◆第二十三話 終戦
セント王国は、今までビス王国の支援と国家ぐるみの犯罪によって成り立ってきた。当然貴族も同罪であるとジローニは考える。
王都内だけでなくセント王国内の地方貴族全てに兵士を派遣させ、一度だけチャンスを与えた。
「今日からこの国の貴族は全て取り潰しだ。お前らは今から平民となる」
「い、いやよ。そんなの!」
「じゃあ死ね」
このように、平民になることを受け入れない者は全て始末した。貴族の財産も全て没収して、成人前の子どもだけは王都の孤児院に放り込んだ。よってセント王国は王族も貴族もいない国となった。
王都では、集められた民衆を前にビス王国将軍アラントが演説台に乗っていた。設置された魔導拡声器から野太い声が響く。
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元セント王国の者たちよ! 偶然通りかかった悪者によってお前たちの王族と貴族は殲滅された!
今までこの国は我がビス王国による支援で成り立っていた。建築も、農業も、産業も全てビス王国が技術と資金を提供してきたものだ! にも関わらず我が国民を拉致誘拐して奴隷としていたのだ! この国は!
当然、今後の支援などあるわけがない。さらには、周辺諸国の国民も拉致していたのだ! 当然ここに攻め入ってくるであろう!
あとはお前たち平民だけだ。奪い合うなり殺し合うなり好きにすれば良いだろう!
それと一つ言っておく。プールイ領に行った五千人の軍は壊滅したぞ。二百人の捕虜を残してすべて殺されておる。
なに? ビス王国に編入しろだと?
あいにく我が国は侵略を禁じておる。今回は自国民の救出に来ただけだ。
先日王城を吹っ飛ばしたギルアバレーク軍は話が通じる相手ではないのは見ての通りだ。お前たち、今から殺されるだろうが運が良ければ奴隷にしてくれるかもしれんなぁ!
おっと、ここで陛下からの通達だ。なになに、お前らの面倒は見てやれないが、民衆の中から代表を決めて自分たちで国を治められるなら協力くらいはしてやっていいと。
協力と言っても支援とは違う。麦なり金銭なりの対価を用意して頭を下げてくるなら、周辺国に話くらいはしてやるそうだ。国の復興の人員と物資も対価によっては出してもいいと仰っている!
うちの陛下はちと優しすぎるでのう! 儂はお前らがどうなろうと関係ないのでそろそろ帰るとしよう。あとはギルアバレーク軍の荒くれ者に好きにされるがよい。ではさらばじゃ!
「ま、待ってくれ! 待って下さい!」
*
アラントのわざとらしい演説も、王城が吹っ飛んだあとであれば民衆も聞かざるを得ない。それにのんびりしていれば周辺各国が襲ってくる。自国民を誘拐されていたのだ。許すわけがない。自分だったら許さない。だが、もう兵士は誰も残っていない。平民が取り残されただけの狩り場となった。住民たちはもう、この話に縋り付くしかない。散々迷惑をかけたビス王国に。
「───それで民衆だけで国の運営をさせるわけか。そんなことできるのか?」
『さあ? だがなんとかするだろう。命がかかっているからな。わが国が統治するわけにはいかんのだよ』
プールイ領に残って復興作業をしていたアークは、ビス国王ジーラ・ビスからセント王国の現状を聞いた。周辺国には被害者を返還して、セント王国からの賠償金として没収した財産を渡したそうだ。周辺国も平民しかいない国に仕返しをするよりその方が良かった。
また、ビス王国も自国民の救出のついでとはいえ、周辺国に貸しを作ることになる。それを機にビス王国と周辺国は交流を深めることになった。
『それでプールイ領だが、そっちで引き取ってもらえるかね』
「は? 元々ビス王国の領地だろ? それじゃ奪還じゃなくて侵略じゃねえか。こっちはそんなつもりはないんだが」
『好きにしてくれれば良い。こちらは荒れ地になったセントを復興させるのに手一杯なのでな。頼むよ《魔人殺し》殿』
ビス国王にそう頼まれて、プールイ領はビス王国から離れてアークに委ねられることとなった。約三千人の領地、一応鉱山なんかもあるがどうするか。
アークとしてはビス王国に返還されれば、あとはなんとかしてくれると思っていたのだが突然のことで何も考えが浮かばなかった。
(レオナに治められるかなあ……)