◆第十九話 生まれ変わる
「ジローニさん、マスターが目を覚ましマシタ!」
「ディア、起きたか!」
ディアが目覚めると拠点の家にいた。古城のダンジョン三階層にて、死闘の末にグリフォンを倒したディアはそのまま意識を失っていた。ジローニは野営地ではなく即座に拠点に帰ることを決断した。行くのに二十日かかった道程を十日で帰ってきたのだ。
「ハルが休まずに馬車を引いてくれたんだよ」
「そうか。ありがとうな、ハル」
「当然のことをしたまでデス」
ディアはあのとき、かなり無理をした。【集中】を三回使ったし、最後のはいつもより強力だった。腕を見ると赤く鬱血している。
「そうだ、あのグリフォンからドロップしたのはこのブーツだったぞ。大きさからして、ボスを倒したお前用だろう」
ジローニが羽毛の飾りがついたブーツを取り出す。
【鑑定】してみるとズキンッ!と、強烈な頭痛が襲った。
〈グリフォンのブーツ〉
「【鑑定】を使うと頭痛がするな」
ディアは続いて【集中】を試みたが使えなかった。【鑑定】まではまだかろうじて使えるが……
「【ヒール】」
(これもダメだ。使えなくなっている)
「ジローニ、体が少し壊れたみたいだ。治さないと今後の戦闘は難しい」
「そうか。あれほどの敵を倒したんだから仕方ないさ。ゆっくり治療しよう」
「ポーションを作ってみる。この島なら材料はあるはずだ」
「ポーションなんて作れるのか?」
「作ったことはない。だが、薬師のハナエが書いた本がある」
*
「なあ、ディア。これどう見ても毒のあるやつだぞ? その薬師の書いた本大丈夫か?」
「ハナエは信用できる。それにどのみち俺が治らなければ次の階層以降は進めない」
ハナエの本によると、最高品質のポーションの材料は毒草ばかりだった。
「ただいま戻りマシタ」
「おう、おかえり。ハル、どうだった?」
「仕留めてきマシタ!」
「おお! これで材料が揃ったな!」
外に出てみると、片方の羽がもがれたワイバーンの死体が横たわっていた。
「ディア、どうだ……?」
「ダメだ。〈猛毒〉だった」
「またか……。これで二十回目だ。ほんとに合っているのかな」
「ハナエは一人前の薬師になるには十年はかかると言っていた。次はリンリン草をもう少し増やしてみよう。小皿四分の三って書いてあったのが気になる」
ディアたちは、ハナエの本を元にポーション作りに勤しんでいた。正しい器具がないため分量などは試行錯誤となる。
材料には多くの種類の毒草が必要だった。ジローニは半信半疑であったが、ディアは疑うことなく毒草を組み合わせ続けた。どのみち【集中】無しでは踏破できるとは思えない。完成するまでやるしかないのだ。
───ポーション作りを始めて半年以上経った。ディアの腕はすっかり完治していたが、【鑑定】を使うときの頭痛は相変わらずだ。
ディアたちは途中、世界樹の実や世界樹の蜂蜜、それに疲労に効くと書かれたグミカン草など数種類の薬草を調合してみたりもした。
〈体力回復薬 最高級〉
体に良さそうな物を混ぜ合わせただけですごい物ができた。ジローニが言うには、これ一粒で一日寝ないで戦えるとのことだった。
そうしてまた調薬の日々が続いていき、その日もできあがったものをディアが【鑑定】した───
「ディア……、今度はどうだ?」
「知らない物ができた。猛毒ではないが、最高品質のポーションじゃないな」
その鑑定結果は〈エリクサー〉だった。
「ディア、どうだ……?」
エリクサーを飲んだディアに、恐る恐るジローニが尋ねた。すると、ブンッとディアの姿が消えた。
「ディア!?」
「ジローニ、成功だ」
背後からディアが答えた。
ディアたちが調薬したポーション、エリクサー。ジローニはうっすら聞いたことのある、お伽話の中の薬だと思いだした。最高品質のポーションとは〈エリクサー〉のことだったのだ。
「【鑑定】、【ヒール】。うん、問題ない」
複雑な工程だったが、やり方はもう覚えたのでディアは壺にいくつか作ってみた。ジローニにも飲ませてみたが、新たに腕が生えることはなかった。
久しぶりに使う【集中】は以前よりも使い勝手が良くなっていた。何度か検証してみると、一日におよそ三十秒程度の持ち時間を小分けして複数回使えるようになった。一秒を三十回でも、三十秒を一回でも戦闘に合わせて使い分けられる。そして止まった世界の中で走れるようになった。腕も普通に振れる。体全体が生まれ変わったかのようだった。
ディアたちは再び古城のダンジョンへと向かう支度を始めた。体力回復薬とエリクサーもあるので前回よりも準備は良くなっている。装備もひとつ増えた。
〈グリフォンのブーツ〉
革製のブーツに羽が付いている。軽くて走りやすいだけでなく、空中を十歩程駆けあがることができるのだ。脱いだあとも足が快適でディアは気に入っていた。
「よし、荷物をまとめたな? 行くか!」
ジローニの声掛けで、ディアたちは再び古城のダンジョンに向かって出発した。




