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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
第二章
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◆第三話 ひとときの休息



 ジューンの宿に帰ったディアは、先ほどまでアークたちと話していたことを思いだしていた。ディアはアイエンド王国の魔女狩りから逃れるために、ギルバレから旅に出ようとしていたところでノア・アイランドに飛ばされた。

 その後、ナギから〈帰還の輪〉をもらったことでこれは丁度いいと、あの島で暮らそうと考えていたのだ。衣食住に困ることない便利な場所なので、一生あそこで過ごすつもりだった。だが師匠であるアークは自分の事情を知り、居場所を作ろうとしてくれた。ギルバレを国として立ち上げ、外敵から守る場所にすると言う。その想いはディアにも伝わった。さらにはハナエの名前が決め手となり、ディアはギルバレに残ることにしたのだ。

「予定が狂ったな……」

 ベッドに寝転びながら、ディアは呟く。

「魔女狩りなんて私がブレスをぶっ放してあげます。マスターは優し過ぎるんですよ」

 同室のハルは鼻息を荒くした。

「優しいわけないだろう。俺は今まで三十人は殺しているんだ」

「それは殺された人が悪者なんです」

「そうかな」

 自分に何ができるかわからなかったが、師匠であるアークが国づくりをすると言う。そのきっかけが自分であり、世話になったハナエのためになるなら協力しようか。そう考えながら、ディアは眠りについた。


 翌日、しばらく宿泊を延長する旨を伝えるとモモは喜んでいた。モモは生前のサキに懐いていたから、そっくりなハルがいれば嬉しいのだろう。ジューンの提案により、ハルは食堂で働くことになった。それならば自分はまたダンジョンに潜って金を稼ぐべきか。一応、ノア・アイランドでドロップした財宝があるのでその必要性はないが、何もしないでいるのも気が引ける。自室で一人、そんなことを考えているとドアからノックが聞こえた。

「ディア、黒髪で眼鏡の変な女が来ているけど通していいか?」

 ジューンの声だ。あてはまる心当たりは一人しかいない。会いたくなかったが、アークが大目に見てほしいと言っていたのを思い出して、面会だけはすることにした。


「あんたもしつこいな」

「いえ違うんです。ディアさん、どうしても聞きたいことがありまして」

 部屋に案内されたミドリは真剣な表情だった。

「なんだ?」

「ディアさんは神様とお話しされたんですよね?」

「本人は一般人だと言っていたぞ。学生だったとか」

 ナギの話を思い出す。神の世界では普通の若者で、病気になってこの世界を作ったとか。

「それもよくわかんないのですが、神様とどんなお話しをされたのでしょう?」

「理解できない所は飛ばしていいって言うから、ほとんど流して聞いていた」

「ググっ、なんてもったいない」

「ノロケ話が多かったな。結婚して子どもができないから、材料を用意して作ったとか」

「キタキタ! それ! どうやって子どもを作ったのでしょうか?」

 眼鏡の奥が光る。何やらミドリの背後に、ダンジョンの魔物のような気配が滲み出していた。

「なんだったかな。たしかあばたーという体を作って、えーあいって知能をつけて、魂のエネルギーを入れたら出来上がりとか言っていた」

 ディアはできる限り思いだして説明する。

「そこ! そこがイイんですよ! そこをもっと!」

「意味の分からないことばかりだったからうろ覚えなんだ」

「あー、もう! こうなったらディアさん、ワタシと一緒に子どもをつくりましょう!」

「断るよ」

「ハッ、いけない。また斬られるところでした」

「あんた何を知りたいんだ」


  *


 ミドリは魔法や魔道具の研究をしているうちにゴーレムの存在と出会った。どう見てもただの石や鉄が動く。ミドリの好奇心は強烈に刺激された。

 天才的な頭脳を持っていたミドリは研究に没頭して、ついにゴーレムを作り上げた。しかし本物のゴーレム、つまり魔物と比べるとどうしても劣る。動きも単純だ。命令を聞くことはできても、自分で考えることができない。作業用としてはいいのだが、それでは満足できなかった。冒険者ギルドで手に入れた本物のゴーレムと、目に見える所は全て同じに作ってもダメなのだ。

 何が違うのだろうか。そう思い悩んでいたときにハルを見つけてしまった。人間そっくりの外見、人間と変わらない知性、そして主人を思いやる優しさ。それは感情まで持ち合わせているということだ。

 ───完璧だった。

 さらに主人のディアは神と会話をしたと言う。この奇跡のゴーレムを作った神だ。ミドリの興奮と知識欲は最高潮に達してしまった。


  *


「たしかナギが言っていたのは、最初の世界の人間は作り物の魂を使っていて不満だったらしい。だからその世界を一度壊して新しい世界の生き物に自分の魂を使ったとかそんな話だった」

「なんて神々しい話を……。つまり、ワタシの魂をゴーレムに注入すればいいのですね!」

「そしたらあんた死んでしまうと思うぞ。そうだ、ナギは神の世界で高い買い物をしたって言っていた」

「ディアさん、あなた情報を小出しにしてません?」

 ミドリはそう言うが、そのときはあとで人に説明するなんて思っていなかったのだ。

「あんまり聞いてなかったんだ。それなら逆に、魂の宿っている肉体にゴーレムを融合してみたらどうだ?」

「どういうことですか?」

 ポカンとするミドリ。

「ギルバレには腕や足がない奴がいるだろう。そいつらに義手とか義足のゴーレムを作って自分の意思で動かせたらあんたの研究も一歩前進するんじゃないか? 成功すれば人助けにもなるし」

 ディアはジローニを思い浮かべていた。彼は神の報酬で腕を取り戻すことができたが、体の一部を欠損してしまった冒険者はそれほど珍しくない。ただ、冒険者を続けられなくなると街のゴロツキへとなっていくのだが。

「あうっ! ディアさん、あなた、最高です! 最高! アハーン! 最高ぅぅ!」

 何気なく言った提案だったが、それがミドリの欲求に刺さったようだった。ディアはその様子を見て、ここまで興奮して喜ぶなら研究がうまくいくといいなと思った。

 ミドリが絶頂して帰った後、ジューンが部屋に顔を出した。

「ディア、モモの教育もあるから宿ではその、そういうのは、ちょっと……」

「なんのことだ?」


  *


 ディアたちがギルバレに帰還してから数日が経った。ディアはハルと訓練をしたり、草原を一人で散歩したりと特に島での生活と変わらない日々を過ごしていた。

 ギルバレダンジョンにも行ってみたが、十階層のボスはもうユニではなかった。黒い狼の魔物で、十一階層のボス部屋は無人のままだった。

 ダンジョンは以前と違いギルド職員によって細かく管理されており、怪我や行方不明者の対応を兵士たちが迅速に行うようになっていた。

 ディアはもうギルバレダンジョンではやることがなかった。最高でも十階層にいる狼のボスがレベル70なのだ。

 十一階層の魔牛を五頭狩って【収納】にしまい込む。売ってもいいが、【収納】にしまえば腐らない。このまま置いておき、機会があったら食べようと思った。

 ふと〈帰還の輪〉のことを思いだして、試しにノア・アイランドの家に転移した。ハルは宿に置いたままだ。思考するだけで転移できた。ディアが立っているのはジローニと共に三年を過ごした家。家具や荷物が減ってガランとしている。最後のダンジョンに向かうときに、二人で【収納】にしまっていったのだ。

「戻しておくか」

 いくつかの生活用品を家に戻す。これでいつ帰ってきても最低限の寝泊まりはできるだろう。満足そうに部屋の中を眺めたあと、ディアは草原のダンジョンに向かった。最初に転移したのは三階層、カバやサイの魔物がいる階層だ。

 あのときはまだ【鑑定】がなかったが、ボスはレベル45の魔物だった。それを今回は素手のみで倒した。あの死闘を潜り抜けたのだ。どれほど強くなっているのかを試すつもりだったが、どうやらここに初めて来たときより格段に強くなっているようだ。

 繰り返し魔物を倒していき、ボス部屋へと向かってみた。全身を毛に覆われた、頭ひとつ大きな象が扉から出てくる。

〈エンシェントマンモス レベル80〉

「あの巨大な象はマンモスと言うのか」

 レベル80ならたいしたことないな。と、今ではそんな感想が頭をよぎる。

「ブバオォおおお!」

 【威嚇】が飛んでくる。感情がなくてもいいことはある。この【威嚇】は相手の恐怖心を増幅させるスキルだそうだ。もともとそんなものを持ち合わせていないディアにとっては、ただうるさいだけの咆哮だった。前回は【集中】を使い眼球に大剣を刺して倒した。今回はその【集中】を使わず、空中を三歩蹴ってマンモスの首を一刀両断した。

 グリフォンのブーツ。古城のダンジョン三階層で手に入れたものだ。そのあと気を失って、体が壊れてしまった。ハナエの本がなかったらあれで終わっていただろう。このブーツはハルのように空を飛ぶことはできないが、空中を駆けることができるすごい装備だ。

 そしてこの魔剣。刀身が届かないところまで綺麗に切り落としている。間合いに慣れなければならないな。そう思ってふと刀に目をやる。

〈魔剣黒凪 レベル18〉

 最初に見たときはレベル1だった。

「そうかこの魔剣、成長するのか」


  *


「マスター、お帰りなさい!」

 宿に帰ると、上空からそんな声がした。見上げると、翼を広げたハルがモモを抱いて十メートル程浮かんでいた。遊んであげているのだろう。黄色い悲鳴をあげて喜ぶモモを抱いて、宿の周りをぐるぐるとまわっていた。

 そんな日々を過ごしているうちに、エンパイア王国でクーデターが起きたとの知らせが入った。




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