嗅ぎ取られた違和感
第3話です。宜しくお願いします。
朝日第3部隊の訓練場は、朝陽の下で静かにざわついていた。
獅堂声司が、豪快な声で隊員たちを集める。
「さて! 今日は新入りの紹介だァ!」
集まった隊員たちの前に並ぶ、3人の新人——虎威世界、丹羽大我、そしてもう一人の少女。
「鈴菜昇子だ、B階級の新人だ。こいつもお前らと同じく試験通過組だ」
昇子はツンとした態度で手を軽く上げる。
「……別に、仲良くする気はないけど。足は引っ張らないでよね」
「えらいの来たな……」と大我が呟き、世界は苦笑のような微笑を浮かべる。
「よーし、それじゃあ改めて“力”の話だ」
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訓練場中央に立った獅堂声司が、白線を引きながら話し始める。
「朝日では“スピリチュアルオーラ”ってのが基本だ。人間なら誰しも持ってる、内に秘めた異能の源泉だ」
「オーラには6つの系統がある。ざっと説明するぞ!」
◆ 強のオーラ……自分の身体や筋力、道具などを強化する。 ◆ 軟のオーラ……物質の形や性質を自在に変える。 ◆ 発のオーラ……火、水、風、雷……自然現象を自在に操る。 ◆ 特のオーラ……ルールや縛りを課すことで特殊な力を発揮する。 ◆ 天使のオーラ……癒しや創生、召喚など、聖的な力を扱う。 ◆ 悪魔のオーラ……精神干渉や感情操作といった影響力に特化してる。
「ここにいるお前ら3人も、それぞれオーラと能力が違う。じゃ、順番に見せてもらおうか!」
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最初に進み出たのは、鈴菜昇子だった。
「私のは“モイスチャーボンバー”。発のオーラ系統よ」
彼女が軽く手を振ると、空気中に湿気が集まり、小さな水滴が浮かぶ。 それが次の瞬間、
——パァンッ!
小規模な爆発が一斉に弾ける。水滴の位置すべてが起爆点だ。
「空気中の水分、地面の露、相手の汗や涙。水分ならなんでも使えるの。私に近づくと、後悔するわよ」
獅堂が腕を組んで唸る。
「おぉ……遠隔爆破に包囲殲滅、使い方次第じゃ一騎当千クラスだな……!」
昇子はその褒め言葉にもふくれっ面。
「……それでもB階級なんて、納得いかない」
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次に大我が一歩前に出る。
「俺は“ボディアンスロ”。軟のオーラ。身体の一部や全身を動物の身体に変えられる」
彼は右腕をゴリラのような逞しい腕に、左脚をチーターの脚に、そして鼻を犬のような形に変化させる。
「動物の特性を部分ごとに使えるんだ。筋力、速度、嗅覚、聴力……状況で使い分けられる」
獅堂が目を輝かせる。
「おお! これは応用の幅が広いな! 連携戦にも相性が良さそうだ」
大我は犬の鼻で周囲をクンクンと嗅ぎ始め、ふと世界の方で止まる。
「……あれ?」
「どうした?」
「……いや、なんか、お前の臭い……いつもと違う気がする。洗剤変えたとか?」
“世界”が一瞬、目を伏せるも、すぐに顔を上げて微笑する。
「気のせいだろ」
「……かな」
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最後に世界が前へ出る。
「《光紋結界》、発のオーラ。夜の接近や攻撃を遮断する、光の結界を展開する能力」
地面に手をかざすと、眩い光が放射状に広がり、空中に膜のような結界が浮かぶ。
「夜にしか効果がないが、侵入を許さない。範囲も自由に変えられる」
獅堂は顎に手を当てて頷く。
「三者三様だが、どれも個性的でいい……こりゃ第3部隊、ますます面白くなりそうだな!」
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その夜——
大我は一人で寮の外を歩いていた。 月明かりの下、静かな中庭で立ち止まり、空を仰ぐ。
「……やっぱり、変だ」
手を犬の鼻に変え、もう一度思い出すように匂いを嗅ぐ。
「……あれは“世界”の臭いじゃなかった……絶対に」
そう呟くと、大我は意を決して朝日本部の最上階へ向かった。
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司令室の扉をノックする。
「……入れ」
重厚な扉の奥にいたのは、虎威玄道。
「どうした、大我くん」
「……失礼します。虎威……世界のことなんですが……」
玄道の目が鋭くなる。
「……臭いが、いつもと違うんです」
「……そうか」
玄道は一瞬、目を伏せた後、椅子から立ち上がる。
「とうとう……やりよったか」
「え?」
「大我くん、ありがとう」
そう呟くと、玄道はそのまま早足で司令室を後にした。
大我はその背中を不安げに見つめる。
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——そして、虎威蓮二の部屋。
玄道が重く扉を開けると、蓮二は窓際に腰掛けていた。
「……世界を、どこへやった」
蓮二は振り返り、にっこりと笑う。
「……あーあ、もうバレちゃいましたか」
「……」
「もっと独占したかったんですけどねぇ……仕方ない、か!」
その笑顔は、確かな狂気に染まっていた——。
虎威蓮二は虎威世界の兄です。狂気的すぎますが…