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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
第一章
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◆第一話 うらぶれた男 2

「なんだ、あれ?」

「アークじゃないのか?」

「いや、その隣……」

 ギルドに近づいていくと、冒険者たちのざわめきが聞こえてきた。

「な、なあ、やっぱりオレが持つって」

「いい。俺は荷物持ちの仕事をしているだけだ」

 黒ウサギの長いツノを肩に担いだディアは、涼しい顔でそう言った。


 ギルバレダンジョンの一階層で黒ウサギを仕留めた二人は冒険者ギルドに戻ってきた。ディアは背中にリュックを背負いながら巨大な黒ウサギを担ぎ、隣のアークは手ぶらである。どういうわけか、この子どもは怪力の持ち主だった。

「まさか、あのガキに全部持たせてんのか?」

「おっさんは手ぶらかよ。いいご身分だな」

 まわりのヒソヒソと話す声にアークは気まずくて仕方なかった。手伝うと言ってもディアが聞かないのだ───


「ミルナ、買い取りだ」

「アークさん、これってレアモンスターじゃないですか!」

 冒険者ギルドはちょっとした騒ぎになった。あのうらぶれたおっさんが突然大物を仕留めてきたと。しかも子どもに全ての荷物を持たせて。

「あのおっさんって本当は凄腕だったのか?」

「そういや、B級冒険者だって聞いたことがあるぜ」

「それにしてもよ、あれはねえんじゃねえか」

 うん。言わんとすることはわかる。アークは自分でもそう思った。

「見ろよ。あのガキ目が死んでるぜ」

(元からだよ!)

 荷物持ちとはいえ、子どもに全ての荷物を持たせて自分は手ぶら。まるで虐待でもしているかのようだ。

(違うんだよ……。オレが持つって言ったんだって……)

「アークさん、全部で金貨五枚です」

 査定が終わって、ミルナが乾いた目で言った。

「お、おう。一枚預けておいてくれよ……」

「アークさん。あの子をお願いしますって言いましたよね?」

「違うんだよ、ミルナ……」


  *


「ほら、お前の取り分だ」

 アークは金貨四枚をディアに渡した。

「こんなにいいのか?」

「何言ってんだよ。あの黒ウサギはお前が仕留めたんじゃねえか。お前の冒険者登録をしてねえから、オレの記録になっちまったけどよ」

「わかった。ありがとう」

 二人は酒場で向かい合って座っていた。

「なあディア。明日からお前に冒険者の基本を教えてやるよ。これからは自分で魔物を仕留めて素材を売るんだ」

「いいのか?」

「ああ、お前が戦えるってのはわかった。だが冒険者には冒険者のやり方がある。それをお前に教えてやるよ」

 このギルバレで生き抜くには腕っぷしだけでは通用しない。アークはかつての師匠でもあり相棒のジローニから多くのことを教わった。それをこの子どもに伝えようと思ったのだ。ディアの冒険者登録ができるまで素材はアークが換金して金をディアに渡す。その代わり荷物持ちの報酬は無しだ。

「それでいいか?」

「わかった」

「じゃあ今日からオレはお前の師匠だ」

「師匠?」

「冒険者にはそういう師弟関係ってのがあるんだよ。お前はオレの弟子ってことだ」

「わかった」

 そうしてアークはディアの師匠となった。


  *


「おーい、ガルフ。いるか?」

「なんじゃアーク、生きとったか」

 アークは商店街の武器屋にディアを連れていった。彼がここに来るのは久しぶりだが、壁に飾ってある剣や盾を見るにどうやら腕は落ちていないようだ。

「こいつはオレの弟子でディア。革鎧を作ってやってくれ」

 ガルフが作業の手を止めてカウンターの奥から出てきた。アークの知るときよりも白くなった髭に、使い込まれている前掛けが相変わらず熟練の職人らしさを醸し出している。

「アーク、まさかこの子に戦わせるつもりか?」

「ああ、こう見えてすでにオレより強いかもしれねえぜ」

「そんなにか。まあお前がそう言うならそうなんじゃろうな」

 ガルフはアークがくすぶる前からの付き合いだ。全盛期のアークを知るガルフは、そんな彼の言葉を信じたようだ。

「狩り場は?」

「三階層までってとこだな」

「なら軽くて動きやすい方がいいじゃろうな。どれ坊主、採寸するか」

 ガルフが採寸していくと、ディアの背中の剣を見て手が止まった。

「坊主、この剣も手入れせにゃいかんのう」

 ガルフはディアの持つ剣が気になったようだ。

「すぐできるか?」

「革鎧と合わせて三日くらいじゃの」

「じゃあ頼む。あと、予備の短剣が欲しい」

「剣に予備なんていらんじゃろう」

「すぐ折れるんだ」

 剣などそうそう折れるものではないが、買うと言うなら売るのが商売だ。ガルフはディアに剣を見繕っていた。

「これなんか軽くていいぞ」

 ガルフの持ってきた剣をディアがヒュッと振る。

「できれば丈夫な剣がいい」

「それじゃと……これになるが重いぞ」

 手渡された剣をまた振ってみるディア。

「こっちにする」

「ほう、見た目のわりに力が強いの」

(あんたが思っている以上にな……)

 アークは二人のやり取りを見ながら、そんなことを考えていた。

(そういや、この店を紹介してくれたのもジローニだったな……)

 アークはふと、このギルバレに来たばかりの頃に思いを馳せた────




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