……ですか……」
次の瞬間。
無音。
まるで空気が一瞬だけ消えたかのように感じた。
その刹那、スローの背後に風間忍が立っていた。
「……風か?」
「違う。“刃”だ。」
言葉と同時に《絶風空域》が再び起動。
だが今度は、瘴気を押しのけるのではなく、空気そのものを鋭利に研ぎ澄ませた“真空の刃”がスローへ奔った。
ズパァッ
スローの左腕が肘から先ごと飛び、空中で灰に変わる。
「……めんど……」
無表情のまま、それでもスローは微かに眉をひそめた。
「香坂!」
「はいっ、風間さん!」
香坂は両手を前に突き出し、《火華遊戯》を全解放。
無数の火の粒子が舞い、空気ごと踊る。羽仁はその間にスローの背後へ回り込み、《秒刻転換》を起動。
スローの時間が歪み、動きが緩慢に引き延ばされる。
「……そろそろ……寝る……お前らも……」
「違う……」
羽仁が低く言い、
「寝るのは……」
香坂が小さく笑って、
「……お前の方よッ!!」
火華が集中砲火となって襲いかかった。
最後に、風間が風を一閃。
スローの胸元から首へ斜めに走った真空の切裂きが、怠惰の夜を真っ二つにした。
スローは眠たそうに目を細めながら、 「……そっか……俺が……寝る番……か……」
そう呟き、瘴気ごと崩れ落ちた。
風間は剣を収めるように腕を下ろし、 「……油断するな。まだ終わっていない。」
香坂と羽仁は肩で息をしながら、それでも互いに小さく笑い合った。
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同じ頃。
崩れた商店街跡地。
丹羽大我は、王クラス《ハウリングレイジ》を見据えて立っていた。
右腕は白く、左目は悪魔のように赤黒く光っている。
覚醒し切らないオーラは未だ不安定で、足元に黒と白の光がにじむ。
「ヒャハハッ! おい、どうした“お兄ちゃん”よ!?」
ハウリングレイジは腹を抱えて嗤う。
「弟も……死ぬかもしれねぇなぁ。お前がここで止まってるせいでなぁ!!」
「やめろ……黙れ……ッ」
大我は頭を振る。
脳裏に、訓練で並んで笑った世界の顔が浮かぶ。
(世界が……俺の……弟……)
さっき突き付けられた事実が、未だ胸を締め付ける。
『大丈夫……君たちは光だよ』 『守るんだ……君の大切なものを』
(ミカエル……?)
『怒れ、愛せ、そして抗え』
(ルシファー……)
何度も聞こえた声。その声の意味が、今になって血に滲む。
「……もう……うるさい……!」
その瞬間。
《生物創生》が再び発動。
光と闇が交わる中で、大我の周囲に螺旋の紋様が現れ、そこから一頭の獣が頭をもたげた。
純白の毛並みと黒い翼を持つ――狼でも虎でもない、混ざり合った幻獣。
「行けッ!!」
幻獣が咆哮し、ハウリングレイジへ跳びかかる。
「おもしれぇッ!! もっと怒れ、もっと壊せッ!!」
だが次の瞬間、ハウリングレイジの表情が苦痛に歪む。
「……っ!? 俺の……怒りが……俺を、焼く……!?」
大我の左手から伸びた黒い線が、ハウリングレイジの感情を逆流させていた。
《感情操作》。
「……もういいだろ……お前は……」
大我は静かに歩み寄る。
「俺の……守りたいもののために……ここで終われッ!!」
全てのオーラを拳に集中し、覚醒したボディアンスロで膨れ上がった腕がハウリングレイジの胸に沈んだ。
「ぎ……ぁああああああッ!!」
地響きを上げて瓦礫が跳ね、瘴気が四散した。
やがて、ハウリングレイジはぐしゃりと潰れ、砂のように崩れた。
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大我は肩で息をし、オーラがゆらりと消えていく。
(世界……お前が弟かどうかなんて、もうどうでもいい。俺は……)
小さく笑い、前を向いた。
(ただ、お前を……守りたい。)
そして再び瓦礫を蹴り、戦場の奥へ走り出す。
最近投稿頻度が落ちている事、本当にすみません。
こんな感じの投稿頻度がしばらく続きそうです。
宜しくお願いします。




