眠りを断つ刃
第37話です。宜しくお願いします。
──朝日本部、中央戦線──
眠りの瘴気が地を這い、空気を満たしていた。羽仁真嵐と香坂柚璃はその濃厚な靄の中で膝をつき、意識を手放しかけていた。
スローの異能力《安息拡散》が周囲の精神を蝕み、音も光も緩やかに鈍らせていく。
「……これで、うるさいのも静かになった……」
スローは欠伸をしながら、無機質な目で二人を見下ろす。
その時だった。
──ザァ……ッ……!
風が、逆流するように戦場を裂いた。無音の中に、不意に一陣の殺気だけが走る。
「……風か?」
スローが呟いた直後、彼の背後に静かに現れる影があった。
「違う。“刃”だ」
風間 忍。
S階級の静かなる暗刃は、すでにスローの背に立っていた。
彼の異能力《絶風空域》が展開されると、眠りの瘴気が吸い取られるように空間から剥がれ落ちていく。
羽仁と香坂が、かすかに目を開いた。
「……あれ、今……」
「私たち……戻った?」
風間は静かに刀を抜いた。
「お前の異能は、空気を撫でるに足らぬ。風も、眠りも、斬って進むだけだ」
スローは初めて、わずかに眉をしかめた。「……面倒なやつが来た……」
そして、再び眠りの領域が押し寄せる中、無音の斬撃が交差する。
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──西側戦線:黒鋼一漢 vs グリー──
地響きが止まない。殴打と踏みつけが土を抉り、建物の外壁が次々と砕け落ちる。
黒鋼の肉体は汗と血で濡れ、だがその瞳は揺るがなかった。
「まだまだだろ、王クラス……!」
グリーの全身は《欲皮武装》で覆われ、異様な鎧のような姿と化している。
「ガハハ! こんな硬さ、誰が破れるってんだよ!」
黒鋼は拳を構え直し、相手の足の動きに注視した。
「その硬さ……速度を犠牲にしてるな」
次の瞬間、黒鋼の《局所集中》が発動。
足元から一気に駆け上がり、至近距離で拳を振るう。
「正面からの一撃……受けてみろッ!!」
拳と拳が交差する寸前、シーンは切り替わる。
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──南東戦区──
柊夢子と真野銃菜が、王クラスの夜を包囲する。
「……ねぇ、あなた。少し眠っていかない?」
夢子の《夢侵操縛》が王クラスの意識を曇らせ、まるで夢の中に閉じ込めるような柔らかい笑みを浮かべる。
王クラスの動きが鈍った瞬間、真野が生み出した銀の大剣が煌めきを放つ。
「はいはい、おやすみなさーい♪」
《武器錬成》による突きが貫き、王クラスは断末魔を上げて崩れ落ちた。
「変な夢見てる顔してたよ、可哀想♪」と夢子。
「悪夢に付き合う暇はないのよ、こっちが本物!」と銃菜が吐き捨てる。
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──北戦区:昇子・仙道ペア──
昇子は荒く呼吸をしながら立ち上がる。隣には仙道喰真。
「仙道先輩、すみません、助かりました……!」
「いいって、いいって。お嬢ちゃん、よく耐えたな」
仙道の周囲に漂う湿度が高まり、地面には小さな水滴が集まり始める。
「さあ、爆発しやすい環境、作ってやったぞ」
昇子は頷き、大気中の水分に意識を集中させる。
《水分爆発》が広域に拡がり、湿度と熱量の高まった空間で連続爆発を誘発。
「戦うのは好きじゃない。でも……逃げるのは、もっと嫌いなの」
二人の連携で、複数の騎士クラスが爆風に飲まれていく。
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──前線:ラース、現る──
艶やかに戦場に現れるラース。
「ふふ……さあ、あなたたち、私のことを好きになりなさい?」
その異能力《愛執侵操》が周囲に広がり、一般隊員が狂ったように同士討ちを始める。
世界がそれに気づき、息を呑む。
「操ってる……心まで……?」
ラースがこちらを振り向き、ウィンク。
「ねぇ、あなたも……私に恋しなさい♪」
戦場は、新たな混乱に包まれていく──
昨日はサボってしまいすいません…。
今日も何話投稿出来るか分かりませんがお願いします。




