◆第四話 連合結成
セント共和国には東部小国郡と同盟を結ぶために各国の首脳陣が集まっていた。
セント共和国代表 ダンク
プールイ共和国代表 モイセス
ビス王国将軍 アラント
ギルアバレーク王国将軍 ジローニ
エンパイア王国国王代理 イリア
そこにアスピ族の族長ワイズが加わった。上下白のスーツに白いハット。目には薄いサングラスをかけ、部下がドアを開けた黒塗りの魔導リムジンから葉巻を咥えながら降りてきた。ちなみに部下たちは黒いスーツに濃いサングラスである。
「おい、アラント。アスピ族って森の一族じゃなかったのか?」
「ジローニ、儂はもう慣れた」
アラントとジローニは、セント王国の戦乱以降もよく魔導通信で話す間柄だった。
各国の首脳はセント共和国の首都にあるホテルへと案内された。プールイ共和国の高級ホテルほどではないが立派なホテルである。あの騒乱からの復興が進んでいることがよくわかる。
その大広間に東部小国郡の代表たちがすでに揃っていた。五カ国同盟の首脳陣が広間に案内されて、話し合いが始まった。
*
東部小国郡は全部で七カ国ある。現在、ジラール王国の友好国という名の属国だ。
「───では現在皆さまの国ではジラール王国との同盟条約は存在しないのですね?」
エンパイア王国国王代理のイリア・ドクソンがこの話し合いの場を仕切る。
「はい、特に書面を交わしたりはしておりません。私たちの各国にジラール王国の軍が駐留しておりましてそこからの指示に従っております」
どうやらジラール王国と小国群は正式な同盟条約は結んでいないらしい。
「ではこちらと同盟を結んだと同時に叩いても問題ありませんね。皆さんどうですか?」
五カ国同盟の一同は頷き返す。
「ちょっといいか」
「はい、アラント将軍。どうぞ」
ビス王国将軍のアラントが発言する。
「いや、同盟には異論はない。ただ七カ国を加えると、これまで通り五カ国同盟というのはおかしいんじゃないかと思うのだが」
「それもそうですね」
正確には十二カ国同盟となる。今後も増えるかもしれない。
「では同盟の名称を決めましょう」
イリアがそう言うものの、はっきりとした意見はでなかった。同盟の盟主であるギルアバレーク、ビス、エンパイアは国王の代理。
プールイ、セントの両共和国は代表が出席しているが自ら前に出て《白い悪魔》に意見を述べるほどの勇気はなかった。そこでビス王国将軍のアラントが言った。
「元々この同盟は誰が始めたのだ?」
「それではフリード連合の署名式を始めます」
次の日。五カ国同盟の面々と新たに同盟に加わる七カ国の代表が向かい合って長机に座っていた。
同盟の名称は創始者の名前から、〈アーク連合〉、〈フリード連合〉、この二つに絞られた所で多数決となり、本人の全く知らないところでアークの家名、フリードの名を使うこととなった。
「元はリオン陛下の与えた家名ですので、陛下も喜ぶと思います」
イリアも上機嫌だった。他の代表者たちは《魔人殺しのアーク》の名が知れ渡っているので少しでも物騒なイメージから遠ざけるようにフリード連合に投票したのだ。
新たに加わったのは、デリス王国、アルビア王国、サン王国、ブリントン王国、コップ王国、チェルシー王国、ユナイド王国、の七カ国。
全て王本人、または皇太子などの王族が出席している。この中で代表者のような位置付けになるのはデリス王国のジョン・デリス国王だ。他の国の王は高齢であったが、四十代と王の中では比較的若い王だった。
七カ国はそれぞれ小国とはいえ、プールイ共和国よりは規模の大きな国だ。全部合わせればビス王国やセント共和国よりも国土は広い。
そして今回締結されるフリード連合。各国の途中に森や山脈なども含まれるが、全部合わせればジラール王国よりも大きい。一つの国だとすればアイエンド王国に次いで大陸で二番目に大きな国となる。大陸の勢力図は大きく変わろうとしていた。
同盟の締結がおこなわれると、さっそく小国群それぞれにフリード連合の兵が配置される。ジラール王国の駐屯地を同時に襲う予定だ。各国にはおよそ千から二千人のジラール兵が駐在している。合計すると他国におよそ一万人も派遣しているのだ。それだけで国の規模がよくわかる。
対して七カ国の方はデリス王国、アルビア王国、サン王国の軍がそれぞれ三千人ほど。あとは大体千から二千人ほどが国の全戦力であった。
仮に七カ国が全て手を組んだとすると一万五千人ほどの戦力となるが、ジラール王国は三十万人ほどの戦力を持つ。到底刃向かえるものではなかった。
作戦は簡単だ。七カ国同時に連合加入の声明を発表する。各国のジラール兵には不法滞在として勧告をおこない、駐屯地を同時に攻撃する。そのときに捕れる捕虜は生かす。後にジラール王国も連合が獲るつもりなのだ。
今回最も多くの兵を出したのはビス王国の二万人。ただし、憲法上ジラール王国へ攻め込むことはできない。
七カ国は合計して約一万五千人。
セント共和国は五千人の兵を出す。こちらもほぼ全戦力である。
プールイ共和国は千人。それでも約七割ほどの戦力。
アスピ族からは三百人の戦士たち。その中にはナルハ族も混じっている。少数だが一人一人の戦力は高い。
ギルアバレーク王国からは二千人。ただし個人で強力な戦力が六人程いる。そして兵の強さも群を抜いていた。
エンパイア王国からは一万人の兵士。すでに死ぬつもりの一万人だ。もっとも恐ろしい存在だと言えた。
侵略のできないビス王国を省いたらおよそ二万三千三百人。そのうち一万五千人は新参の七カ国からというのが、こちらの全戦力だった。
「三十万人の兵を持つ相手とケンカか」
「気が重いか? アラント」
作戦前夜、ジローニはアラントと酒を酌み交わしていた。
「いや、儂らは侵略できぬからな。七カ国を守るだけだ。だがそうなると前線は圧倒的に数で負けているであろう」
「そうだな、こっちはかき集めて二万ちょいってところだ。だが、俺たち二人で三十人を相手にケンカすると思えばどうだ?」
「……それならやれそうな気がするのう」
「はは、そうだろう。まあどうにかなるさ」
ジローニはそう言ってグラスを傾けた。
*
その日、小国群七カ国は同時に声明を発表した。
『我が国はフリード連合に加入する。同盟国以外の不法滞在者は直ちに国外へ追放とする』
七カ国に駐留していたジラール王国兵は寝耳に水だった。今まで逆らったことのない飼い犬が噛みついてくるとは。そんな気持ちだった。
「フリード連合ってなんだ?」
ジラール王国軍は聞いたことのない連合の名前に戸惑っていたが、実際に大国である自国に刃向かってくるとは思えなかった。しかし、小国の軍隊はやってきた。強力な助っ人を連れて。
数日前、フリード連合の面々は作戦会議をおこなっていた。
「───攻め込むと同時に国境を固めなければならないな」
「ではそちらは儂らが行こう」
七カ国のうちジラール王国との国境に面しているのはデリス王国、アルビア王国、サン王国、ブリントン王国の四カ国だ。
残りのコップ王国、チェルシー王国、ユナイド王国はセント共和国側に面している。
アラント将軍の率いるビス王国軍は侵略を禁じているので、同盟国の防衛に徹する。つまり、ジラール王国の本隊を七カ国の中に入れないのが仕事だ。そこでビス王国軍二万人はジラール王国に面した国境に向かう。
そして国境に面する四カ国はそれぞれ千人の兵を駐屯地の襲撃に行かせて、残りを国境に向かわせる。デリス王国、アルビア王国、サン王国が各二千人。ブリントン王国が千人。合計七千人の兵が国境へ向かう。エンパイア王国軍も半分の五千人を国境へ向かわせた。よって、ひとまず国境側には合計三万二千人の兵が向かうことになる。
残る襲撃側はデリス王国が千人の兵、そこにジローニとトギーが率いる四百人のギルアバレーク軍が合流する。
アルビア王国は千人の兵にハグミとテンテンの六百人の兵士が加わる。
サン王国は千人の兵にエルフィンが率いる五千人の兵。
ブリントン王国には千人の兵にセント共和国の五千人の兵。
コップ王国は全戦力二千人にプールイ共和国の千人が合流。
チェルシー王国は全戦力千人にアスピ族らイクスの森の戦士が三百人加わる。
ユナイド王国は全戦力千人にエンパイア王国の残り五千人が合流した。
標的のジラール王国駐留兵は、デリス王国、アルビア王国、サン王国にそれぞれ二千人、残りの四カ国に千人程となっている。
「───チェルシー王国だけ千三百人で数が少なくないか?」
「そういうジローニ殿のところも二千人相手にそちらは千四百人であろう。こちらは何も問題はない」
葉巻をプカーとふかしながらアスピ族の族長ワイズが答える。
(まあ、確かにレベルが高い奴が揃っているからな)
「そうか、じゃあみんな手筈通りに頼む」
ジローニは自軍の構成をそれで良しとした。
そして各国が軍勢を配置させたのち、小国群から同時に声明が発表された。