第3話 転生召喚
遠くの方から声が聞こえてくる。
「……魔族を……我らを……」
広大な魔法陣が魔術師たちによって展開された。
その様子を王族や貴族、騎士団たちが固唾を呑んで見守っている。
「勇者召喚!!」
魔法陣が光輝いた。
光が落ち着くと、そこには呆然と佇む14歳くらいの男女3人と転生体の自分がいた。
「やったぞ! 成功だ!」
魔術師たちが叫んだ。
それにつられて周りが大いに盛り上がる。
「よくぞ参られた! 勇者様方!」
ここの王様だろう――いかにもな感じで話しかけてきた。
我々の様子を伺っている。
「余はリグーダ王国の現国王、ルドラ・オルド・リグーダである。貴殿らは魔族を討つべく召喚されし勇者である!」
しばらく沈黙が続いた後、堰を切ったように召喚された1人の男の子が声を出した。
「俺が……? 俺たちが? 勇者……?」
困惑した様子で目を泳がせる。
「左様! 貴殿らこそ、選ばれし勇者なのだ!」
今度は宰相の立場であろう人が前に出てきた。
「や、やった! すげえよ! やべえ!」
いかにも年頃の男の子といったところだな。
あからさまに興奮しているうえ、先程と打って変わって目が輝いている。
一方、女の子2人の方はお互い寄り添ってへたり込んでいる。
無理もない。普通はこうなるだろう。
しかしながら――魔族、勇者召喚とは一体。
自分は1度死んだのだから、転生だよな。つまり転生召喚?
うん。女神様、私はどうなっているのでしょうか。
もう少し詳しい話を聞いておくべきだった。失念した。
(ざわざわ……)
周りが少し騒がしくなり始めた。
こちらに向けられているであろう視線が刺さる。
「あんな子供が勇者なのか……? 勇者は異世界人だと聞いているが、あの子はどう見ても……」
自分の容姿を確認したい。どうなっているんだ。
鏡はないのか――ガラスの反射でも良い。
あたりを見まわしたがそれっぽいものはない。
つまり自分の現状が全くわからない。
「ごほんっ……まずは勇者様のステータスを確認致しましょう、陛下」
先程の宰相が王に進言した。
「ふむ。悪いが、貴殿らのステータスを確認させてもらう」
王命により十数人の魔術師が動き出した。
我々4人はその魔術師たちに囲まれ、ステータスを鑑定された。
「――、鑑定!」
何やら長い詠唱を唱えていた。
『鑑定』という言葉を良い終えた瞬間、皆のステータスが出てきた。
「おお! これは素晴らしい!」
余程素晴らしいステータスだったのだろう。
魔術師たちの歓声が上がった。
男子の名は、ヨータ・イイダ。
職業は剣士で剣神の加護をもっていた。
黒髪ロングの子の職業は聖女。
名は、アオイ・ヤマシタ。
慈愛の神の加護もちで、光属性の魔法適性があるようだ。
眼鏡をかけている子は賢者。
彼女は、エミ・ヨシダ。
なんと知恵の神の加護と魔法神の加護の2個もちだった。
3人とも『勇者のタマゴ』という称号があった。
加護もちであるだけでも凄いのに個々の能力値も高い。
将来が期待できる人材に周囲の大人は喜びを隠せないようだった。
そして自分は――
「この子は5歳ですので、職業スキルが得られるまであと3年です。しかしこれは……」
嫌な予感。
視線の高さから幼子であることはわかっていたが、まさか5歳とは。
「この子のステータス値はいたって普通です。特殊スキルも加護も持っていないようです……称号もありません」
やはりか――いや待て、これには何か理由があるはずだ。
とりあえず平静を保とう。
「なんと!? 一体なぜ召喚されたのか……」
嫌悪の視線を感じた。
王族や貴族からすれば、国に利益の無い者など邪魔でしかないのだろう。
ここでもまた権力者に逆らうことはできない。
しかしこれはまずい状況だ。ここは先手必勝だな。
「ごほんっ」
お、こんな感じの声質なんだ。
気を取り直して、まずは挨拶だな。
僕は国王の前に出て、女神様の前で誓ったときと同じ姿勢をつくった。
「恐れ入ります、国王陛下。突然失礼申し上げます」
その場が騒然とした。
それもそのはずだ。幼い子が自らその場を収めようとしているのだから。
(しまった。5歳児はここまで礼儀を気にしないか。まあ不敬を働くよりはましだな……)
「残念ながら私は陛下のお役に立てないようです。城外へ出て己の生き方を模索していきたいと愚考致します。つきましては生活基盤ができるまでの間、国に滞在する許可を頂けないでしょうか」
またもやしばらく沈黙が続いた。
「模索? 愚考?」
先程の男子が言葉の意味を理解できていないようだ。
女子2人が静かに説明してあげている。
勉強頑張れ。少年。
その声によって、ハッとしたお偉いさんたち。
今現在起きている事象に驚きつつも処遇をどうするか話し合い始めた。
結局すぐには決断できないということで、本格的な会議を行うことに。
僕は別室で待機することになった。
別室に案内され1人になったところで、自分のステータスを確認した。
僕のことが露見すると面倒事に巻き込まれそうだったため、静かに1人で見たかったのだ。
「ステータスオープン!」
お、出てきた。さすが異世界。
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氏名:マルクス(・オリエンス)※秘匿
種族:人族(?)※
年齢:5歳
職業:(マモリビト)※
【 H P 】 100/100 【 M P 】 ー/ー
【 体力 】 D 【 筋力 】 D
【物理攻撃】 D 【物理防御】 D
【魔法攻撃】 ー 【魔法防御】 ー
【 知能 】 C 【 幸運 】 D
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氏名はマルクス・オリエンス。
オリエンスって……女神様と同じだ。ちなみに家名は秘匿設定。
うん、だろうな。じゃなきゃ困る。
種族は『人族(?)』だ。
うん、一旦置いておこう。
年齢は5歳。
能力値は上記の通りだ。魔法適性はないのだろうか……?
宰相さんの話の通り、8歳で授かる職業スキルはまだない。
だが、職業の欄には記載がある。【マモリビト】と。
【マモリビト】というのはおそらく邪神封印のことを指しているのだろう。
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○固有スキル
(【アルディアの加護】)※
状態異常攻撃無効化。精神攻撃無効化。
生き物との意思疎通ができる。狩猟スキルの獲得。
(【限界突破】Lv. ∞)※
スキルの獲得が無制限。ただし条件付き。
(【言語理解】Lv. ∞)※
すべての言語の会話、文字の読み書きを行うことができる。
(【異空間収納】Lv. ∞)※
異空間に収納スペースが存在する。その規模に限界なし。
【鑑定】(Lv. ∞)※
自他ともにステータス情報を確認することができる。
なお自分よりレベルが低い『鑑定』が行われた場合、秘匿対象のみ見ることができない。
【狩猟スキル】Lv. 1
狩りの成功確率の上昇。道具を扱う技術もすぐに獲得できる。
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○職業スキル
【ー】
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家名や職業の他にも、固有スキルの大半が秘匿されている。
それにしても数が多い。
女神様ありがとうございます。
職業スキルはこれから得られるのだろう。
一体どんなものが得られるのか。
僕はあれこれ想像を膨らませていた。
お読み頂きありがとうございます。