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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第三章
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◆第六話 五カ国同盟 1


 セント共和国やプールイ共和国が高度成長をしている頃、エンパイア国王のリオンは各地の貴族を王城に集めた。

 この国はあの反乱で多くの兵を失ったがギルアバレークの協力の元、兵士の質は向上している。あれからまだアイエンドの動きはない。一度単独で十騎士が一人入国したそうだが、ギルアバレークの斥候部がいち早くその存在に気づき大事には至っていない。

『お兄様は王権派と貴族派をまとめ上げるのです』

 かつて、妹のマユカが言った言葉である。マユカはギルアバレークで婚約者であるアーク・フリード・ギルアバレーク国王の補佐をしている。このエンパイア王国のためでもあるのだ。なら自分は自分のやるべきことがある。今、国をひとつにしなければこの国は終わる。そろそろアイエンドも本腰を上げてくるであろうからだ。


「皆の者、よく集まってくれた」

 王城の広間には各領地の領主、エンパイア貴族たちが並んで座り、一斉に立ち上がった。

「よい、みんな座ってくれ」

「はっ!」

 あの反乱以降、貴族派は大きく力を落とし、王権派は力を増した。貴族派の筆頭、ガイーユ・ドクソン公爵がクーデターを起こして負けたからだ。

 この大広間では貴族派の立場はこれ以上ないほどに悪い。何故ならリオンは貴族派を粛清しなかったのだ。爵位もそのまま。だから今この場に来る立場にある。それだけではない。リオンはドクソン家を取り潰さなかった。家族も無事である。これには王権派の貴族は声を上げた。あの首謀者の一族である。殺さなければ示しがつきませんぞと。しかしリオンは頑なに貴族派を擁護した。そんなこともあって王権派と貴族派はギクシャクした関係を続けていた。

「今日は皆に話すことがある」

 リオンの真剣な面持ちに一同は緊張感を増した。

「ドクソンのことだ」

 貴族たちがわずかにざわめく。リオンは自分の知る事の顛末を貴族たちに話した。長い話であったが、淡々と話を続けた。涙ぐむ貴族派、神妙な顔をする王権派。それぞれの気持ちを抑えながらリオンの話に耳を傾けた。


「───それで、私はドクソンの首を斬った。以上だ」

 大広間は静まりかえった。その中で一人の貴族派の者が声を上げた。

「へ、陛下はそれを全てお聞きになりながら公爵を斬ったのですか……」

「そうだ。情けないことにドクソンに厳しく叱責されて泣きながら剣を振った。多分鼻水なんかも出ていたかもしれんな」

「殺さずに牢に入れておくことはできなかったのですか?」

「それはドクソンの意思を踏みにじることになる。ドクソンは前王の父を殺した。私が仇を取って国をまとめるのだとドクソンは言った」

「でも、それはあなたやマユカ様を助けるためじゃないですか!」

「そうだ」

「では、どうして!」

「それは私が王族で、ドクソンが本物の貴族だからだ」

 リオンは無表情で答えた。しかし、目はうっすらと赤くなっていたようにも見える。

「ドクソンは反乱を起こした。そして仕える王を斬った。これがどれ程の汚名になるかわからない者はいないだろう」

 ざわめきは止み、大広間を静寂が包む。

「それはドクソンが覚悟を決めて行動したことだ。かの者は汚名を被り民を守ることを貴族の矜持としていた。父を斬ったドクソンを生かしておけば、その覚悟を踏みにじることになる。私が仇を取り、その首を掲げて国を一つにまとめ上げることがドクソンの望みであり、彼の誇りであるのだ」

「公爵……」

「私もまだ完全には理解できていないかもしれん。彼は自分の命を民のために使うことを最大の誇りとしていたのだ。私はそんなドクソンを本物の貴族として心から尊敬した。だから泣きながら斬ったのだ。あの満足そうな顔は、一生忘れられん……」

 ドクソンの側近だった貴族は堰を切ったように嗚咽を漏らした。それにつられて他の貴族派も目に涙を浮かべていた。

 王権派はその光景をただ無言で見ていた。自分がドクソンや貴族派を罵倒した言葉を思い出しながら。

「今、我が国は未曾有の危機にある。それはドクソンも危惧していたアイエンドを敵にまわしたからだ。だが、ドクソンはこうも言っていた」

『だけど今回はこれでも良かった。あなたもアイエンドを敵にまわしましたからの。王子たちと協力してエンパイアの民を守って下さいよ』

「ドクソンはあの《魔人殺し》を引き摺り込んだ。そしてギルアバレーク王国は現在ビス王国と同盟を結んだ。アイエンドに対抗するためだ」

 貴族たちがざわめく。ビス王国は中東部の盟主と呼ばれ、エンパイア王国と並んで歴史のある国である。

「ギルアバレークが独立したのは私とマユカが促したからだ。アイエンドに目を向けてもらうようにな。《魔人殺し》もそれをわかっている。マユカはギルアバレークへ嫁入りして急激に国を発展させているのは、このエンパイア王国のために戦っているからだ」

「マユカ様……」

「ビス王国だけじゃない。その先のセント王国も落として周辺国をまとめ上げている。そうなれば東部に強力な連合ができる。さらに我が国が加われば、アイエンドともやり合える規模に近づくだろう」

 おお、と貴族たちの目に光が宿る。

「ただし、我々がいがみ合っていないで民のために一つになれたらの話だが───」


  *


『───そんなわけで、マユカは国の犠牲となってギルアバレークに嫁いだことになっている』

「ふふ、ひどいですわねお兄様。でもそれでいいと思いますわ」

 魔導通信でマユカはリオンと話していた。

 アイエンドが来るとしたらエンパイア王国に来るか、ギルアバレークに来るか、はたまた両方同時に来るか。それがわからないのだからエンパイア王国の強化は一刻を争う。貴族同士でいがみ合っている場合ではないのだ。

『それで計画通りギルアバレークの手を借りて国防に力を注ぎたい』

「その辺は準備していましたわ。貴族がまとまったのでしたらすぐにでも取り掛かりましょうか───」


 エンパイア王国はギルアバレークと違って広い国だ。よって各地の領主がそれぞれに領地経営をしており、小さな王がたくさんいるような状態である。時には領地同士の小競り合いも起きていた。例えば最西部の領地に外国からの襲撃があったとしても、他の領地は王都からの要請がない限り応援には行かない。言わば他人の国のような扱いだ。だから派閥を組む。同じ派閥からの協力を得られるからである。

 今まではそれで良かった。だが、大国アイエンドを敵にしたとなれば、一丸となって行動しても相手の一軍にようやく釣り合うかどうかというところだ。それをリオンがまとめ上げたのだ。


「オーライ、オーライ」

 エンパイア王国僻地の村。ここに魔導トラックや魔導重機が建築作業をしていた。作っているのは兵舎と見張り台だ。これを各地の領地に作る。

 エンパイアは広大な土地を持つ国なので、ギルアバレークのように国を外壁で囲むことはできない。よって各地に見張り台を建て、敵を発見したら魔導無線機で隣接する領地に援軍を要請する手筈だ。応援要請は緊急を要する事態であり、兵士は魔導トラックに乗ってすぐに駆けつける。それまで襲撃を受けた領地には耐えてもらうのだ。

 今はそれぞれの領地が整備された道路で繋がっている。隣接するどの領地にも直行することが可能だ。そこに派閥は関係ない。

 エンパイア王国には大量の魔導トラックが輸入された。最低限の原価で。そして大量の兵器。魔導銃だ。各領地に百丁程が配備された。兵士は射撃の訓練を日夜繰り返す。魔石と弾丸は大量にあるのだ。

 各地の民衆には避難訓練が実施される。要塞化された領主館に、決められた順序で避難する領民たち。そして一時間程で両隣りの領地から応援の兵士が駆けつける。これを繰り返した。

 兵士たちにはダンジョンで強くなる事実が情報開示された。各領地の兵士、騎士が交代でギルアバレークへ研修に行く。眼帯をした女性にコテンパンにされながらダンジョンへ潜り、出ては訓練。そして泣きながら愛国心を高められて帰ってくる。

 領地に戻った兵士たちはとにかく穴を掘るようになった。領地全てを堀で囲むように。その内側には大量の土嚢。襲撃された際に少しでも時間稼ぎするのだ。民を一人も生かすために。

 反乱で人数を減らしたとはいえ、国中の全ての兵士をかき集めると八万人以上はいる。その全ての兵士が徐々に精鋭となっていった。


  *


『初めまして陛下、エンパイア王国国王リオン・エンパイアです』

『初めまして、ビス王国国王ジーラ・ビスだ』

 エンパイア王国とビス王国はギルアバレークを通して遠隔の会談が行われた。エンパイア王国とビス王国の間には大きな山脈があり、互いに距離があるため交流のなかった国同士である。この遠隔会談は互いに同盟を結ぶ前提で行われた。取りまとめるのはギルアバレーク国王、アーク・フリード・ギルアバレークだ。

 この二国が同盟を結ぶとなると、大陸のパワーバランスは大きく変化する。両国ともに小さくはないからだ。アイエンドとは比べ物にならないが、エンパイア王国は広大な土地を持った大国と言ってもいい規模である。

 ビス王国は侵略を禁じているので国土を広げることはないが、大陸中部では東の雄と言われる中堅国だ。特に今はセント共和国を実質的に属国としており、周辺国からは国土拡大しているように見えている。

 東部にはまだ小国群があり、アークはそこも狙っていた。軍事的にでもあり、経済的にでもある。もちろんノーグの入れ知恵である。

『我が国としてはエンパイア王国と同盟を結べればこれに勝ることはない。アイエンド対策も微力ながら力になろう』

『ありがとうございます陛下。わがエンパイア王国もビス王国が東部の盟主となる手助けを惜しまない』

 ジーラ・ビスはリオン・エンパイアを評価した。まだ会っていないが、話してみるとただの王子が国を継いだだけには思えなかった。若いのに良い経験をしたとみえる。

『じゃあよ、代理でいいから同盟の署名式をやるか。どっかで集まろうぜ』

『ふむ、プールイかギルアバレークが良かろう』

 ジーラ・ビスの提案を受けて、結局プールイ共和国にて同盟の署名式が行われることにことなった。

・エンパイア王国

・ギルアバレーク王国

・ビス王国

・プールイ共和国

・セント共和国

 五カ国同盟だ。これを一つの国と考えると大陸で三番目の大きさだ。この五カ国は軍事的にも経済的にも同盟を結び互いに協力することとなる。セント共和国も同盟国となれることによって同国民は胸を撫で下ろした。


  *


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