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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
最終章
83/112

◆第一話 東部事変 1



 職探しのためにアークの元を訪れていたディアと堕天使のセラはジューンの宿に帰ってきた。

「おかえり! セラさんお仕事見つかった?」

「モモ、見つかったには見つかったぞよ……」

 モモに迎えられたセラは暗い表情だった。

「あれ、どうしたの? お仕事嫌だったら断ればいいじゃない」

「断れるなら断りたかったぞよ……」


  *


「───じゃあお前は今度新設する航空部隊に所属しろ」

 セラが就職先を探していると聞いてヤスコはそう言った。

「妾はその、軍隊よりは掃除とか皿洗いなんかのほうが向いていると思うのですぞよ……」

 実際にはそんなことはなかったのだが、セラは過去にひと殴りで殺されてしまったトラウマからヤスコには近づきたくなかった。もう二度と会いたくないと思っていたが、まさかこんな所で会うとは。

「お前、レベルも1000くらいあるから戦えるって言っていたじゃないか。掃除とかの仕事のほうが良かったのか?」

 戦えるというのは、ディアがセラをテイムするときにセラ自身が必死にアピールした内容である。

「なに? セラはレベル1000もあるのか! だったら皿洗いなんかより兵士団の方がいいぜ! なあ、ヤスコ」

 嬉しそうにアークがヤスコに顔を向ける。

「おい、元天使。どうするんだ?」

 無表情のヤスコがセラに聞く。

「は、はい。やらせてもらいますぞよ……」


「ハル〜、お主も飛べるんだから一緒に航空部隊に入ろうぞよ〜」

「私は食堂の仕事があるからできませんよ」

 ハルに素っ気なく断られたセラはますます落ち込んだ。明日からさっそく出勤だそうだ。

「妾はもっと安らぐ職場が良かったぞよ〜!」


  *


「ほう、レベル1000とな」

「そんな強そうには見えなかったんだけどな。でも飛べるってだけでかなり戦術は広がるはずだぜ」

 アークは応接室でノーグと会議をしていた。いつもの雑談ではなく、今日は重要な議題があった。東部の小国郡が同盟に参加したいと申し出があったのだ。


 セント共和国のさらに東側にはいくつかの小さな国がある。その小国群はさらに東にある大国のジラール王国が半ば属国としていた。

 セント共和国がビス王国やプールイ共和国と共に急激な成長を遂げるのを横で見ていても、なかなか同盟に参加の希望を表明できなかった理由がそのジラール王国にある。

 小国群は毎年、税や農作物を上納させられていた。その代わりに安全保証をするという建前だ。まるでマフィアのみかじめ料のようなものであった。各国はそれをなんとか支払いを続けていたのだが、今年の上納金が倍増となって請求されたのだ。

 理由はジラール王国の首都に隕石が落ちてきて被害が広がったためである。小国群はその尻拭いをさせられるというわけだ。そんなのは自然災害ではないか。そのような正論は通じない相手だった。

 近隣のセント共和国はセント王国のときより発展しているというのに自分たちの国は搾り取られるだけ。五カ国同盟に属していれば魔導車も買えて高速道路で遠くの取引もできる。そして《魔人殺し》、《白い悪魔》などの強力な英雄が揃っていて軍事力も高い。

 もう、ジラール王国に反旗をひるがえす決断をしない理由がなかった。これ以上、上納金を払い続けていればどちらにせよ国の破綻は訪れる。それならばほんの少しの勇気で、このチャンスに賭けてみるのは自然なことだった。

 小国群はセント共和国のダンク代表を通してビス王国国王のジーラ・ビスに同盟希望の意思を伝えて、その報告がアークの元に届いたのだ。


「───それで、こっちはどうするかってわけだな」

「そうじゃ。ビス王も言っておったが、小国群を加えるとなるとジラール王国と敵対することが決まっておる。西のアイエンド王国を気にかけながら東のジラール王国とやり合うことになるのう」

 小国群とはいえ、戦力は増やしておきたい所だ。同盟を組めばこっちがアイエンドとやり合うときに協力してもらえる。

 しかし、その前に向こうの問題を片付けなければならない。ジラール王国はアイエンド王国に次ぐ大国である。距離の問題から交流は全くと言っていいほどない。

「リオンとも相談しねえとな。ノーグはどう思うんだ?」

「儂は少し早いがやるべきだと思う」

「小国群を同盟に入れるべきだと?」

「それも含めてじゃ。対アイエンドを想定して戦争をやるときじゃと思う」

「戦争? アイエンド以外とやりたくねえよ」

 そんな余裕はない。アークは即座に否定した。

「そのアイエンドに勝つためじゃ。このまま我々が同盟内で訓練して、いざ最初の戦争の相手が最強のアイエンド王国。お前さんどう思う?」

「そりゃあ厳しいと思うけどよ。でもジラール王国に恨みはねえぜ」

「そこじゃよ。お前さんはアイエンド王国を叩きたいと思っておる。だが、そこにいくまでの過程にまだ目を背けているんじゃよ」

「過程?」

「このまま経済関係だけで同盟を広げても、いざ実戦になったときにどれだけやれるかは未知数じゃ」

「実戦の経験を積ませるために戦争すんのか?」

「冒険者の言葉で言うならケンカ慣れじゃよ。いくら剣を鍛えていようが実戦で戦えないものはたくさんいる」

 そう言われて、アークは新人だったころを思い出した。自慢の剣術がダンジョンでは全く通用しなかったのだ。それどころか街のゴロツキにさえいいようにされた。あいつらは人を陥れることに慣れていた。つまり、ギルバレの街ではあいつらの方が強くて正しかったのだとジローニに教わった。

「確かに実戦は必要だな。でもそれで戦争なんてのはどうなんだ」

「お前さん、ドクソンに言われたじゃろ。いつか選ぶときが来ると。お前さんはアイエンド王国には勝たなければいかん。しかしそれには戦力を増やして実戦経験も積ませなきゃならん」

「ああ、言われたな」

「ここでジラール王国を五カ国同盟が喰ってしまえば、より戦力が増えるのはわかるかの?」

「ああ、わかるぜ」

「アイエンドはかき集めれば百万人の兵がいる。こっちは現状いいとこ二十万じゃろ。ディアやハルのお嬢さんみたいな飛び抜けた戦力がいたとしても、向こうの四騎士も化け物らしいと聞いとるじゃろ」

「そうだな。ハグミたちが言っていたってな」

「足りないんじゃよ。今のままではいつまで経っても」

 それはアークもわかっていた。今の五カ国同盟を鍛えても、数が足りなすぎる。どこかで大幅に戦力を増やさないとならない。そのためには侵略であったり戦争であったりが必要なのだと、心のどこかでわかっていながら考えないようにしていた。

「アークよ、お前さんはすでに王じゃ。王とは屍の上に立てる者をいうのじゃよ」

『王子たちと協力してエンパイアの民を守って下さいよ。あなたなら守れるでしょう。守りたいもの全てを』

「チッ、そんなに強くねえってのによ……」

 アークはドクソンの最期の言葉を思い出していた。


  *



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