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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
第二章
47/112

◆第十四話 レオナ


 イクスの森の争乱をディアが収めたあと。何日かマユカとマルチダは王城に通っていた。プールイ領の奪還、そしてのちの同盟締結にむけての打ち合わせだ。

 ディアは途中、ノア・アイランドに飛んでジローニの様子を見てきたが、まだ〈廃墟のダンジョン〉の三階層をまわっていると言っていた。また迎えにくると言い残して屋敷に帰ると、

「ディアや、ちょっとおいで」

 アイナに呼ばれた。一緒に庭に出ると一人の少女がいる。赤い髪につばの広い帽子。黒いローブの下は短いスカート、ロングブーツ。手には木製の杖を持っていた。

「ディア、紹介するよ。この子はレオナ。あたしが面倒見ている」

 美しい少女だが、大きなつり目がきつい印象をもたらす。その目がディアをジッと見つめた。

「あたしはレオナ! お婆様の一番弟子よ!」

 腰に手をあて、なぜかビシッと指をさされて自己紹介をされた。

「……ディアだ」

「あんた暗いわね!」


 レオナはアイナに魔法を教わっているらしい。今は水を出す魔法を習っているところだった。

(魔法って、誰でも身につくものなのか?)

 アイエンドでは魔法使いは存在しない。もしいたとしても、それは魔女なので殺されてしまう。ギルバレでも魔法を目にしたことはなかった。なので、ディアが今までに見たことのある魔法使いは母親のドリーと、ゴブリンメイジだけだ。

 だが練習中のレオナを見ていると、手と手の間から水が滴り落ちている。

「あ、あたしは火の魔法が得意なのよ! ショボイとか思わないで!」

「わかった」

 ショボイとは思わなかった。むしろ感心したくらいだ。水を自在に出せられたら相当便利だろう。

「ディアや、あんたも練習するよ」

「え? お婆様、こいつも弟子入りさせるの?」

 若干いやそうな顔だった。

「ああ、そうだよ。あんたのおとうと弟子になるね」

「お、おとうと弟子? し、仕方ないわ! 姉弟子としてあたしが面倒見てやるわ!」

 なぜか顔を赤くしたレオナが、腰に片手をあててディアをビシッと指差した。

「アイナ。俺に魔法を教えるのか?」

「そうさ、あんたは魔法を覚えた方がいい。その魔力がおかしなことにならないうちにね」

(魔力だと? 俺に?)

「お婆様、こいつ全然魔力を感じないわ」

 レオナもこう言っている。

「ディアや、その首飾りを外してごらん」

 アイナにそう言われて、ディアは首飾りを外した。寝るときも風呂に入るときも、あの日から一度も外したことは無かった。

 首飾りをはずして手に持つと、自分でもわかるおかしな空気が一帯を渦巻いた。

「え、なに? 何なのよこいつ」

 レオナの顔は青ざめた。

「ディアや、自分を【鑑定】してみな」

 そう言われて、以前はできなかった自分の【鑑定】をやってみた。


〈人間 レベル2243〉


  *


「この屋敷は結界を張ってあるから安心おし」

 アイナは庭のテーブルセットに腰掛けながら言った。

「ディアや、まずその魔力を溢れないように意識するんだ」

 ディアはやってみる。この溢れ出るようなものが魔力か。

 僅かに感覚が掴めてきた。なんとなく身に覚えがある。そうか、【集中】だ。【集中】するときの感覚。

「自分の体の中にぐるぐる循環させるんだよ」

 体の中に、足から腰へ、腰から拳へ、拳から剣先へ。そうだ、夢幻黒流剣術の勁に似ている。

「そうだよ。そのまま」

 これを、体の中に。 循環。

「いいね。ゆっくり、そのまま」

 ぐるぐると。頭の先から、指先から。

「あとは魔力とひとつになるんだ。操ろうとするんじゃないよ」

 ディアは無心となる。黒騎士と戦ったときのように。

「お婆様。こいつ、もう……」

「ああ、魔力制御ができているね」


  *


 数日前。

「やっぱりそうか、あんたがアイだな?」

「そうさ、あたしがアイだよ。この写真は一体どうしたんだい?」

 一瞬、驚いたようにみえたが、アイナはすぐに落ち着きを取り戻していた。

「ナギから伝言を預かっている」

 ディアはテーブルの上に魔道具を取り出した。声を録音できる魔道具だ。ディアがスイッチをいれると、ナギの声が聞こえてきた。


 ───え、もう録っているの? 君なんか言ってから始めてくれるかな!

 ゴホン、アイ。聞いているかい? ボクはボクの記憶をインストールしているチャットAIだよ!

 ノア・アイランドのクリア報酬のために作ってあったんだ。

 これを聞いているってことは生きているよね。元気かな?

 えーと、ボクの記憶ってさ。アイエンド王国ができて、月のダンジョンを作った辺りからアップデートしてないんだよね。

 エラーなら良かったけど、そうじゃないから多分ボクはその頃に死んじゃっているかな?

 だとしたらせっかく結婚したばっかりなのにごめんね。やっぱりあのフラグが原因だったのかな。ははは。

 この頃のボクは子どものNPCを作ろうと思っていたはずなんだけど産まれているかな? 

 もし産まれていても今は生きていないだろうね。ちゃんとお婆ちゃんになるまで生きていけたかな?

 まあでもそれはやっぱり聞かないでおこうか。父親の資格なんてないからね。


 ところで今アイの近くにいるディア君だけどさ。いつ君に会えているかわからないけど、彼ならそう時間がかからないうちに会えていると思う。

 だから彼が若者の前提で話すけど、ボクたちの作ったアイエンド王国に酷い目にあっているんだよね。魔女狩りだってさ。

 ボクはそんな国はぶっ潰しちゃいなよって言ったんだけど、今は大国になっているんだってね。

 彼がこれからどう生きてくのかわからないけどさ、ボクの魂力も高いみたいだしいろいろ力になってやってよ!

 このディア君はさ、設定画面まで使った一度きりの初回クリアボーナスに何を願ったと思う?

 あのなんでもできる報酬にさ、仲間の無くした腕を生やしてくれって言ったんだ。すごくない? 多分、その仲間も引くと思うよ。

 でも、いいよね。ボク、このディア君を気に入っちゃったんだ! アイも気に入ると思うよ!

 あれ、赤ランプ? マジ? やば、録音時間がそろそろ切れるや。じゃあまたねアイ、元気でね。

 愛して……ピ───


 再生が終わった。


「マスター。いいところで……、ふふ」

 アイナは泣きながら笑っていた。


  *


「アイナ様、お陰さまでビス王国と同盟が結べましたわ。本当にありがとうございました」

 当初、ギルアバレークがプールイ領を奪還して、それを手土産に同盟を締結する予定だった。だが、ディアがイクスの争乱を収めたことで、先に同盟を結ぶことにつながったのだ。よって、二国が協力してプールイ領の奪還に挑むことになった。

 ディアがアスピ族の問題を解決したあと、ビス王国とアスピ族は和解してダンジョン管理を共同で行うことになった。

 今までビス王国側は使者や兵士を殺されている。しかし、ディアが今回アスピ族を四十人程殺しているので、お互いに矛を収める形となった。

 アスピ族にはゴーレム素材を加工する職人や鍛治師が多く、お互いにこれから交流が深まりそうであった───


「あたしゃ紹介しただけだよ。あんたたちが頑張ったのさ」

 そう言ったアイナはひとつの指輪をマユカに渡した。

「これはあんたの旦那につけさせな。国づくりがうまくいくおまじないだよ」

 銀色のシンプルな指輪。だが、このアイナがわざわざアークを指名して装着させようとしているのだ。ただの指輪ではあるまいと思った。

「ありがとうございます。必ず着けさせますわ」

 ほほほ、と口元に手をあてるマユカ。

「それで、その娘は誰なんだい?」

「私はイクスの森、アスピ族族長ワイズの娘メグだ。使徒様のお供をするように父から厳命を受けている」


  *


 数時間前。

「使徒様、どうか私を側に置いて下さい!」

「断るよ」

 突然メグが訪ねてきた。羽やツノの装飾品や、手に持った槍は相変わらずだが、布の服の上に革鎧を着ており前よりかなり文化的になっていた。

「ディアさん、それでは文化交流のための留学生とさせていただくのはどうですか? メグさんにこちらの文化を学んでいただいて、イクスの森の発展に役立てていただくのですわ」

 困り果てたメグにマユカが助け舟を出す。

「マユカ殿……!」

 メグは涙ぐむが───

 マユカにはメグを預かることで、ビス王国との同盟に保障を付ける狙いがあった。ビス王国とアスピ族は交流を始めたばかりなのだ。族長の娘がこちらの手にあれば、同盟をひっくり返すこともあるまいと。いわば、ビス王国に対する人質とも言えた。

 結局ディアはマユカの提案を飲んで、メグは一行に合流することになったのだ。


  *


「いきなり女を引っ掛けてくるなんて、ディアって見た目の割にチャラいわね!」

「レオナ殿、私は女としてついていくのではありません。使徒様の敬虔なしもべとしてお供するのです。その、使徒様が望めば話は別ですが……」

「あんたも不純な動機があるじゃないの!」

「レオナや」

 顔を赤くしてモジモジしているメグにレオナがビシッと指をさしていたところ、アイナがウォンカーを連れてやってきた。

「マユカや。このレオナも連れていってくれないかい?」

「え、お婆様?」

 レオナは動揺する。

「レオナ、お聞き。あんたは赤ん坊の頃からあたしの所にいた。他の世界、他の人間をほとんど知らないね?」

「そうだけど……」

「あたしはあんたの親にあんたを頼むと言われた。それはただ食事と寝どころを与えてくれってだけじゃないんだ。あんたを一人前の人間として育ててくれってことなんだとあたしは思っている。いい機会だ。ディアたちについていって外の世界を見てくるんだ」

「お婆様……」

 珍しく真剣なアイナの説得により、見捨てられたわけではないと思ったレオナは、一行に合流してギルアバレークへと向かうことになった。レオナ自身も、ずっとこのままアイナに頼って生きていくわけにはいかないと、心のどこかにそんな思いはあったのだ。


  *


 出立の日が来た。メンバーはマユカ、マルチダ、ディア、ハル。加えてメグ、レオナ、そしてウォンカー。

 来るときに乗っていた馬車に加え、ウォンカーが御者を務める二頭立ての馬車が加わり二台でギルアバレークに向かうことになった。

「それではアイナ様、大変お世話になりました。大事なお弟子さんも責任を持ってお預かりいたしますわ」

「そう気を使わなくていいよ。最低限の自衛はできるように仕込んであるさ」

「かしこまりましたわ」

 出発の挨拶を交わすマユカとアイナ。

「あ、そうそう。あと言い忘れたけどその子の本名はレオナ・プールイ。あの奪われたプールイ領主家のただ一人の生き残りさ」




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