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愛息子との再会



金色に変えた髪をハーフアップにし、服装に乱れがないかをチェックする。

「よし!準備完了」

 今日は学園の入学式、進級式。私は新任の先生として教鞭を取ることになる。

教師になるのは初めてだが、昔教えるのは得意と言われたことがある。

勉強も魔法も得意なので心配はない。一つ気にかかるとすれば生徒たちと仲良くなれるか。もとい、息子に嫌われないか。ヴェルリアのためにも自身が母親であるということは伏せなくてはいけない。

 深く息を吐く。

 取り敢えず最善を尽くそう。

「リラン、準備はいいかい?」

 ジェシカにそう問われ、頷く。そして教室の扉を開いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――ガラッ。

 扉を開けた瞬間多くの視線がこちらに突き刺さる。中には魔力を使った力量の見極めをしている子もいる。まあ、学生に勘付かれるほど雑な魔力制御ではないので気にしない。

 (やっぱり第一印象は大事よね)

 ニッコリと微笑む。

「みなさん初めまして。今日からみなさんの担任になる、()()()()()()()()()()です」

 あらかじめ決めていた偽名を名乗る。ヒソヒソとささやき合う声が聞こえてくる。

「先生はいつまでいるの〜?」

 突然間延びした声が聞こえた。明らかに嘲りの感情が込められている。それにしても、どういう意味?

「ジョビタンみたいにすぐ辞めるんでしょ」

 先ほどとは違う生徒がその声に答える。ジョビタン…確か前任の先生だったはず。先生を呼び捨てにして、バカにした表情だ。

「今度は何ヶ月続くか賭けようぜ!!」

 また、違う生徒が叫ぶ。ちらっと、教室の外にいるジェシカに視線を向ける。怒ってはいるようだけど止める気は無さそうだな。少し見当はつくけども、なぜか気配を消して潜んでいる。

 (はあ、気が重い。もしかしなくても問題児たち…)

 半ば顔は引きつっているが笑顔を維持する。こういう時はどう声をかけるべきか。


「おい、みんな先生が困ってるじゃないか」

 そう声を上げたのは教室の最前列中央にいる男の子。肩まである黒髪をハーフアップにした、中性的な美少年。濃い藤色の瞳が私を射抜く。そう、射抜かれた。

 (かっこい〜…私の息子かっこいすぎる)

 こんな問題児だらけの教室を纏めているのか、誰も息子に対して悪感情を抱いていないみたい。

 (師匠はジェディに似てると言ってたけど、確かにジェディもクラスのリーダー的存在だったし…)

 心の中で息子が真っ当に育っていることに安堵した。…のも束の間。

「まあ、みんなの気持ちも分かるけどね」

「…え?」

「「「あはははははは!!」」」

 途端に教室中が笑いに包まれる。

 (な、まさかね…?)

 思わずちらっと息子を見る。悠然と微笑んでいたのに私と目が合った瞬間…

「ぷっ…ははははっ!!あ〜、ホントに面白い…まだ、間抜けな顔してる」

先ほどまでの貴公子然とした雰囲気は霧散し、大口を開けて笑っている。

 (うっ、ウソだ!私の可愛い息子が、こ、こんな…!信じない!!私は信じないぞ)

学園の二年生、つまるところ14歳になろうとしている子供達。やはり最上級クラスだからか明らかに他者を見下ろしている感じがする問題児クラス。その中でも一際不遜な態度を取っているのが我が息子、ヴェルリア・ディディ・エルタシアだという十分にショックな情報を入手してしまった。

 (せんせぇ、ジェディ…どういうことよ〜!!)

涙を必死にこらえて前を向く。私は明るく言い放つ。

「では出席を取ります…」

「はっ、情けない。いい大人が何怖気づいてるんだよ」

はうっ!!だめだ。もう持ちそうにない。あんなに、あんなに天使だったのに!わたしのヴェル君がー!!

プルプルと震えて下を向いた私を見て、師匠は慌てたような顔をし、教室に入って来る。

「いっ、いけない…止めないと…!待ちなさい、リラン!!」

その瞬間教室中に一陣の風が通り過ぎた。驚いた生徒たちが前髪を逆立たせながら前に注目する。そして新米教師を見て凍りついた。

(何なんだ…!!この魔力!?人間じゃないだろ!!)

ヴェルリアは心の中でそう悪態をついた。依然として口は悪いがその顔は少し強張っている。本能で悟ったのだ。コイツには勝てないと。

「もう、どういうことよ…こんなんじゃ先が思いやられる…」

生徒たちが怯えているのにも気づかずリランはとうとう泣き出していた。先ほどまで緑色だったはずの瞳は青色に輝いていた。

「ほら、泣き止みな、リラン。今日から先生だろ!張り切っていたじゃないか」

 ジェシカがリランをなだめにかかる。圧倒的な魔力の圧に気圧され生徒たちは声も出ない。

「うっ、せんせぇ、私駄目じゃないですかぁ」

「大丈夫だから泣きやんでおくれ」

うわぁ〜んと、リランはジェシカの腕の中に飛び込んだ。困ったように笑いながらもジェシカはリランの頭を撫でて宥める。

(懐かしいねぇ、大きくなってからはあまり無かったからねぇ〜)

恐らく久しぶりの生活で上手く制御が効かなかったのだろう。昔から強すぎる力を持っていたリランは感情で魔力が暴走する癖があった。

「よしよし、大丈夫だ。お前もいい大人なのだから、子供達の見本にならなくちゃ…お前達も気をつけなよ。この子は感情でたまに魔力の制御が効かなくなるからね。赤は怒り、青は悲しみ、黄色は喜び、ピンクは興奮、紫は激昂した時…あと緑はすねてる時だったかね、まあ、嫉妬だよ。あと…いや、取り敢えず気をつけなよ」

一同は唖然とした様子だった。そのショックからいち早く立ち直ったのはヴェルリアだった。

「待てよ、学園長。魔力の制御が出来ないなんて教師失格だろ!!」

ヴェルリアの叫びにまだ、ジェシカの腕の中にいたリランの肩がビクつきまた震えだした。それを見た生徒たちが身構える。ジェシカはリランの背中を撫でながらヴェルリアを見た。

「こんなこと、大人になってからは無かったんだけどね…まあ、緊張したのだろうよ。今日くらいは大目に見てくれないかい?」

「……」

ジェシカの言葉にヴェルリアは憮然とした表情を作る。なんだかんだ言ってここまで育ててくれたジェシカには強くは出れない。他の生徒もジェシカが強者だということを知っていて、尊敬している。

「ったく…わかったよ」

「ありがとう」

ジェシカはホッとしたように笑った。ヴェルリアはその意味を深くまで知ることは出来なかった。

 その日はそのままお開きとなったが、後にこの事件は『ヴァーメイン凶行の始まり』と称された。

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