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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第二章
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◆第五話 王城前の戦い



 エンパイア王国王都。その王城前の広場で、リオン王子を隊長とした討伐隊は反乱軍と対峙していた。王都民はすでに反乱軍が非難させているようだ。クーデターを成した後の統治に影響するためだと考えられた。


 エンパイア王国は約千年の歴史がある大国だ。王家は建国時から続く絶対君主のはずだった。しかし、こうしてクーデターをおこしているのは貴族派と呼ばれる者たち。彼らも王家に忠誠を誓っていたが、その派閥の長であるドクソン公爵と行動を共にすることになった。

 貴族派は主に地方領主に多い。対して王権派は王都で王城に勤めている貴族が大半を占める。王城には多くの騎士たちが常駐しているが、戦力では圧倒的に地方領の方が多い。領主が各自の領地に兵を持っているからだ。リオンは王権派の領地に早馬を飛ばしてあるが、おそらく足止めを回しているのだろう。今のところ、応援は来ていない。かき集めて千五百の兵。それと王都にいた百人の騎士。それもほとんど城外に出てきてこの数だ。反乱軍は二千。しかもそれは相手の戦力の一部だ。愛馬にまたがり反乱軍を見回したリオンは、ひとつため息をついた。


「派閥が違うとはいえ、同じエンパイア王国の兵士とこれからやり合うのか」

「殿下、このようなときに雑念は払わねばなりません。あの腰抜けのドクソンが突然謀反をしてきたのです。何か奥の手があると見ていいでしょう」

 側近に諌められたリオンは気を引き締める

「うむ、今は余計なことは捨ておこう」

 そこへ拡声の魔道具を使った反乱軍の口上が述べられた。

『リオン王子へ告ぐ! 大人しく降伏すれば命は取りません。王子とマユカ王女の生命も保証しましょう!』

 遠くに見えるドクソン公爵。でっぷりと太った初老の男だ。周りにいるのはアイエンド王国の貴族だろう。主に外交を担っていたドクソンは密かに国を売っていた。以前からこの男はおかしかったと、リオンは思い返していた。

「黙れ! 貴族の風上にも置けぬ売国奴よ! 長い歴史を紡いできたこのエンパイア王国はお前のような奴には渡さん!」

 リオンはそのように口上を返した。

『そうでしょうなあ。では交渉は決裂したということで。やっぱり愚かな王族ですな……』

 太鼓の音が響く。それを合図に両軍が怒声と共に前に出た。大量の矢が空を行き交う。地上では戦い合う両軍。同じ国の民。ドクソン、ここまでして王になりたいのかとリオンは顔を歪める。

「皆の者、反乱軍を王城に入れるな! 国を守るのだ!」

 リオンは兵士に喝を入れ士気を保つ。この第一王子が前線に出なければならないほど不利な状況だった。当初籠城戦を検討したのだが、援軍が期待できない以上打って出るしかなかった。旗頭のドクソンを討つ。それしかない。


  *


 反乱軍の後方部、王城前広場の入り口に陣を敷いているのはドクソン公爵とアイエンド王国の貴族だった。その中に白金の鎧をまとった騎士がいた。


「ドクソンちゃん、あの王子ムキになっちゃって可愛いよ! やっぱり食べちゃっていい?」

「キャノン殿、王族を全部殺してしまえば民はついてこないでしょう。生かしておくだけでいいのです」

 キャノンと呼ばれたのは緑色の巻き毛で猫目の少女。アイエンド十騎士の末席、序列十位の騎士だ。

「キャノン、言ったはずだ。エンパイア王を討ち取れば残った王子と王女はまだ若い。ドクソン殿が傀儡くぐつにするなり利用できるだろう」

 そう言ってキャノンを諌めたのは同じくアイエンド十騎士の序列七位、ワクワナだ。色黒の肌に銀髪のオールバック。鋭い眼光と筋肉質な体格が印象的な偉丈夫だ。

「ちぇー、じゃあ早く王様殺そうよ」

 頭のうしろに手を組み、口を尖らせるキャノンはつまらなそうに言った。

「その通りでございます、ワクワナ殿。キャノン殿、兵がもう少し減りましたら参りましょう」


  *


「耐えろ! 反乱軍も疲弊している。正義は我らにある!」

 ───おおお!

 いよいよ戦いも佳境に入り、リオンの側近たちも戦闘に加わるようになってきた。城を奪られたら終わりだ。騎士たちはリオンに言われるまでもなく、死に物狂いで剣を振った。討伐隊は王に忠誠を誓った者たちだ。幼少の頃から、それが生きる意味だとして生きてきた。しかも王族のリオンが直接前線に来ている。ここでやらなければ何が騎士だと、命を捧げるように戦っていた。

 だが、反乱軍とて余裕があるわけでもなかった。謀反に加わったからには、勝たなければあとがない。国を裏切ったのだ。負けるも死ぬも同じことである。もうやるしかない。そういう意味では反乱軍こそ死に物狂いだといえた。

 両者の意地がぶつかり合い、お互いに戦力を潰し合って半減させた頃。王都内にどこからかアイエンド王国軍五百人がわらわらと現れた。

「さて、お二人とも行きましょうか」

 ドクソンはアイエンドの兵士たちを事前に王都に忍び込ませて匿っていた。隊を組まずにそれぞれ旅人のように入国して、貴族派の屋敷に待機していたのだ。突然の援軍に討伐隊は耐えきれず、せきを切ったように王城内にアイエンドの兵士がなだれ込んだ。

「王子の確保をお願いできますかな?」

「引き受けよう。キャノンはドクソン殿に付いていろ。護衛と一緒に後から来い」

「えー、ビジュアル的にあっちがいいんだけど。まあ仕方ないか、わかったよぉ」

 ワクワナは騎乗すると駆けだしていった。


  *


「おのれっ、援軍が城に!」

「殿下! お下がり下さい!」

 反乱軍をなんとか抑えていた討伐隊であったが、突然現れたアイエンド王国の援軍によって防衛戦が決壊した。ついに城の中に侵入を許してしまったのだ。そこから大量の兵士がなだれ込んでいく。

「父上……! マユカ……!」

 リオンは剣を振りながら自軍の様子を目にするが、目の前には反乱軍が押し寄せている。もう、立て直すこともできなくなっていた。

 リオンは王子でありながら自ら剣を取って戦っていた。成人したての少年とも言えるリオンだったが、剣術の稽古は欠かしたことがない。初めての実戦は唐突にやってきた。そんなリオンの元に一騎の騎兵が近づいてくる。アイエンドの騎士だ。

「リオン王子、アイエンド十騎士序列七位のワクワナだ。ついて来てもらおう」

「なにを! この命果てるまで国を守ると覚悟はできておる!」

「殿下!」

 側近の騎士がリオンを庇い、前に出てワクワナと対峙した。

「どいてもらっていいか? 俺は別に殺しが好きってわけじゃない」

「誰がどくかあっ!」

 騎士がワクワナに剣で斬りつける。ガン! と剣が胴体に当たるが、ワクワナは眉ひとつ動かしていなかった。

「無駄だ。避けるまでもない」

「そ、そんな……」

 ワクワナは騎乗したまま、リオンを剣の平でぶっ叩いた。吹っ飛ばされて失神するリオン。

「おーい、そこのお前たち。二人でこの王子を運んで来てくれ。あと、誰か一人馬を陣に連れていってくれよ」

「ワクワナ様、了解です!」

 ワクワナは近くにいたアイエンドの兵士に命じ、リオンを連れて王城に入っていく。城の中はどうやらもう制圧できているように見えた。エンパイア王国騎士の死体を避けながらワクワナは進んでいく。


「ドクソンちゃん、王子は終わったみたいよ。あたしたちもゴミを片付けしながら行こっか」

 後方部から戦闘を眺めていたキャノンが言った。うずうずしているように見える。

「どうやら城の中はもう片付いているようですな。キャノン殿、エンパイアの兵士も後々の統治で使うかもしれません。お手柔らかに」

「逃げたり降伏する奴はやらないようにするよ! 向かってきた奴は片付けちゃうね」

 そのような会話のあと、キャノンを先頭にしてドクソンは護衛たちと共に入城した。


  *


「女の騎士とドクソンが城に入っていったな。男の騎士は王子を連れていった。生かしてあるようだ。城の周りは反乱軍八百人、討伐隊六百人、アイエンドの援軍は全部城の中だ」


 王都郊外の丘の上。エルフィンが魔眼で確認する。アークたちギルバレの協力隊は乱戦に参加せずに、ここで待機していた。今は各小隊が離れて命令を待っている。アークたちは王城が攻められているときも一部始終を見ていた。助けに入れば状況は変わったかもしれないが、アイエンド王国の援軍が来るというライアンの情報を信じて待った。

「よし、エルフィンは他の小隊と合流だ。まずオレたちだけで先行する」

「了解」エルフィンが乗馬してその場を離れる。

「ヒューガー、よく我慢したな」

「あそこで突っ込めばどうなるかくらい俺でもわかる」

 今でこそギルバレの騎士団長を務めてはいるが、もとはエンパイア王国の子爵だったヒューガー。彼の家は王権派だった。

「挟まれなければ勝ち目はある。ここまで我慢したんだ」

 王女様、生きていてくれよ。そんな思いが脳裏に湧く。アークはあの美少女の顔を思い浮かべた。

 アークとジローニは馬に跨り、ディアは巨大な豹に乗る。

「ヒューガー、小隊が揃ったら後ろから突っ込め。ジローニ、ディア、いいか?」

「待ちくたびれたぜ」

「大丈夫だ」

 首に手をあてコキコキと鳴らすジローニ、いつも通りに無表情のディア。

「行くぞ!」

 アークの掛け声と共に、二頭の馬と一匹の豹が駆けだしていった。




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