遺された真実
第26話です。宜しくお願いします。
設定や登場人物を活動報告にまとめてあるので良ければどうぞ。
──虎威家・執務室。
静まり返る部屋の中に、世界の荒い呼吸だけが響いていた。
「父さん……俺は、何者なんだ」
机の前に立つ虎威玄道は、窓から差し込む夕陽に照らされながら静かに立ち上がる。鋭い眼光が、ほんの少しだけ揺れていた。
「……落ち着いて聞いてくれ。世界、お前のことは今まで一度も話してこなかった。だが、もう……話す時が来たんだろう」
そう言って玄道は、執務机の引き出しから一枚の古びた布を取り出す。それは、かつて赤子だった世界が包まれていたという柔らかな白布だった。
「ある日、私が任務から戻り、夜遅くに自宅の近くまで来た時のことだ。家の前で……何かが光っているのが見えたんだ。最初は街灯かと思った。だが、違った」
玄道は視線を布に落とす。
「その光の中にいたのが、お前だった。生まれて間もない赤ん坊が、布に包まれて、我が家の玄関先に置かれていたんだ」
「……光ってた?俺が?」
世界の声が震える。
玄道はうなずき、言葉を続けた。
「その時、すでにお前の身体からは、微弱ながら“結界”のような力が漏れ出していた。まるで自分の身を守るように。それが……あの《光紋結界》と酷似していた」
「……でも、異能力って……発現するのは普通、10歳前後だろ。なのに、赤ん坊の頃から力を?」
玄道の目が鋭くなる。
「それが、私たちにとっても最大の謎だった。異能力は、“スピリチュアルオーラ”が成熟して初めて形となる。だが、お前は最初から、それを備えていた……まるで“意図的に託された力”のように」
「…………」
世界の中で、昨日の出来事が蘇る。
──あの、角を持った男。黒く折れた羽根。名前を知らないはずの自分に向かって「久しぶりだな、メイソン……」と語りかけたあの存在。
「俺の父親を名乗る男が現れた。銀髪で角があって……折れた羽根を背負ってた。アイツが……俺に、“メイソン”って名で呼びかけてきたんだ。異能力も、今の《光紋結界》じゃなくて……“まだ眠ってる力がある”って……」
「……!」
玄道が息をのむ。
「そいつは、誰にも気配を感じさせずに俺の前に現れた。そして……“また会いに来る”って言って、消えたんだ」
静寂。
その場に重くのしかかるような沈黙が満ちた後──玄道はゆっくりと歩み寄り、世界の肩に手を置いた。
「……その者が誰なのか、私には断言できない。ただ一つ確かなのは……私と金糸雀は、お前を“本当の息子”として育ててきたということだ」
「……でも、血は繋がってない」
「そうだ」
世界の拳が震える。視線を床に落としながら、低く唸るように言った。
「じゃあ……俺は一体、誰なんだよ……!人間ですらないのか?なんで異能力がこんなに早く目覚めてたんだよ……なんで……!」
玄道は、そんな世界の頭を優しく抱き寄せた。
「たとえお前が何者であろうと、私たちにとっては“世界”だ。私の息子であり……お前の兄・蓮二にとっては、たった一人の弟だ」
「…………」
その言葉は、世界の胸の奥に深く染み渡る。
それでも、混乱と不安が消えるわけではなかった。まるで自分の存在の根幹が揺らぐような感覚。誰かに与えられ、導かれているような──そんな感覚。
「……俺は、本当に……俺なんだろうか……」
ぽつりと呟く世界の瞳は、まっすぐに揺れていた。
──そしてその夜。
遥か遠く、禍々しき黒の炎が渦巻く地獄の玉座にて。
一人の男が、暗黒の空を見上げながら呟いた。
「……もうすぐだ。あと少しで、お前に“全て”を教えられる」
その瞳は、確かに「虎威 世界」ではなく──「メイソン」を見つめていた。
とうとう真実が明らかになってきました。
出来れば、60話前後で終わらそうかなと思っているので
後、半分近くですね。実際は分かりませんが…。




