拳と信念
第35話です。宜しくお願いします。
――地上界・戦線第七区。
「……こちら第七区、戦線崩壊寸前。至急、増援を……ッ!」
通信が途絶えた。 瓦礫と黒煙が立ち込める戦場に、白と黒のオーラが激しく交差していた。
朝日の本部周辺、最前線――そこでは既に“異常”が始まっていた。
七罪の一柱、グリー。 その異能《欲皮武装》は、まさに暴力の化身。
「ひひ、へへ……潰れろ潰れろ……ぜーんぶ俺のもんだァッ!!」
その巨大な拳が、ただの一撃で装甲ビルの壁ごと突撃部隊を吹き飛ばす。
グリーの攻撃に巻き込まれ、数名のC階級が動かなくなる。
それを見て、
「まだ生きてる者は、後退しろ……!これは俺がやる」
と、静かに歩を進める男がいた。
黒鋼一漢――S階級、第七戦線に配置された"義の拳"。
「おいおい……どっから出てきたテメェ……?」
グリーが片手をぶら下げたまま睨みつける。 黒鋼は、ゆっくりと戦闘体勢を取りながら名乗る。
「朝日・S階級。黒鋼一漢。 この拳が義に報いる限り、貴様の暴欲は通させん」
「はあ?義?正義? クッッソダサッ!この世界はなァ……力のある奴が勝つんだよォ!」
「だからこそ……貴様のような“力を欲に委ねた者”は、俺が止める」
その瞬間、 黒鋼の両腕から“強のオーラ”が迸った。
光でも炎でもない、極限まで研ぎ澄まされた純粋な重圧。
《局所集中》―― 彼の能力は、筋肉、骨格、関節、神経、その全てに一点集中させることで、 通常の攻撃を数十倍の圧に高める近接格闘術。
「行くぞ……ッ!」
黒鋼が突撃する。 グリーの巨大な拳が振り下ろされる。
衝突。
大地が跳ね上がり、爆風が戦場を裂いた。
◆
最初の一撃で互いの拳がぶつかり合い、グリーの腕がわずかに軋んだ。 だが、黒鋼も同時に膝をつく。
「……重い、か。だが、負けはせん」
「チッ、さっきのよりマシだな。じゃあ次は……全力だァッ!」
グリーの体がさらに巨大化していく。 皮膚が石のように硬質化し、筋繊維が盛り上がり異形の様相を呈す。
「“強欲”ってのはなァ……どこまでも望んで、喰らい尽くすって意味なんだよォ!!」
黒鋼は内心、焦りを隠せなかった。 これまで戦ってきたどの夜よりも強い。
その時――
後方に隠れていたB階級の1人が逃げ遅れ、倒壊する瓦礫が直撃しそうになる。
「ッ!」
黒鋼はとっさに方向を変え、そちらへ跳躍。 オーラを拳に集中、瓦礫を砕いて仲間を庇う。
その瞬間、グリーの拳が真横から叩き込まれた。
「ぐっ……!」
黒鋼が吹き飛び、建物の壁を何枚も貫通して地面に転がる。
血を吐き、膝をつく。
「くそ……俺が弱いせいで……っ」
だがその時、背後で救われた隊員が叫んだ。
「黒鋼さん!ありがとうございます!!俺、まだ戦えます!!」
その声に、黒鋼の拳が震える。
拳に再び“義”が灯った。
「……そうか。 ならば俺は、もう一度立つ理由を得た」
黒鋼がゆっくりと立ち上がる。
砕けかけた拳を握り、前を睨み据える。
「この拳は……誰かを守るためにある。 貴様のような破壊の化身には、絶対に屈しない……!」
その声に、戦線のいくつかから応援が届き始める。
黒鋼さんまさに漢って感じでカッコいいですよね。




