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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第一章
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◆第十五話 龍のダンジョン 2

 二人が四階層へ転移すると、そこは曇天が広がっていた。地面は固く、高さ三十メートル程の岩山がいくつもあって、ディアたちを囲んでいる。そのうちひとつの岩山から青い竜がこちらをジッと見ていた。

〈蒼竜 レベル500〉

 赤龍や白龍のような長細いタイプではなくて、二本足に両腕と翼がそれぞれ別に付いている。巨体なのは変わりないが、今までの龍よりは小さい。体長五メートルほどか。蒼竜はゆっくりと羽を広げてこちらへ飛びあがり、急加速で降下した。ハルに乗って避けると、暴風でバタバタと外套が音を立てた。

 ブレスは来なかったが、何か吐いてくるかもしれない。氷結の弓をすれ違いざまに放ってみる。当たるが刺さらない。硬いのか、この暴風で弓の威力が落ちているのか。

 ゴオオォォォ!

 ハルが上空に向かってブレスを吐く。しかし、飛んでいる相手にはなかなか当たらない。掠めてもダメージはなさそうだった。

「どうにかあいつを堕とさないとな」

(このダンジョンは正攻法じゃ無理なんだよな……)

 ディアは一つの策を思いつく。成功するかわからないが、ハルに作戦を話し終えると同時に蒼竜は襲ってきた。ハルと二手に分かれて避ける。暴風で少しディアがよろめいた。再び上昇した蒼竜は岩山の上に降り立った。

「【収納】」

 高さ三十メートル程ある巨大な岩山が消えて蒼竜が落下する。すぐに羽を広げて立て直すが、別の岩山から跳び降りた豹が蒼竜に向けてブレスを放つ。

 上空から地に向けて標的を狙うのだ。先ほどとは逆の立場だ。そのブレスは致命傷ではないが、効いた。翼を焦がした蒼竜は、着地すると影が迫っていることに気づいた。上を見上げたその目には、落下してくる巨大な岩山が映っていた───


「───死んだみたいだな」

 転移水晶が現れたところでディアが呟いた。巨大な岩山を【収納】できるかはわからなかったが、作戦はうまくいった。もう一度岩山を【収納】にしまうと青くて大きな魔石が落ちていた。


 二人はダンジョンの外で野営をしていた。蒼竜の魔石を吸収したハルは、またも変形をインストールしたと言う。今度はコウモリのような皮膜の翼が生えたのだ。ハルはそれで飛行して見せた。蒼竜ほどではないが確かに飛べている。

「ハル、俺を抱えて飛べるか?」

 やってみると五メートルくらいは浮かんだ。進むスピードは速足くらいだろうか。

「このくらいが限界のようデス」

 人を持ち上げて飛ぶとかなり高度が下がる。そして、豹型になると翼を出せなかった。

「人型のときだけ翼が出せるのか」

 飛行しながらブレスを吐く、といった攻撃はできない。それでもこれはすごいことだ。この龍のダンジョンは、各階層にボスしかいない。その全ては高レベルの強敵だ。だが、倒したときの報酬は防御力や攻撃力が格段に上がるものばかり。おそらく残す階層はあとひとつ。次はどんな強敵で、どんな報酬なのかと気になった。


『この扉の中には一人しか入れません』

 次の日、転移した先にはボス部屋へと続く扉があった。やはりここが最終階層なのだろう。しかし、一人しか入れないという機械的な声が流れた。

(ギルバレの十階層と同じか)

 ディアは一人で扉を開けて入っていった。中はいつものボス部屋だ。石畳の床が広がり、奥には大きな扉がある。その扉がゴゴゴッと開いて、歩いてきたのは龍人とも言えそうな人型の魔物だった。あのミノタウロスよりは少し小さいか。全身が黒い鱗に包まれているが、筋肉質なのがよくわかる。手には刃の付いた槍を持っていた。

〈黒龍 レベル600〉

「ようこそ。では始めようか」

 黒龍は喋る魔物だった。魔人である。

(これは……、強い)

 ディアの体感ではあるが、あのミノタウロスよりも強いと感じた。この島に来たときのユニの言葉を思い出す。あのミノタウロスでもこの島ではボスにはなれないと言っていた。そして、手加減をする魔物もいないと。

 黒龍はフンッと槍を突き出してきた。ディアはそれを避けたあと、即座に殺気を感じて【集中】を使った。槍の返し刃がディアの後頭部に襲いかかるところだったのだ。この龍人、最初の突きは僅かに甘く、引き戻しの速度こそが本気だった。

 ディアはかろうじてかわすも、耳から頬をザックリ斬られた。

「【ヒール】」

 レベル600との殺し合い。今ならやれないこともない気もするが、勝つも負けるも紙一重ではなかろうか。ディアは大剣を手に構えを取った。

 槍と大剣では間合いが違う。黒龍の突きには返し刃があるし、正攻法ではやや不利か。


「───ハル」

「がう!」

 ディアの【収納】から現れた薄紫の豹が、黒龍に火炎のブレスを吹きつけた。

「くっ!」

 突然のブレスにダメージを負った黒龍は動きが止まる。そこにディアの突きが黒龍の顔面を捉えた。黒龍がかろうじて槍を突き返すと、その槍をハルが叩き落とした。

「卑怯ですまないな───」

 ディアは渾身の力で、黒龍の頭部を叩き割った。


『ダンジョンクリアおめでとうございます。報酬は魔剣黒凪です』

 黒龍が消えた場所に、鞘に納まった細剣がドロップしていた。艶のない鞘に、黒い柄。抜いてみると、片刃で刀身も艶のない黒色だった。

〈魔剣黒凪 レベル1〉

【鑑定】してみるとレベルがある。このような武器は初めてだった。

(武器が出てきたが……、こんなに細い剣で大丈夫か?)

 ディアは魔剣を鞘に納め、【収納】しようとする。しかし、何故かできなかったので仕方なく腰のベルトに剣を差す。

 龍のダンジョンは正攻法では勝てない相手ばかりだったが、どうにか踏破できた。これで、六つのダンジョンをクリアしたことになる。


 ───残りのダンジョンはあとひとつ。





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