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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
第一章
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◆第十一話 英雄の演説

 今日は集まってくれてありがとうよ。オレは一応、ここの領主ってことで貴族の下っ端になるらしい。


 似合わねえ? ああ、オレもそう思う。だけどよ、オレはそんなもんになるつもりは無え。このギルバレを変えてえんだ。


 オレもギルバレに来て長い。ここがどんな街かはもう充分わかっている。荒くれ者が集まって、毎日誰かが死んで、誰かが騙されて、たまに稼いで、また僅かな有り金を使う。そんな街だよな?


 街のゴロつきもよ、それ、やりたくてやってんのか? ダンジョンで大金を稼ぐつもりが怪我で潜れなくなったやつばっかりじゃねえか。


 娼館の女もよ、ずっと続けんのか? 若いやつは好きな男とかいないのか? ババアの方はわかっているよ、旦那が死んだんだろ? ガキとあんたたちを残してよ。


 以前にオレの師匠が言っていたんだよ。冒険者なんてパッと稼いでパッと辞めるのが一番だってよ。お前らだってそんなことはわかっているよな。でも潜る以外に能がねえお前らが、冒険者を辞めてもできることがねえんだよ。


 金があれば商売でもするか? そんな頭持っているのかよ? 字も書けねえやつらばっかだよな? すると、自分のガキにも勉強を教えられねえからそいつも同じ人生だ。


 あ? 強ければ何を言っても良いのかって? オレは強くねーよ。ちっと魔物を殺せるってだけだ。お前らもそうだ。腕っぷしだけ。


 だからナメられる。他の土地のやつらによ。ここにオレたちみてえなダンジョンバカしかいねえから、他に産業ができねえ。農業もできねえ。全部他から買うだけだ。潜れなくなったら死ぬしかねえ。自分のガキも守れねえ。それでいいのかよ?


 現状、この街はナメられているから食料は言い値で買うしかねえ。素材の買取りも商人が少ねえから足元見られる。たくさんの商人が来りゃあ、競争が生まれて買取り価格も適正になってくるってのによ。


 そりゃそうだ、こんな治安の悪い街に来たがるやつはいねえ。よそ者は全部お前らが襲っちまうからだ。まともじゃねえんだよ、このギルバレはよ。もう全員わかってんだろ?


 だけどオレはよ、なんだかんだ言ってもこの街が好きだ。大切なやつもいる。だからよ、ナメられねえようにこの街を変えたい。ちゃんとした兵士の仕事を作ってよ、潜れなくても稼げるようにしてよ。


 土地も耕してよ、農業やりたいやつに与えてよ、他から産業を誘致して仕事増やして、ババアでも稼げるようにしてよ。外の偉い人に頭下げてよ、勉強を教えてくれる人に来てもらってよ。



 それでオレは、ここを国として立ち上げたい。潜れなくなった者、旦那が死んだ者、親がいねえガキ、それと魔女狩りなんてくだらねえもんに追われている者。全てを守れる、そんな国をよ。


 できるわけねえって? ああ、そうだ。できるかもしれねえし、できねえかもしれねえ。


 だが、何もしなければ何も変わらないってことだけは確かだ。


 オレが十年もくすぶっていたのは知っているだろ。オレはずっと思っていたんだ。相棒の仇をいつか取ってやるってな。


 だけど、ずっと動けなかった。勇気も、自信も、へし折られていたからよ。でも、ひとつのきっかけでオレは動き出せた。


 誰だってそうだ。一歩を踏み出さなけりゃ何も変わらねえ。お前らが本当に将来のため、女のため、ガキのため、大切な誰かのために一歩を踏み出せば……できるはずだ。


 この街はよ、他と交流がないから外国の情報も来ねえ。はっきり言って、いつやられてもおかしくねえ。だがこの街がひとつになればよ。エンパイア王国とも渡り合える。協力関係になるか、やっちまうのかわからねえけどよ。


 勝てんのかって? オレたちは命を削って魔物と戦う冒険者だ。怖いものなんてあるのか? いいか、オレ一人じゃ大勢の兵隊には勝てねえ。だが、オレたちがひとつになればお前たち全員が、英雄だ。


 ああ、そうだ。荒くれ者、はぐれ者だったやつらが訓練して大切な誰かを守る。それが英雄じゃなくてなんなんだ。


 もちろん死ぬこともあるぞ。だけどよ、そのときは遺族に金が支給される。安心して死ねるんだよ。


 今んとこギルドの財政状況は悪くはねえが良くもねえ。だが街がまともになっていけば、お前らの補償金や医療費に金を使える。ガキの教育もだ。


 それに、オレは若い頃に稼いだ金貨を五百枚持っている。それも全部街のために使う。足りなくなったらオレ一人で十一階層に潜って魔牛を狩りまくってくるさ───


「アーク、それは本当か?」

 群衆の中から一人の男がアークに声をかけた。街のゴロツキをまとめるマフィアの顔役の男だった。男の頬には傷があり、片眼は潰れていた。

 アークは拡声器の魔道具越しに答える。

『エルフィンか。ああ、本当だ。嘘だったらこの首をくれてやるよ。どっかに飾っとけ』

「なら、俺は一兵卒になる。悪党でも雇ってくれるのか?」

『悪党じゃねえやつを探す方が大変だろ』

「そうか、わかった」

「アーク、俺も! 俺も一兵卒でいい!」

「俺も!」「あたいも!」

 次々と街のゴロツキたちが声を上げる。だんだんと歓声が大合唱へと変わっていった。

  ────アーク! アーク! アーク!

『いいか、このクソみてえな街をよ! 生まれ変わらせて、次のやつらに! 新たなガキに! 渡すことができたら! お前たちは、永遠に語り継がれる……英雄だ!』

  ────アーク! アーク! アーク! アーク!

 その日、ギルバレの熱狂は夜まで冷めることがなかった。



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