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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第三章
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◆第九話 天使のダンジョン 1



「ナルハ族よ、聞け! 只今より神の遣いであるディア様が〈神の恵〉を踏破する!」

 一族を前にしたメグの声に、ナルハ族はざわめいた。

「ま、待て! お前にその資格があるか私は見ていない!」

 すると、住民の中から先ほど族長を守っていた女が覚束ない足どりで近づいてきた。

「族長、あれは?」

「儂の孫のツバサですじゃ。【神の眼】を継いでおります」

 ツバサという女にディアが向き合う。

「お前に俺が見えるか?」

 ツバサはジッとディアを見る。

「お前は見えない。何故だ! 強さがないのではないか?」

「じゃあこれでどうだ」

 ディアは首飾りを【収納】する。再びディアをジッと見るツバサ。

「な、なんだと?」

 ツバサは驚愕してよろめいた。

「もういいだろ」

 ディアは再び首飾り取りだした。

「ツバサ! 見えたのか!」

「兄上……」

 先ほどディアにキツい稽古をつけられたナウカナという男がツバサに聞く。

「2272だった……」


〈神の恵〉は族長が言うには羽の生えた魔物が出るらしい。山の麓にあるダンジョンの前に行くと鳥居があった。ノア・アイランドにあるダンジョンと同じだ。ナギの作ったダンジョンには必ずこれがあるのだろうか。

「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃいませ、使徒様!」

「ディア、早く帰ってきなさいよ!」

 メグたちに見送られ、鳥居を潜ると雲の上だった。そこに直径二メートル程で円形の平らな地面がいくつか浮いている。飛び移るための足場だろうか。だとすると動く範囲そのものは広くない。

 そこに魔物がやってきた。白い布を巻いて纏ったような服を着ており、背中には白い羽。手には銀色の槍を持ち、頭上には光る輪が浮いている。大きさは人間の子供くらいか。

天使エンジェル レベル20〉

 外見も人間に似ている。その天使がディアの周りを漂いながら襲いかかるタイミングを狙っていた。羽で飛んでいるというより、浮いている感じだ。

 ディアが氷結の弓矢で射抜いてみると、姿が消えた。どこへ行ったのかと思ったが、少し先の地面に扉が出てきた。どうやら倒したらしい。

 扉の前には白いテーブルがあった。そこには小さな瓶が十本ある。

〈低級ポーション〉

 どうやらこのダンジョンはドロップ型のようだ。【収納】に入れておく。

 扉を開けてみると転移水晶があるだけで、あとはまた同じ光景だ。この雲の上に浮いた足場で戦うとすればかなりやりにくいだろう。雲の中に落ちたらどうなるのか。

 ディアは大岩をひとつ取り出して落としてみた。大岩は雲の中に落ちたが、落下音はしなかった。もう一度、少しだけ離れた場所に大岩を落とす。耳を澄ましてみても何も聞こえない。

(この雲の下は別世界なのかもしれないな……)

 どうやら落ちたらそこでお終いらしい。

 ドアをくぐって進んでみると、そこにまた魔物が現れる。さっきの天使が大人になった姿だ。またも手には槍を持っている。

大天使アークエンジェル レベル40〉

 白い翼がバサっと音を立て、周囲を回りながらディアに近づいてくる。またも氷結の弓で射抜くと消えた。

「なんだ、弱すぎないか?」

 一匹しか出てこないし、それも矢で簡単に倒せてしまう。ナルハ族は見たところ弓矢を持っていなかったが、これなら普通の矢でも倒せるのではないだろうか。わざわざ適正レベルを見て選別して潜らせている所をみると、修行を兼ねて弓矢を使わずに戦っているのかもしれない。

 扉と共に現れた白いテーブルには、またも十本の瓶。〈中級ポーション〉

 怪我とかに効くのだろうか。エリクサーがまだたくさんあるから必要性は感じないが一応【収納】しておく。

「瓶だけ使うかな」

 扉を抜けるとまた同じ景色。このダンジョンは全てこの空の上のような場所なのかもしれない。

 現れたのは筋肉質の女。手には長い鎌を持っている。背中の羽と頭上の輪は同じだ。

能天使パワー  レベル80〉

 いきなり80になった。族長はレベル90のメグはこの三階層まで入れると言っていた。およそ適正といえる。足場が限定されている状況を考えなければ。

 能天使は旋回して飛行し、近づくと同時に鎌を振ってきた。バールで鎌を叩き上げる。

 咄嗟に離れる能天使。ディアはグリフォンのブーツで空中を駆け上がり、バールを叩きつけると能天使は消えた。

 なるほど。自分は空中を駆け上がって戦えるが、その手段を持たないと苦戦するだろう。足場から落ちると多分死ぬであろうし、思ったより難易度は高い。

(やはりレオナを置いてきてよかった)

 もし落ちたら大変だ。

(ハルなら余裕だな)

 そんなことを考えながら、浮かぶ地面を飛んで進んでいく。白いテーブルに乗っていたのはまたも十本の瓶。

〈上級ポーション〉

 ディアは【収納】に入れて扉を開ける。同じ景色の中、次の魔物が現れた。

力天使ヴァーチャー レベル160〉

 先ほどの能天使よりさらに大型で筋肉質の女。手には大きなハンマーを持っている。このダンジョンが何階層まであるかわからないが、この四階層でレベル160。ディアは難易度の増え方が急な気がした。

「そうか、レベルが倍々になっているのか」

 天使は20。大天使は40。能天使は80。そしてこの力天使は160。次は320だろうか。

「その前にこいつだな」

 見たところ大きなハンマーはハルの〈悪魔のハルバード〉よりも重そうだ。

(打ち合いは不利かもな……。速度重視で行くか)

 力天使は上空に上がり、急降下して巨大なハンマーを振る。

(【集中】)

 力天使が空中で止まる。ディアはグリフォンのブーツで駆け上がり、力天使の首にバールを叩きつけた。

 そこで時間が元に戻る。首が千切れるのと同時に、力天使はシュッと消えた。扉が現れたのを見ると倒せてはいるらしい。

「こいつらは死体にならないみたいだな。ナギの趣味だろうか」

 最初の天使から死んだらすぐ消えていった。見た目が人間に近いから死体の姿になる前に消しているのかもしれない。ドロップしたのは〈最上級ポーション〉がまた同じく十本だった。

(この調子で行くと次はエリクサーかもしれないな)


 扉の先は同じ景色、出てきたのは筋肉質な男の天使。手には長い斧を持っている。

主天使ドミニオン レベル320〉

「やっぱりレベル320か。いったいどこまで続くんだろうな」

 主天使が重そうな斧をヒュンッと振る。空中にいるのに全く体の軸がブレていない。

「族長の息子はこいつに殺されたってことか」

 人間でレベル320を倒すのは相当な難易度だ。ディアの知る今まで一番レベルの高かった人間はアイエンド十騎士、ワクワナの262だった。

 主天使が振り下ろした斧を掴む。そのまま魔剣黒凪で主天使の首を落とした。主天使と目が合う。そして消えた。ディアの手には長い斧が残されていた。

「やはり消える前に手に取れば武器は残るのか」

 アイナに聞いた裏技である。ディアは斧を【収納】して、ドロップした10本のポーションを見る。

〈低級魔力ポーション〉

 エリクサーが出るかと思っていたら魔力ポーションが出てきた。低級とあるが。

「魔力を回復させるポーションなのか?」

 だとしたらすごいものだ。

(レオナにあげるか)


 そのまま扉を抜けるとまた同じような景色だった。今までの傾向通りなら、ここでレベル640の魔物が来るはずだが、それは一向に現れなかった。

 そもそも、奥のほうに最初から扉がある。ドロップ品は置いていないが、白いテーブルもそのままだ。

(これは……)

 どういうことだろうか。何かの罠が仕組まれた階層なのかとも思ったが、しばらく待っていてもなんの変化もなかった。

(もしかしてこれは、)

 ここにレベル640の魔物がいて、それを誰かが消滅させたのではないだろうか。この〈魔剣黒凪〉のようなもので。だとすると、ここから先は魔物がいないかもしれないし、いるとすれば、

「レベル1280が来るのか……」

 ディアはレベル2272だが、生まれつきの魔力によって数値が高いだけで実際はそこまでの強さではないと思っている。実際、黒騎士にはほとんど負けていた。あれから経験値を得たとしても、初めてのレベル1000越えとなんの対策もせずに対峙するのは危険だ。

 ディアは扉の前で世界樹の杖を持ち魔力を練る。じっくり、時間をかけての魔力制御を経て、ディアは扉を潜った。

智天使ケルビム レベル1280〉

 現れたのは黒い翼で男の天使。目視と同時に霧を飛ばした。もっと魔力制御が上達するまで使わないでいようと思った元素魔法だ。

「ん? これは」

 智天使が何か喋った。が、すぐに動きが止まった。凍ったのだ。

「ガアッ!」

 智天使は無理矢理体を動かした。あの状態から動けるのか。さすがはレベル1000越えだ。智天使が杖を構える。

(こいつ、魔法使いなのか?)

 ディアはさらに智天使の体内へ魔力を注ぎ、水分子を高速で振動させた。危険な魔法だ。すると智天使は目を見開き、そのまま項垂れて姿を消した。奥には扉が現れる。

(まともな戦いではなかったが倒したようだ)

 結局なんの魔法を使うのかわからなかったが、智天使に魔法を使わせなかった。戦いを堪能しに来たのではないのだ。ドロップしたのは10本の〈上級魔力ポーション〉だった。

 これでまだボス部屋ではないのだ。こんな森の奥にすごいダンジョンがあったものだ。このままだといよいよ次はレベル2560だ。完全に格上である。もしその次があるとしたら、レベル5120になる。そうなると完全にお手上げだ。

(考えてもしかたない。次だ)

 また扉の前で同じように魔力を練る。戦闘中にはとてもできないだろう。今のうちに準備するのだ。十分ほどして扉をくぐると、そこは見慣れたボス部屋だった。

「いよいよ最後か」

 ひとまずレベル5000越えはいないようだ。奥の扉から出てきたのは三対六枚の燃える翼を身に纏い、手には杖を持った女の天使だった。

熾天使セラフィム レベル2560〉


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