◆第二十一話 奪還 1
元プールイ領に駐留するセント王国の兵士。見張り台にいた一人が異常に気づいた。
「なんだあれ?」
同僚に話しかけているうちに、その黒い箱のような物は街を囲い始めた。約四十台の魔導トラックである。その中から約三百人の兵士が降りてきて、魔道拡声器の声が響いた。
『あー、聞こえるか。オレはギルアバレーク軍の最高司令官、アーク・フリード・ギルアバレークだ』
───誰だ? ギルアバレーク?
『プールイ領に違法占拠しているセント王国の者どもに告ぐ。こちらは正統なプールイ領主、レオナ・プールイの依頼によって行動している』
───レオナ・プールイ? もと領主の身内か?
『我々はこの地を正統な依頼に基づき奪還しに来た。大人しく降伏すれば命は保証しよう。いいか、忠告したぞ。お前たちが判断する時間は……』
───宣戦布告か? あの人数で?
『五秒だ』
「ヒャッハァアア!!」
突然謎の乗り物にまたがった男たちが柵を乗り越えて来た。なぜか全員同じ髪型だ。まるで馬、いやそれ以上の速度で迫ってくる。
駐留するセント王国の兵士たちが動揺して何も行動できないでいると、敵は兵舎に向かって駆け抜けていった。
「撃てーー!」
タン!タン!タン!タン! と、乾いた音が鳴り響く。見張りの兵士はよくわからないうちに意識がなくなった───
「オールクリア!」
「第一、第二中隊、突撃!」
『第三、第四中隊、突撃します!』
セント王国の駐留兵は突然の奇襲に素早く対応できなかった。このようなことは想定もしていなかったし、普段から訓練もしていなかった。
「捕虜はいらない! 殲滅せよーっ!」
白馬に乗った将軍ジローニが指示を飛ばす。そのまま領主館を包囲した。
様子を見ていた民衆は何がなんだかわからなかった。だが数人は気づいた。
「あれ、アークじゃないか?」
「元騎士の?」
アークを覚えている住民が少数ながら残っていた。
「セント兵は見つけ次第殺せ! 降伏させるな!」
ギルアバレークと名乗った奇襲軍は、白旗も上げさせないつもりだ。千人からいたセント王国駐留兵は次々に殺され、そして逃げ出した。
「兵舎の殲滅完了!」
「領主館へ向かえ! 貴族は全て始末しろ!」
相手に聞こえるように大きな声で命令する。
「奴らはただの寄生虫だ! 耳を傾けるな!」
セント王国の貴族は、取るものも取らずとにかく逃げ出した。
「いたぞ! 寄生虫だ!」
「うわぁぁ! やめてくれえ」
作戦上、全部を殺してはまずい。本国へ逃さないとならないのだ。
結局、僅か三十分程で七百人程の兵士と十人程の貴族を殺した。残った数人の貴族と三百人程の兵士は本国へ向かって逃走していった。
「アーク! お前アークなのか?」
群衆の中から、アークの顔馴染みの騎士が近づいてきた。
「よう、ニール。久しぶりだな。帰省のついでに掃除しに来たぜ」
*
「ウォンカーさん! お久しぶりです!」
奇襲により、駐留していたセント王国の兵士と貴族を殲滅したアークたちは、そのまま駐屯の準備をしていた。そこへ領主館で古株の使用人が駆け寄ってきたのだ。
「お久しぶりですね、皆様」
使用人たちは、そう挨拶するウォンカーの背後にいる少女に目を奪われる。
「そちらのお嬢さんはまさか……」
レオナを見て唖然とする。プールイ夫人の面影があったのだ。
「みんな、領民を集めてくれ」
そこにやってきたアークが兵士たちに指示をだす。農地や鉱山にいた領民も魔道トラックに乗って集められた。
広場に集められた領民たちはざわめきたっていた。およそ三千人ほどだろうか。そこに演説台が用意され、魔導拡声器を手にしたアークが壇上に登った。
*
『あー、あー、突然驚かせてすまない。オレはギルアバレーク王国の王、アーク・フリード・ギルアバレークだ。ここの元騎士でもある』
───誰? あのおじさん。
───アーク? 剣術大会の優勝者の?
『十六年前、このプールイ領にセント王国の奴らが突然侵略に来たのは覚えている奴も多いだろう。若い奴らは知らないか。あのとき、領主のレオン・プールイ伯爵は追放された。無謀な戦いを避けて領民の命を守るためにだ』
───知っているぞ。レオン様は俺たちのために出ていったんだ。
『オレもあのとき、このプールイ領から旅に出た。だが今になって知った。プールイ伯爵は追放された後、セント王国に襲撃されてこの世を去った!』
───なんだって? どういうことだ?
『セントの奴らは元々伯爵を殺すつもりで追放したんだ! お前らを騙すために!』
───なに?
『伯爵は慕われていたよな! その伯爵の命を守るためにお前らは大人しく従ったはずだ。あの頃は平和だった。オレも良く知っている。だが今はどうだ、男は鉱山。女は男手無しで畑仕事。無茶苦茶な税。それだけじゃねえ。たまにいなくなる奴がいるだろう。
そいつらは逃げだしたんじゃねえ。セント王国に誘拐されている!』
───!!
『ウラも取れている。セントで奴隷をやっているぞ』
───あたしの子が?
───俺の娘が?
『許せるか? オレは許せねえ!』
───ほんとか? そんなこと、本当にあるのか?
『オレはここより西の地で国を建てた。そこでめちゃくちゃ強え仲間を連れてきた。そして他にも、』
───誰だあの子は?
『プールイ伯爵の一人娘、レオナ様だ!』
───おお、レオン様の……
『オレたちはレオナ様から正式な依頼を受けて、このプールイ領を奪還しに来た!』
*
「アークは演説上手いよなあ」
「喋りながら自分でノッてきちゃうタイプだよね」
奪い返した領主館の一室で、ジローニとトギーが街を眺めながら話し合っていた。
アークはレオナを旗頭に領民をまとめ上げた。三年間の無税と拉致被害者の救出を約束して。
しかし、これからセント本国から軍勢がやってくるはずだ。おそらく三千人以上で。
兵士と領民は協力して街の防衛を整備した。街の周りを堀が包み込み土嚢が積んである。領民の男たちは戦えないが、ツルハシやスコップは慣れたものだ。ギルアバレーク軍は街の四方に陣を張り、農地の隅々まで見張り台を設置した。
元々プールイ伯爵に仕えていた使用人や騎士は悔しさに涙を飲んだ。あのとき、伯爵の気持ちが分かるからこそ、セントの奴らに甘んじていたのだ。それはアークの同僚、ニールも同じことだった。
『聞こえるか、アークだ』
『ジーラ・ビスだ。話すのは初めてだな《魔人殺し》殿』
魔導部員の尽力により、ビス王国の王都と魔導無線機が繋がるようになった。ビス国王に無線機を渡したのはギルアバレークの斥候部員だ。
『こちらはプールイ領を奪還した。これから奴らが押しかけてくるだろう』
『こっちはもう動いていいのかね?』
作戦では、手薄になったセント王国にビス王国軍が向かうことになっている。
『まだ待ってくれ。奴らが動いたら斥候部から連絡が入る。陛下は腰抜けのフリをして軍を動かさないでくれ。最大限に油断させてほしい』
『腰抜けのフリは慣れておる。それよりそちらに大軍が押し寄せても本当に大丈夫なのかね?』
『心配いらねえ。必ず叩き潰してやる』
『それなら安心だ。我らは合図を待っているぞ』
(何人来ようが関係ない。必ず叩き潰してやる)
「ウチの軍団はもう、全員オレより強いんだからよ」
今回連れてきた兵士は全員レベル60を超えていた。もう、数値上は《魔人殺し》よりも強いのだ。
「あたし、仇は取りたいけど領地はいらないわ!」
レオナはビシッとアークを指差した。元々この土地になんの思い入れもないのだ。
「まあ、そう言うなよ。レオナがいるから領民は協力してくれているんだからよ」
そうなだめてアークはうやむやにした。アークも平定後の領地経営のことは考えていなかった。ビス王国がうまくやるだろ、としか思っていないのだ。
*




