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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第二章
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◆第一話 再会



 神の作ったダンジョン島、ノア・アイランドをクリアしたディアとジローニの二人は、オリハルコンゴーレムのハルと共にギルバレの街へと帰ってきた。そこでアークと再会し、彼がギルドマスターを務める冒険者ギルドへと案内されることになった───


「なんだ、この建物は……」

「この中に冒険者ギルドがあるんだよ」

 ジローニの唖然としたつぶやきにアークが答える。

 ディアやジローニの知る冒険者ギルドは木造二階建ての建物だったが、案内されたのは五階建ての四角い巨大な建物の上に城が建設された複合施設だった。

 中に入ると、冒険者ギルドの受付カウンターが並んでおり、奥には見覚えのある酒場スペースが残されていた。

 活気のあるギルド内。職員の数も増えていて、以前より空気が明るく見張の兵士も立っている。そんな光景を眺めるディアたちのもとに、受付カウンターの中から一人の女性が歩いてきた。

「ディア……、お帰りなさい」

 その声はディアもよく知る職員、ミルナだった。

「ミルナか。久しぶりだな」

「ふふ、大きくなったわね。でも変わらないわ」

 優しい微笑みを浮かべ、その目は赤くなっていた。

「忙しそうじゃないか。仕事はいいのか?」

「いいのよ。こう見えても出世したから少しくらいは任せておくわ」

 どうやら部下ができたらしい。ディアの知る三年前はミルナを含めて五人もいなかった受付職員が、見ると二十人ほどはいるようだ。

「へえ、あの新人がたいしたもんだ」

「え、あなた……。ええっ、ジローニさん!?」


  *


 冒険者ギルドの応接室。ディアとジローニがソファに腰掛け、後ろにハルが立っていた。

「えーと、つまり? ジローニは牛頭を出し抜いて生き延びたら狼に島へ飛ばされたと」

「そうだな」

 向かいに座るアークに、ジローニが経緯を説明していた。ディアは全てジローニに丸投げである。

「片腕で十一年過ごしていたらディアがやってきた」

「そうそう」

「それでディアが七つのダンジョンを踏破して、神様に腕を生やしてもらって帰ってきたと」

「そういうことだ。わかってくれたか、アーク」

「なんか、だいぶ端折ってねえか?」

「説明すると長くなるんだよ」

 ディアは今の説明で充分じゃないかと思ったが、アークは不満そうだった。

「それよりそっちの方も、話すことがあるだろう。街の様子がすっかり変わっているじゃないか」

「オレがディアの手柄を横取りしてギルマスになったから街を開発しているところだ」

「短いな!」

 ディアはアークの説明に納得していたが、今度はジローニが不満そうな態度だ。結局、アークがギルドの仕事を終えた後に、食事をしながら再会を祝うことになった。そのときに詳しく話をするそうだ。ディアは二人を会わせたらすぐに旅立つ予定だったが、それなら一日くらいは別にいいかと思いなおした。

「あなたがディアさんですか?!」

 突然、白衣を着た眼鏡の女性が部屋に駆け込んできた。

「おい、ミドリ! 来客中だぞ」

 慌ててアークが諌める。

「ディアさん! ハルさんをワタシに下さい!」

 ミドリと呼ばれた女性は、白く光る眼鏡の奥から瘴気を溢れさせていた。

「断る」

「何故ですかー!」ミドリがディアに詰め寄り───

 ───同時に首を斬られてその場に倒れた。落ちた首の目が見開いたまま白目を剥く。

「幻視だ、そのうち起きる」

 ディアは夢幻黒流剣術の奥義【幻視】でミドリに幻を見せたのだ。

「お前相変わらず容赦ねえな」

 幻視を目の当たりにしたアークも顔を青くしていた。

「昔アークに教わったからな。ちゃんと手加減できただろう?」


  *


「いらっしゃい。おや、もしかして坊やかい?」

 ギルドを出たディアはハナエの薬屋へと足を運んでいた。あのときのポーションでアークまで助かったのだ。しかも後から聞くと、普通金貨三十枚では最高品質のポーションは買えないらしい。子どもの自分に安く売ったのだろうと思った。それにハナエにもらった本が無ければ、あのダンジョン島から出られなかったはずだ。ディアにとって、礼をするのは当然のことだった。

「ハナエの本のお陰で助かった。これはダンジョンで手に入れた素材だ。受け取ってくれ」

「あんた、これ世界樹の素材じゃないか! それにこれはグミカン草! こんな物どうやって手に入れたんだい?」

「いいダンジョンに潜ったんだ。素材はまだあるから気にしないでくれ」

「これだけで金貨三百枚はするよ」

「あの本にはそれ以上の価値があった」

「そうかい……。じゃあ遠慮なく貰っとくよ。まったくなんて坊やだよ」


「ガルフ、いるか?」

 カウンター奥の作業場から、皮の作業手袋を外しながら白髪の老人が出てきた。ディアはハナエの店を出たあと、ガルフの武器屋に足を運んでいた。

「ん? お前アークの弟子のディアじゃないか。生きておったのか」

「ああ、あんたの打った剣のおかげで生きていた。これは礼だ」

【収納】からインゴットを取りだす。

「礼だと? あの短剣か?」

「いや、あんたがジローニに打った大剣だ。あの剣が無ければ俺もアークも死んでいたしジローニが戻ってくることもなかった」

「ジローニ? あやつは死んでおるじゃろ」

 説明が面倒だと思ったディアは、そのうち本人から聞いてくれと言い残し店を出た。背後で「これはミスリル!?」と声がしたが、ディアはハルを従え歩いていった。


「一泊いいか?」

「ディア? 帰ってきたのか!」

 ディアはジューンの宿へと来ていた。入り口の食堂へ入ると、厨房には見知った顔の主人がいた。

「お父さん! ディアが戻ってきたの!?」

 奥からモモが駆けだしてきた。もう十三才になるはずだ。ディアの記憶よりだいぶ成長していた。そのモモが、ディアたちの姿を見て唖然とする。

「え、ミサキお姉ちゃん……?」

 ディアの後ろに立っていたのは、以前ジューン親子と共に働いていたミサキにそっくりの女性。モモはオリハルコンゴーレムのハルを見て動きが止まり、そして涙を溢した。


「───じゃあ、そのダンジョンをクリアしていったらミサキにそっくりになったってわけか」

 テーブルの向こうに座るジューンはまだ動揺しているようだった。事実をそのまま話したのだが、ディアは説明が得意ではない。それに、なぜゴーレムのハルがサキそっくりに変化したのか自分だってよくわからないのだ。

「そうか。不思議なこともあるんだな」

 それでもジューンはしつこく聞くことはせずに、納得してくれた。

「お父さん! ミサキお姉ちゃんが生き返ったみたい!」

「ああ、嘘みたいだな。こんなことがあるなんて……」

 親子は嬉しさと戸惑いが混じりあっているように見える。

「ミサキが生き返ったわけじゃない。生まれ変わったと思えばいい。ミサキは死んだし、こいつはハルだ。ハルは俺の仲間で、今まで共に戦ったゴーレムだ」

「うん、そうだね。でもやっぱり嬉しいよ」

「モモちゃん、私にミサキさんの記憶はないんです。でもジューンさんやモモちゃんが大好きだって気持ちが溢れてきます。だからきっと私はミサキさんの生まれ変わりなんです」

「う、うう。ハルお姉ちゃん!」

「くっ……」

 親子は感極まってしまった。これまで親しい人を失くしてばかりいたのだ。ディアはその気持ちを共有することはできなくても、なぜ二人が泣いているのかは理解できるような気がした。


 ディアはジューンの宿に部屋をとった。あの頃と同じ部屋が空いていたのだ。

「これは土産だ。世界樹の実といって美味い果物だ」

「お前、これは……」

「へー、美味しそう! ディアにしては気がきくじゃない」

 ジューンは世界樹の価値を知っていたのか、何か言おうとしていたようだ。だが、ディアの目を見てそれを堪えた。

「ディア、時間ある? ミサキお姉ちゃんのお墓に行こうよ!」

「わかった」

 ディアとハルは、モモと共に墓のある丘へと向かった。三人は一緒にサキ、それとモモの母の墓に手を合わせ、また宿へと帰っていった。ハルと手を繋いで帰るモモの足取りは軽く、後ろを歩いていくディアはその光景を何も言わずに眺めていた。



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