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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第二章
49/112

◆第十六話 レベル上げ 1


「ちょっと! これのどこが野営なのよ!」

 レオナはみんなで焚き火をしたりテントで寝ることを想像していたのだ。だが、一瞬でノア・アイランドへ飛ばされてフカフカのベッドと温かい食事をあてがわれた。

「テントが良ければ貸してやるぞ?」

「一人じゃ意味ないわよ!」


「ディア、元気なお嬢ちゃんだったな。急に賑やかになった」

 ロックグラスを片手に、ソファでくつろぐジローニが言った。こちらの山小屋はジローニ、ウォンカー、ディアの三人が使用している。レオナの仕切りにより、「男はそっちね」と組み分けられた。ハルは女だということで、向こうの貴族用の家に連れていかれたのだ。


「ウォンカーさんも飲むかい?」

「いただきましょう」

 熟年男性二人が酒を酌み交わすとなりで、ディアは世界樹の実を食べていた。

「ジローニ、攻略はどうだ?」

「ああ、やっと四階層だ」


 ───ディアたちがこの遠征に出る前に、ジローニはノア・アイランドで修行したいとディアに申し出た。帰還の輪を持つディアなら、いつでも転移できる。行きと帰りは全てディアに依存することになるのだが、そこは信用してのことだ。

 エンパイア王国のクーデターで、ジローニは大陸最強といわれるアイエンド十騎士の二人を目にした。ディアの【鑑定】によると、序列十位の女はレベル174。七位の男にいたっては262だと知った。

 自分のレベルは100ほどだった。ハルの協力のもと草原のダンジョンを踏破するまで鍛え、さらにはディアと共に古城のダンジョンで死線をくぐった。それでも十騎士の一番下の序列にも及ばないのだ。

 そんな連中を擁するアイエンドにアークは挑むと宣言し、ディアは何も言わないがそれに協力しようと思っているはずだ。

(今度こそ引退だと思っていたが……)

 恩人であるディアがアークのために戦うのなら、自分ももう一度鍛え直すしかない。どうせあのまま一人で人生を終える予定だったのだと、ジローニはそう決意していた。

「だけど、あの〈廃墟のダンジョン〉はほんと俺に向いていないな。襲ってくる集団に女もいてやりにくいったらない」

「そうか? 魔物じゃないか」

 そう言ったディアはジローニを【鑑定】してみる。

〈人間 レベル132〉

 レベルが以前よりだいぶ上がっていた。

「ジローニ様、そのダンジョンとは……」

「ああ、腐った人間や骨の魔物が出てくるダンジョンなんだ。ウォンカーさんも潜ってみるかい? レベルが変わるぜ」

「レベル?」

 ジローニは簡単に説明した。

「───なんと、そのような仕組みが。どうりで冒険者が強いわけですな」

「なあ、ディア。ウォンカーさんも技術は相当高そうだ。魔物を狩ったらかなり強くなれると思うんだが」

 ジローニがディアに目を向ける。

「ウォンカーはレベル29ある。武道の達人レベルだ」

「へえ、やっぱり。ウォンカーさんも潜ってみた方がいいぞ。ディアは相変わらず自分のレベルは見れないんだよな?」

「それが、アイナに教えてもらって見えるようになった」

「おお! ディアはレベルいくつだったんだ?」


  *


 翌朝、ちょっとした話し合いが行われた。

「あたしもダンジョンに挑戦するわ!」

 ジローニが一日だけウォンカーをダンジョンに潜らせたいと相談したのだ。

 護衛はディアとハルがいるから問題ない。外で移動している間に潜ってくるから明日には合流できる。

 何故そんなことをするのかとの理由に、レベルのことを話した。どうせアイエンド対策で今後共有するのだ。その説明によりダンジョンに潜る必要性が全員に理解され、レオナが自分も行きたいと言い出したのだ。

「わ、私も! 使徒様、私も鍛えたいです!」

「それならディアさん一人でギルアバレークに帰ってもらえばいいんじゃないですか? 着いたらここに迎えに来て貰えばいいんですし。私たちは移動しなくて済みますし。そのほうが楽ですし」

 マルチダが身も蓋もないことを言いだした。

「そんな、使徒様を一人で行かせるなんて!」

「でもあんた森の戦士だったくせにレベル32なんでしょ? 執事のウォンカーと変わらないじゃない」

 レオナがメグの痛い所をつく。イクスの森のダンジョンは神聖な試練の場所なので、そうそう潜っていたわけではないのだ。

「あたしはいくわよ! ディア、あんたは毎日移動してここに戻ってきなさい!」

 そんな中、そっとマユカも声を上げた。

「ディアさん、わたくしもダンジョンに行きたいですわ」

「マユカ様、危険です」

「でもわたくしだけレベル3なんですわよ。レオナさんだって12あるのに」

 それぞれのレベルを聞いたとき、マユカはショックだった。一人だけ一桁なんて。

 マルチダは移動せずにギルアバレークに行けるから楽をしたかっただけなのだが、何故か一緒に修行をする流れになってきて焦っていた。

 結局、ハルを残していけば大丈夫だろうということで、全員がダンジョンで鍛えることになった。

「だが、それだと一つだけ問題がある」

 ジローニに注目が集まる。

「もし、外でディアが死んだら俺たちはここに取り残されることになるんだぞ」

 シン、とする室内。

「あるわけないでしょ! こいつのレベル2243もあるんだから!」

 一同は、何を言っているんだ? という顔をしていた。


  *


 日が落ちはじめた平原の街道。ディアは一人でギルアバレーク王国を目指して歩いていた。ハルがいないので、ウォンカーの乗ってきた馬車から馬を借りてみたがどうも慣れなかった。自在に動いてくれる薄紫の豹に慣れてしまっていたからだろうと考え、結局歩いて向かうことにしたのだ。


「ただいま、ジローニ」

「おお、戻ったか。お疲れさん」

 その日も移動を終えて、ノア・アイランドに戻ってきた。

 ジローニはウォンカーと二人で廃墟のダンジョンを攻略していた。この島のダンジョンには、単純な攻撃力だけでは突破できない仕掛けもある。例えば〈世界樹のダンジョン〉ではボスのドライアドの精神攻撃であったり、〈死の森のダンジョン〉では大事な人に姿を変えるスノークイーンなどがいる。

 そしてこの〈廃墟のダンジョン〉では人の良心につけ込む魔物が多かった。姿形は人間であり、助けを求めたり命乞いをしてくるのだ。もちろんそれは罠なのだが、わかっていてもジローニには相性の悪いダンジョンだった。だが、

「いやあ、ウォンカーさんが来てくれて助かったよ」

「恐れ入ります」

 ウォンカーはそれを全く苦にしなかった。一階層から腐った人間の姿をした魔物を次々に斬っていったのだ。それ以外の魔物は、見た目が気持ち悪いことを除けばそんなに難しいダンジョンではなかった。

 ウォンカーを【鑑定】してみると、レベル29だったのが38になっている。一流冒険者くらいの数値だ。

「俺も【鑑定】が欲しいんだが、最終階層はどんなやつなんだ?」

「大きな骸骨の魔物だったな。魔法を使ってくるから気をつけてくれ」

 ディアはそんなアドバイスをしたが、自分は【集中】を使って労せず倒したので実はあまり覚えていなかった。杖を手にして、なにか詠唱をしていたから魔法を使うのだと思っただけである。

「帰ったわ! ディアいる?」

 他の面々が帰ってきた。

「25」

 どうせレベルを聞かれるのだ。いつものことだった。

「レオナ、レベルはあくまでも指標のひとつだがあんまり当てにするなとアイナも言っていたぞ」

「わかっているわ! でも目に見えて数字が上がるとやる気になるじゃない! あんたもそうでしょ?」

 ビシッと指をさされたが、ディアはそのような気持ちなったことははなかった。自分のレベルだって最近知ったのだ。

「あの、使徒様、私は……」

「41だ」

 32から41なので頑張っているのがわかる。ちなみにマルチダは20だったのが23になっていた。ほとんど魔物を倒していない。

「私の専門は人間ですので」

 ソファに寄りかかってそう言っていた。

 マユカは3から10になって喜んでいた。レベル10というのは普通の成人男性よりも高い。だから強いというわけでもないが、聞くとマルチダがある程度弱らせてからマユカがとどめをさしているらしい。やる気のなさそうな表情をしていても、主人の安全を優先するあたりに護衛としての意識の高さが見られる。

 ハルによると、みんな草原のダンジョン一階層で修行しているらしい。武器はリビングメイルの剣を貸し与えているが、メグだけは自分の槍を使っている。

「ディアこそちゃんと魔法の修行やっているんでしょうね!」

「ああ、ほら」

 ディアは僅かに魔力を解放させた。その場にいた全員が振り返る。

「ちょっと! わかったわよ、引っ込めなさいよ!」

 アイナに教わった魔力制御。魔力そのものを操る魔法の技術だ。ディアは覚えが早いらしいが、これがしっかりできて初めて放出の魔法が使えるようになるらしい。だから移動中は歩きながらずっと魔力制御をしていた。もう意識せずともできるくらいに。


 ある日、魔法制御をしながら街道を移動していたディアは、ふと思い出す。レオナを紹介してもらった日に、彼女は水の魔法を練習していた。なんとなく、あれができそうな気がしたのだ。

 ディアが両手を向かい合わせて念じると、空中から瓶をひっくり返したほどの水がでてきた。

(できた……!)

 アイナからは身体強化魔法をすでに使っていると言われたが、正直魔法を行使している自覚はなかった。だが、目に見えて魔法だと思える現象を起こせたことには感慨深いものがあった。

 ───そのときに不思議なことが起きた。

 この水はどこから来るのかとふと思ったときだ。空気中に見えない水の粒と別の粒が融合して水になる。突然そう思えた。

 その粒の中にはさらに小さい粒があって、グルグルと運動している。この運動を早めるとお湯になり、止めると氷になる。

 ディアには水素や酸素、分子あるいは原子などの名前も知らなかったが、なぜかそんなイメージが湧いてきた。

「これは、ナギの知識か?」


  *


 初めてアイナに会って、首飾りを外した日。

「───アイナ、レベル2243だ」

「まあ、そんなもんだろうね」

 自分の【鑑定】が初めてできた。アイナによると、母親のドリーが持たせた隠蔽の首飾りがディアを【鑑定】させないようにしていたのだという。

(お母様は俺を守りたかったのだ……)

 魔女狩りは、魔力を持つ人間を狩っている。もしやあの魔女狩りは、

(俺が引き寄せたのではないか?)

 五歳の自分にどれだけ魔力があったのかわからないが、その可能性も否定できない。ドリーが祖母のクレハから受け継いだ首飾りを自分に渡したということは、すでに魔力制御ができていたということだ。そう思うと、自分が原因で家族や使用人たちが命を落としたことになる。真相はわからないが……

「ディアや、余計なことを考えるのはおよし」

 心のうちを読まれたのか、アイナがそう忠告する。化け物みたいな気配を秘めた老婆だが、その目は暖かかった。

「そうだな、アイナ。それと、聞きたいことがある」

「なんだい?」

「俺は島のダンジョンで、レベル400から600の相手に正攻法ではとても勝てなかった。レベル500のグリフォンとやったときも、その後しばらく動けなかったんだ。それなのにレベル2200越えはおかしくないか?」

 思えば、あの強敵たちに奇跡的に勝利した。たまたま幸運で勝てたときもあったのだ。

「あんた黒騎士に勝ったんだろう? それで大量の経験値を得たんだと思うよ。それに、あんたのレベルの1000以上は魔力のせいさ。その魔力を使えていないんだから、黒騎士とやる前は実質400位だっただろうね」

「なるほど、魔力が高いからレベルの数値だけは高い。つまり魔法を使えない俺のレベルは全く当てにならないな」

「そうだよ、レベルなんてただの数値。女の年齢と同じさ」


  *


 水魔法を身につけたディアは、その後も訓練を続けていた。

 空気中の見えない粒。さらに見えない何かの粒。それを魔力で操る。そんなイメージで水を出し、お湯を出し、氷を出し、雲を出す。ひたすらに練習した。

 ディアは魔女狩りの日から逃亡を重ね、それからダンジョンに潜るようになり強さを手に入れてきた。だがそれは生きるためであり、強くなることを目指していたわけではない。ノア・アイランドでもジローニをアークに会わせることだけを考えていたので、クリアして夢幻黒流剣術などというものを習得したが、便利だなと思うくらいで剣術にのめり込むようなこともなかった。

 だが、この〈魔法〉というものにディアは興味を持った。初めて水が出たときには、間違いなく感情のようなものが刺激されたし、何より母親が魔法使いだったからか憧れのようなものがあったのだ。そんなディアにとって魔法の修行は、幼少期からなくしていた〈楽しい〉ものだった。


「ただいま」

「使徒様お帰りなさい! 見て下さい、これ!」

 ノア・アイランドの家に帰ると、メグが革製品を見せてきた。

「三階層まで行っているのか。すごいじゃないか」

 カバやワニのいる階層だ。確かボスのレベルは45くらいある筈だ。

「ディア! 帰ってきたの?」

「37」

「え、やった! じゃなくて姉弟子に挨拶しなさいよ!」

「おかえり、レオナ」

「ちょっと褒めなさいよ! あたしもサルの階層クリアしたのよ! 火矢をこれでもかってぶつけてやったわ! もうすぐ40ね!」

「そういえば、レベルは女の年齢と同じだってアイナが言っていたぞ」

「え、何! どういうこと?」


  *


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