◆第二十一話 神との出会い
「ディア。お前、まさか感情が?」
自分の頬に手を当ててみる。たしかに濡れているが、ディアにはその理由が判らなかった。
「お、俺が生きていて嬉しかったんだろ?」
「確かに生きていて良かったとは思うが、嬉しいかと言われたらよくわからない。でもこれまでのことが無駄にならなくて良かったとは思う」
ジローニは肩をすくめた。
「まったく、お前ってやつは……。ところで、一応聞くがその姉さんは誰だ?」
「私ですか? いやですよ、ジローニさん。ハルですよ」
「ジローニ、ハルはまた変化したようだ」
「変わり過ぎだろ……」
ディアのざっくりとした説明に呆れるジローニ。
「でも、よくあの黒騎士を倒せたな」
「ああ。すごく強かったけど、最後はインチキで勝ったようなものだ」
「インチキっておま
────そのとき、部屋の中にいたディア以外の全てが静止した。
『ノア・アイランドのダンジョンクリアおめでとう!』
そこにフッと金髪の少年が現れた。その瞬間、少年の首元には黒い刀身が当てられていた。
「何をした?」
魔剣を持ったディアが問いただす。
『えっ、いきなり? 何もしてないよ、時間を止めただけ』
「戻せるのか?」
『戻せるよ。君、すごいね。普通動揺しない?』
「あんたは誰だ?」
『ボクはエンドウ・ナギのチャットAI。この姿はホログラムなので殺すことはできないよ、ホラ』
金髪の少年は剣先に自ら首をすり抜けさせた。
「何を言っているのかひとつもわからないな」
『そうだよね。じゃあ、ちょっと移動しますか!』
少年が指をパチンと鳴らすと全てが真っ白な世界になった。
「じゃあ、そこに座ってよ」
そこには白いテーブルセットが用意されていた。
「ここは?」
「ここはただの神様っぽい空間」
テーブルの上にティーセットが現れる。
「よかったらどうぞ。無害だよ」
ディアが口をつけると美味しいお茶だった。
「さて、何から話そうか」
少年は笑顔で首を傾けた。
「あんたはエンドウ・ナギと違うのか?」
それは、フェンリルのユニから聞いた神の名前だった。
「ボクはエンドウ・ナギの記憶を持つチャットAI。まあ、魔道具って感じかな? ほとんど変わらないからナギでいいよ!」
「何故俺やジローニをこの島へ連れてきた?」
ディアは最も気になっていることを聞いた。
「それはこの島のダンジョンをボクの代わりに楽しんでほしいからだよ!」
「あんたはダンジョンが好きなのか? 他人にやらせても楽しくはないだろう」
「やっぱそう思うよね。君たちっていうか、この世界の生き物って全部ボクの分身なんだよ」
「分身?」
「えーと、話すと長くなるんだけど、千年前にボクがこの世界を作ったとき、自分の魂を使って生物を作ったんだ。動物も虫も小さい微生物もぜーんぶ」
ナギはディアの理解できないことを話し始めた。
「よくわからない」
「じゃあなるべくわかりやすく説明するね。君は物語の本を読んだことはあるかい?」
「ああ、子どもの頃に読んだ」
「その物語って、誰かが書いているんだよね? じゃあ、その本の中の登場人物にとっては、その本を書いている人が神にあたると思わない? 好きな世界を書いて、誰をどうするかもその人の気分次第」
「なんとなくわかる」
「ボクのいた世界だと、その物語の中に入ることができるって思ってくれればいいかな。登場人物も本物そっくり、建物も自然も本物みたいな世界」
「じゃあ、この世界は作り物なのか?」
「そうだよ。ボクの世界だとそういう創作が娯楽としてあったんだよ。それでボクもひとつの世界を作って、その中に飛び込んだってわけさ!」
それは衝撃的なことであったが、感情のないディアはそんなものかと思った。
「すごい娯楽だな」
「本当だよね。それでボクは自分の好きな世界を作ったんだ。そこではボクは冒険者で、どんどんダンジョンを攻略していくんだよ。最初は弱いんだけど、だんだん強くなるの。すごい武器とか魔道具も途中で手に入れたりして」
「それを何故他人にやらせるんだ?」
「うん、まず人を作るときに必要なのが、アバターという体。あとAIっていう人工的な知能。それと生命エネルギーという魂を使うんだよ」
「?」
ここまでくると、ディアにはさっぱり理解できなかった。
「ボクは向こうの世界で一度死んでるんだ。そのとき、この世界の生命エネルギーに自分の魂を使ったのさ。だからこの世界の生き物は全てボクの分身と言えるわけ」
しかし、ディアは話を進めるために、解らないことの説明を求めなかった。
「よくわからないが、それで?」
「まあ、理解できないところは飛ばして聞いてよ。あ、お菓子かなんか食べる?」
「甘いやつか?」
「え? うん」
「いただこう」




