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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
最終章
85/112

◆第二話 覚悟の違い



「ヒャッハァアア!」

 エンパイア軍対ギルアバレーク兵士団。その実戦訓練はギルアバレークの突撃から始まった。

「来たぞ! 魔導騎兵隊だ!」

 エンパイア軍は土嚢を積み上げていく。一万人のうち半分の兵士がスコップを持っていた。あっというまに簡易的な防御陣地ができあがる。

「撃てーっ!!」

 そこにギルアバレークの魔法部隊が魔導ライフルを撃ち込む。魔導騎兵隊の援護である。

「退避! 土嚢に隠れろ!」

 素早く身を隠すエンパイア軍。鉛玉ではないが、当たれば怪我をする弾丸が襲いかかる。しばらくやり過ごすと、ギルアバレークの発砲音が鳴り止んだ。砲身を冷ましているのだ。

「今だ! 騎馬隊出撃!」

 エンパイア軍から二百騎の馬が走りだした。普段から銃声に慣らしてある選りすぐりの軍馬だ。

「魔導騎兵隊を取り押さえろ!」

 さらに数人の歩兵がギルアバレークの魔導騎兵隊に襲いかかる。魔導二輪車に轢かれたら大怪我することはは間違いない。しかし、一台に対して十人の命知らずが飛びかかる。

「ひゃっはああ……」

 次々に死亡判定の光を放つ魔導騎兵隊。ギルアバレークの奇襲を、エンパイアが見事に抑えつけたのだ。エンパイア軍の騎馬隊はその勢いのまま本陣へと突き進み、そこに続く歩兵たち。その数は百人の中隊が十六隊もあった。

「囲まれるな! 突撃で背後を取れ!」

 ギルアバレークの小隊が素早く突っ込んでいく。数では劣るので、狙いを分散させて囲むのが狙いだ。

「止めろ! 死んでも構わん! むしろ死ね! 訓練だと思うな!」

 その精鋭を、なにがなんでも通さないようにエンパイア兵が襲いかかる。隊列もなにもなく、まるで虫が群がるように。そこに敵味方関係なく矢が降り注ぐ。自軍の兵士に当たっても構わない。そんな意思が感じられた。

「う、うわあああ」

「くっ、トシオ! なんで訓練だとあんなに弱いんだ!」

 お互いに次々と死亡判定されていく。実際に怪我をする者も多数でてきた。


「ねえハグミ、これヤバいんじゃない?」

「そうね。エンパイア軍は一人一人の戦闘力はそれほどじゃないわ。でも一体となると恐ろしいわね」

 テンテンの問いに答えたハグミは冷や汗をかいていた。そう、一人一人はたいしたことがないのだ。だがまとまって一つになると視えてくる。

 ───黒くて大きな獅子の姿が。

 ハグミは強者から化け物の姿を視たことはあれど、一軍がまとまって一つの怪物になるなど視たことがなかった。

「彼らどうしたんだろうね。あんなにまとまっている印象はなかったんだけど」

 トギーは以前、エンパイア王国に潜入したことがあった。訓練は見ていないが、街には多くの兵士がいたので彼らの空気感は知っていた。そのときは普通の兵士だという印象しかなかったのだ。

「よう、どっちが勝っている?」

「あ、陛下じゃん。マユカ様も」

 元十騎士の三人に声をかけたのはマユカを連れたアークだった。

「陛下、エンパイア軍は相当訓練しているわね。すごい連携よ」

 ハグミが青い顔で答える。最近、化け物ばかりが視えているので気絶はしなかった。

「そうか、あいつらをまとめ上げたやつがいるんだな。きっと」

 アークは年下の義兄の顔を思い出した。

「あっ! ねえ負けちゃうよ」

 テンテンの声に一同が演習場に目を向ける。

 一人で百人ほどを倒し、無数の光の中に立つエルフィンの周りを二千人ほどのエンパイア兵が襲いかかっていた。

「大将が死亡判定! それまで!」

 ヤスコの声が響きわたった。

「か、勝った!」

「やったぞ! 勝った!」

 歓声を上げるエンパイア軍。かつて、いいようにやられたギルアバレーク兵士団に勝ったのだ。

「ま、負けた……」

「俺たちが……、負けた?」

 その場に膝をつき、動かなくなるギルアバレーク兵士団。出血をおさえながら荒い息を整えるエルフィン。白目を剥くトシオ。

 ───ギルアバレーク兵士団は、初めて負けた。

「あーあ、せっかくボクらが鍛えてるのに負けちゃったね」

「あの戦力差だからね、仕方ないさ」

 テンテンとトギーはため息混じりにそう話した。ハグミは冷や汗をかいたまま黙っていた。


  *


「ヤスコ、あの結果になるのがわかっていてやらせたのか?」

「そうだ」

「こっちが負けるのがわかっていて?」

 演習が終わったあと、団長室ではアークがヤスコの真意を尋ねていた。

「そうだ。あいつらには敗北が必要だった。逆にエンパイア軍には勝利が必要だった」

「そうか」

 アークも言われてみれば解った。ギルアバレーク兵士団は千人で五千人を破ったこともある精鋭だ。一人一人はもう自分より強い奴が大勢いる。

 いつも魔導騎兵隊が突撃して魔法部隊が一斉射撃を行う。そして歩兵が突撃するのが勝ちパターンだ。それが破られた。幸いにも、本当の実戦ではなく訓練で。

「ギルアバレークの兵士はダンジョンあがりで強い奴が多い。しかし、軍での経験ではエンパイア軍の方が一日の長がある。勇気と自信さえあれば充分に強いだろう」

「ウチの連中は奢っていたのか?」

「そんなことはない。だが負けた経験は早い方がいい」

「そうか、そういう人間の心理があるんだな。ヤスコは本当によく解っているな」

「私には人間の心理なんてまだ解っていない。学んでいるところだ」

「あんたほどの人がそう言うんじゃオレなんか何にも解ってねえな」

「アーク、あとはお前の仕事だ」

「ああ、わかったよ」

 アークは暗い空気のギルアバレーク兵士団の元へと向かっていった。負けた経験を糧にするために。


  *


「やっぱ魔眼のエルフィンはすげえな! たった一人で百人もやられたぜ!」

「お前ら本当強くなったな。俺らもまだまだ鍛え直すしかねえな!」

 アークが訓練場へ行くとエンパイア王国のテントが多数張ってあった。野営地には両軍が入り混じり、それぞれが談笑している。その光景を見てアークは笑みを浮かべた。

「ふっ、オレが何か言う必要なんてなかったか」

 団員は演習直後は落ち込んでいたが、よく考えたら元冒険者の奴らばかりなのだ。あいつらはいちいち引きずらない気質だった。

「オレも一緒にいいか?」

「お、アーク! みんなアークが来たぞ!」

 アークの元にわらわらと人が集まる。

「陛下! どうですか俺たちの戦いぶりは?」

「ああ、めちゃくちゃ強かったじゃねえか」

 エンパイア軍もその場に寄ってきた。

「おーい、城から酒樽持ってきてくれ! 人数多いから一人一杯な!」

 アークは備蓄の酒を持って来させる。後でマユカに謝ろうと心にメモした。

「五カ国同盟に乾杯!」

「エンパイア王国バンザイ!」

「アーク! アーク! アーク!」

 そして大規模な飲み会のようになっていった。アークは近くにいたエンパイア兵と話し始める。

「それにしてもお前らすげえ気合い入っていたな。訓練で死ぬとこだったぜ」

「ああ、俺たち死ぬために来ているんですよ!」

 エンパイア兵が明るく答えた。

「死ぬために? なに言ってんだ。生きて帰った方がいいに決まってんじゃねえか」

「リオン陛下に言われているんですよ。俺たちが東部の戦場で死ねばビスやセントの連中もこっちでやるときは命張ってくれるって」

「は? リオンがそう言ったのか?」

 アークは目を見開いて聞き直した。

「はい、死んだら家族を一生面倒見てくれるって約束してくれたんです。だから俺たちは志願してここに来たんですよ」

(なんてことだよ……)

 リオンの奴、東部で恩を売るために自国の兵を死なせるつもりだ。アークは軽く目眩がした。

「いや、ちゃんと生きて帰ってお前が家族の面倒みろよ」

「ははは、死ねなかったらそうしますけどね。でも俺たちはあのクーデターで一度死んでいますから」

「お前あの内乱に参加していたのか?」

「はい、貴族派だったんで王都を襲った側ですけどね」

 あのときの捕虜にした連中か。

「俺たちは国のために命を使いたいんですよ。俺が東部を守って死ねたら、あとは同盟国がエンパイアを守ってくれるでしょ。そうしたら思い残すことはないですね!」

(狂ってやがる。いや、俺が甘いのか?)

(リオン……、なんて王になりやがった)

「陛下、どうしたんですか?」

「いや、なんでもねえ。簡単に死ぬんじゃねえぞ」

「わかっていますって! エルフィンさんみたいに百人とは言いませんが最低でも十人くらいは道連れにしてやりますよ!」

 エンパイア兵士の明るい笑顔にアークは何も言えなかった。


  *


「覚悟の違いじゃのう」

 アークの話を聞いて、ノーグはそう言った。

「リオンは屍の上に立つ覚悟ができたんだな」

「そうじゃろうな。だがお前さんには真似できんじゃろう」

「オレは王だって言っていたじゃねえか」

「そうじゃ、お前さんはギルアバレークの王に違いない。だが、エンパイア王とは違う。お前さんは自分の道を見つけられるはずじゃ」

「なんだよそれ、教えてくれねえのかよ」

「儂に正解なんてわからん。ただ、そこで思い悩み苦しみ抜くのが人間じゃ」

「人間って難しいよな」

「ああ、儂もまだ何も分かっていないかもしれん」

「ヤスコみたいなこと言うんだな」

「あやつもまだ自分の道を探しておるとこであろう。長い年月を経てもまだの」


  *


 ビス王国を介して、ギルアバレーク、エンパイア両王国は東部小国軍の同盟締結を受諾する旨を伝えた。よって三日間の準備期間の後、エンパイア王国軍一万人、ギルアバレーク兵士団二千人が同盟の署名が行われるセント共和国へ向かった。まだジラール王国に宣戦布告されたわけではないが、どうせやるのは決まっている。同盟各国は戦力をセント共和国へと集めていた。


「今回、マスターは呼ばれませんでしたね」

「そうだな。留守中にまたアイエンドの騎士が来るかもしれないからじゃないか?」

 ジューンの宿でディアはハルと会話をしながら木刀で稽古をしていた。

前回、たまたまハルがギルアバレークに残っていたのでハグミやテンテンを捕えることができた。もしまた上位の騎士が来たら誰かが対応しなければならない。アークはそんな理由でディアには東部への同行依頼を頼まなかった。それだけではなく、そもそもディア無しでもジラール王国に勝てるくらいでないとアイエンドとは戦えない。そんな意味もあった。

 これまでディアやハルの圧倒的な戦闘力で解決できていたことも、数の暴力には通用しないことだってあるだろう。そこに頼らず、この同盟の軍事力を上げていく必要があったのだ。エンパイア王国軍の覚悟を目の当たりにして、アークはそう感じていた。


 今回のギルアバレーク兵士団の遠征隊にはジローニ将軍と三人の将軍補佐官。それにエルフィンが加わり大きく分けて五つの軍となっている。


 ジローニは百人ほどの首脳部の隊長で総司令官となる。

 トギーたち補佐官三人はそれぞれが三百人ほどの中隊を仕切ることになった。

 中隊長だったエルフィンが大隊長となって千人ほどの兵士をまとめる。その下には十人の中隊長がいる。

 そして新設された一人しかいない部隊があった。


「なんで妾だけ一人ぞよ!」

 ギルアバレーク航空部隊である。一人しかいないので隊とは言えないが、今後増えていく予定だ。

「ご主人様もついてきて欲しいぞよ〜!」

「俺は今回呼ばれていない。それにセラは正規隊員なのだから仕事だろ」

「世知辛いぞよ……」

 堕天使のセラはテイマーであるディアから離れて一人で同行することになった。

「今回は大事な遠征だからセラさんの力が必要なんですよ」

「そ、そうかの?」

「はい、飛行能力と強さ、そして美貌。全てが必ず役に立つはずです」

「う、うむ。仕方ないの、妾の力が必要とあれば協力してやらんでもないの」

 セラはハルのお世辞を真に受けて気を持ち直した。

「ジローニは俺の信頼する男だ。助けてやってくれ」

「ご主人様がそう言うならわかりましたぞよ!」

 二人がおだてたことで、ようやくセラも気分を良くして出征することになった。




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