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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
最終章
97/112

◆第十話 決戦の始まり 2

 捕虜となったアイエンド軍は全員が属国の兵士だった。以前ハグミやテンテンと一緒に来た十人の兵士と同じケール王国の者も少なくない。その兵士たちは再会した。

「お前たち生きていたのかよ!」

「ああ、ギルアバレークに寝返っていたんだ」

「裏切ったのか?」

「そうなるな。でもアイエンドと戦う方を選んだって言った方がいいな」

 捕虜たちは驚愕する。

「か、勝てるわけないだろ!」

「そうだな。でもここにいるともしかしたらやれるんじゃないかって思っちまうんだよ。実際、お前ら十万人もいて負けただろ?」

「そ、そうだけど、まだアイエンドの本国は無傷だぞ……」

「よお、故郷の知り合いか?」

 そこにフラッとアークが現れた。

「あ、陛下! 昔の同僚です」

「へえ、お前らケール王国の兵士か。たくさん殺して悪かったな。まあやり返しただけだから許してくれよ」

 アークの登場で捕虜たちがざわつく。

「あ、あれが《魔人殺し》……」

「あの、エンパイアで五百人を殺したアーク・フリード・ギルアバレーク……」

 そこで一人のケール王国の兵士がアークに聞いた。

「陛下、アイエンドに勝てると思っているんですか? まだ向こうには九十万人の兵士がいるんですよ」

「このままじゃまだ勝てねえな。でもお前たちアイエンドの属国が俺たちに付いたらもうわかんねえぞ」

「それでも足りませんよ……」

「オレたちは今アイエンドに対抗する同盟を組んでんだよ。全部ひっくるめりゃあ戦力は六十万人くれえにはなるな」

「そ、そんなに?」

 捕虜が一気にざわめいた。そんな話は初耳だ。

「同盟は平等だ。こないだも東部の戦争でオレたちやエンパイア王国の兵士が血を流した。何千人も死んだけどよ。その代わりオレたちが戦うときには東部の連中が助けてくれる」

「他国の応援で血を流したんですか?」

「そうだ。でもそれが同盟じゃねえか。もしお前らの国が仲間になっても同じことさ」

 じゃあな、と一言残してアークは去っていき、属国の兵士たちはみな黙っていた。


  *


「アークや、捕虜たちに種は撒いてきたかの」

 会議室にてノーグは言った。

「言われた通りにできたかわかんねえけどな。一応、話はしたぜ」

「うむ、四天王の一人を捕らえんじゃ。ここは勝負を仕掛けるときじゃよ」

「まだ合同訓練場や基地もできたばかりだぜ。早くねえか?」

「鉄は熱いうちに打たねばいかん。アークよ、アイエンドの属国を吸収するぞい。それができたらいよいよ決戦じゃ」


  *


「へえ、ナウの尋問終わったのか。よくあいつを喋らすことができたな」

「あたしの女子力を持ってすれば簡単よ」

 あの寡黙な吸血鬼、ナウの尋問をハグミが終わらせたと聞いてアークは感心した。

 実はハグミも手を焼いていたのだ。何を聞いても「ん……」しか言わない。そこで藁をも掴むつもりでナウをヤスコに会わせてみた。すると───

「ん? こいつ見覚えあるな。アイエンドの吸血鬼だったか?」

 そう言うヤスコを見て、ナウは冷や汗をダラダラと流していた。ハグミは女?の直感でこれはイケると思った。

「団長、このナウちゃんてば聞いたことに答えてくれないのよ。ちょっとシャイなのよね」

「喋りたくないなら無理に喋ることはないぞ。なあ、吸血鬼」

 そう言って顔を近づけたヤスコに、ナウは首を横にブンブン振った。冷や汗が飛び散っている。

「ひ、筆談なら……」

 ボソっとナウが喋った。そこからナウは聞かれたことに対して紙に書いて答えていった。どうやら話す気がないのではなくて喋ることが苦手なようだ。そのような手段でハグミは尋問を進めたのだ。


「それで判明したのがこれじゃな?」

 会議室で資料を手にするノーグ。尋問で判ったことは、

・王は元々いない。ナウたちが仕えるのはルナという少女で吸血鬼の始祖であり今は眠り続けている。

・宰相エピックは千年前の人間。四天王の眷属となっている。

・十騎士は高レベルの騎士を殺し続けている。目的はルナの父親のナギを生き返らせるため。

・魔女狩りはルナの母親、アイを見つけるために始めた。そのアイには一度会っているが、上位の吸血鬼と争って逃げられた。

・魔女認定委員会はすでに金や権力を手にするために人間によって私物化されている。


「これはまた……、とんでもない国じゃったのう」

「ああ、もう魔境だな」

 アークにとっても衝撃の事実だった。魔物が国を動かしていたとは。

「だが、腑に落ちる所もあるのう」

「どこがだ?」

「アイエンドの上層部に人間らしさを感じなかったんじゃ。自国の軍がやられてもやけにのんびりしておったじゃろ? しかし、逆に魔女認定委員会はある意味人間らしい。欲望の臭いがプンプンするわい」

「なるほどな。人間が欲にまみれても魔物連中にはどうでもいいってことか。それで魔女認定委員会も調子に乗り過ぎたってわけだな」

「おそらくのう。だがこれで属国の吸収はやり易くなったとも言える」

「親分が魔物じゃ嫌だってか。信じるかな?」

「さあ、そこはお前さんがうまくやるしかないのう」

「できるかな? また作戦考えてくれよ」

「お前さんは本当にまあ……」

 すでにノーグの操り人形となることにすっかり慣れていたアークは、またもおんぶに抱っことなりノーグの作戦を頭に入れる。

「あとは腑に落ちないのはナウじゃのう」

「あの女がどうした?」

「仮にも純血種の吸血鬼で四天王じゃろ。なんでここまで素直に喋ったのかのう」

「そういやそうだな」


  *


 アークは再度ナウの元に行ってみる。鉄格子付きのドアを開けると、そこには首からメモ用紙を紐でぶら下げたナウがいた。

「邪魔するぜ」

「ん……」

 簡易ベッドに机がひとつ。そこにある椅子にアークは座った。

「なあ、お前らの探していたアイは一度会ったんだよな? なんで逃げたんだ?」

 ナウはメモに何やら書き出した

『アイが魔女狩りをやめさせるように言いに来た。でもシオンたちがアイを殺そうとしたから逃げられた』

「そのシオンたちってのは上の三人か?」

「ん……」

「なんでそいつらはアイを殺そうとするんだ? ルナの母親でルナが探しているんだろ?」

『私たちもルナ様もアイもナギ様に作られた存在。それなのに敬愛するルナ様の母親でナギ様の妻となったアイが気に入らないからだと思う』

「なんだよそれ、嫉妬か? ナウ、お前はどうなんだ」

『私はルナ様が母親だと思っているならアイに会ってほしい。もちろんナギ様にも』

「そうか、まあ親はいた方がいいよな。せっかく生きているならよ。でもナギって神様は死んでいるんだろ? オレの弟子が会って話したみてえだけどよ」

「……!」

 ガタッとナウが立ち上がる。

『どういうことですか? ナギ様と会った?』

 ナウはアークに迫り寄った。

「うおっ、なんだよ。会ったのはオレじゃねえよ。ディアっていうオレの弟子だ」

『その人に会わせて下さい』




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