選ばれし者たち
第2話です。宜しくお願いします。
朝の光が差し込む中庭。
試験会場だった訓練区域の掲示板には、新たに張り出された一枚の紙。
「合否発表だ!」
ざわめきと共に、受験者たちが一斉に掲示板へ駆け寄る。
名前を指差し、喜ぶ者、崩れ落ちる者——反応はさまざまだ。
「……あった、俺の名前!」
丹羽大我は、自分の名の横にある「A階級 合格」の文字に目を見開く。
「マジかよ……俺、A……?」
「ふん、妥当だろ」
隣で掲示板を見上げる虎威世界——否、変身中の虎威蓮二が淡々と答える。
「……お前もBか。やるじゃん」
「まあな」
そう言いながらも、“世界”の目はほんの一瞬だけ、合格者一覧の最上段——S階級の空欄に目をやった。
その日の午後、朝日の本部講堂にて、合格者向けの説明会が開催されていた。
壇上に立つのは中年の男性職員。眼鏡の奥に光を宿しながら、重々しい口調で語り始める。
「本日をもって、諸君らは正式に朝日の一員となる」
「ここで、改めて組織の概要を説明しよう」
「朝日は、夜を狩る国家直属の特殊機関だ。
その脅威に対抗するため、隊員は五つの階級——S・A・B・C・Dに分類される」
大我が世界に小声で言う。
「これ、初めて聞くかも。詳しいんだな、あの職員」
「情報は力だ。よく聞いておけ」
「ランクは固定ではない。討伐成績や任務評価に基づき、部隊隊長の推薦があれば、朝日の最高責任者……虎威玄道の承認によって昇格・降格が決まる」
「現在、朝日には10の部隊が存在する。各部隊の隊長はいずれもS階級の実力者であり、全員がかつて国家を救った英雄たちだ」
「C階級およびD階級の隊員は、原則として部隊には属さない。地道に夜の討伐任務を重ね、実力を証明する必要がある」
「……本日、AおよびB階級の合格者には、例外的に即時配属が決定している」
会場がざわつく中、職員が名簿を読み上げ始めた。
「虎威世界──第3部隊配属」
「丹羽大我──同じく第3部隊配属」
「おいおい、第3って……あの獅堂声司隊かよ」「短気で有名な……」
囁き声が飛び交う中、会場後方から重い足音が近づく。
「おーい、お前らが新入りかァ?」
響き渡る野太い声と共に、筋骨隆々の男が姿を現す。
短く刈り上げた赤髪に、雷のような眼光。
男の名は、獅堂声司——第3部隊の隊長であり、S階級の一角を担う人物だ。
「獅堂隊長……っ!」
数名の訓練官が直立不動になる中、声司はにかっと笑いながら大声で続けた。
「よぉ、世界に大我だったな? 試験、よかったぞ! 動きが素直でパワーもある。何より、根性があるやつは俺の好みだ!」
「よ、よろしくお願いします!」
大我が反射的に頭を下げる。
“世界”は少しだけ遅れて「……よろしく」と短く答えた。
「ま、堅苦しい挨拶はこのくらいにしてだな。明日からガンガン鍛えるから覚悟しとけ!」
説明会終了後、世界と大我は仮配属の宿舎へ向かっていた。
「……なあ、なんかすごい部隊に入っちまった気がするな」
「……悪くないだろ」
「うん。なんか、やっと始まったって感じするよ」
廊下には、他にも同期と思われる者たちが行き交っていた。
「CとDは部隊に入れねぇのか……俺ら、運が良かったんだな」
「実力があっただけさ」
“世界”がそう答えたとき、背後から誰かの視線を感じた。
だが、振り返っても誰もいなかった。
その頃、朝日本部・最上階の司令室——
巨大なモニターと資料の山の中に、一人の男が腰を下ろしていた。
虎威玄道。
朝日を束ねる男であり、虎威家の当主。
手元の資料に目を通していた。
「……虎威世界、B階級……か」
ページをめくり、試験記録と能力データを確認する。
「遂に、あいつも朝日の仲間入りか……」
「B階級の判定か。ふむ……俺の目から見れば、A階級くらいあっても不思議じゃねぇんだが……」
「……まぁいい。時が来れば、すべては明らかになるだろう」
その背後を、一人の職員が静かに通り過ぎた。
玄道の目が、その職員の背中にわずかに目を細めた。
合格して良かったですね…!
虎威玄道は因みに虎威世界の父親です。