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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第一章
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◆第九話 新たな仲間

 ジローニの待つ拠点の家に、世界樹のダンジョンを踏破したディアが帰ってきた。

「ディア、帰ってきたか。無事で何よりだ」

「ただいま。ジローニ、左腕を見せてくれるか?」

「腕? この斬られた方か?」

「ああ、【ヒール】」

 世界樹のダンジョンを踏破した報酬は、傷を回復させる魔法だった。ディアがジローニの腕に手のひらをかざすと、柔らかい光がジローニの腕を包む。しかし、失くした腕が元に戻ることはなかった。

「ダメか……」

「すごいな。治癒魔法を手に入れたのか。さすがに斬られた腕が生えてくることはないさ。でもありがとうな」

 ジローニは笑みを浮かべて、ディアの肩をポンとたたく。

「次のダンジョンは少し遠い。山を越えた辺りだから帰ってくるのは遅くなる」

「わかった。こっちは気にするな。お前が来てから色々便利になったし、酒も取ってきてくれたからな快適な生活だ」

「そうか。今日は草原のダンジョンで酒を補充して、明日には出る」

「じゃあ今夜は壮行会だ。とっておきの肉を焼くか!」

 ディアはその足で草原のダンジョンに向かい、ジローニは上機嫌で台所に向かった。


「───なあ、ディアのことを聞いてもいいか?」

 夜、ジローニが酒の入ったグラスを傾けながらディアに尋ねてきた。

「何をだ?」

「お前さ、何があったんだ?」

「別に何もない」

「違う。もっと子どもの頃の話だ。一体お前に何があった?」

「ああ、そういうことか。魔女狩りにあったんだ。俺が五歳の誕生日に───」

 ディアは聞かれたことを隠してこの協力関係を続けるよりは、話してしまった方がいいと思った。どうせ帰ったら自分は旅に出る。それなら隠し事をしない方がいいだろうと考えたのだ。

「───それでガルフに指輪を作ってもらった。そのあとは前に話した通り。アークに別れを言いに行ったらダンジョンに誘われて、十一階層に行ってミノタウロスを倒して、ユニにこの島へ連れてこられた」

 ジローニは泣いていた。どうやら酒が入ると涙もろくなるようだった。

「な、なんで、お前みたいな……、優しい子どもがっ……」

「何故泣くんだ? 俺にはサキがいて命も助かったし、アークにも出会えて金を稼ぐことができた」

「その、サキのくだりが……、キツイんだよ! よくお前スラスラ話せるな……、グズッ」

「サキが死んだのは残念だった。だが最期は明るく話せたし、今もこうして一緒にいられる」

 ディアは左手の指輪を見せた。

「そういうとこだよ! お前わざとやってないか? ううう……」

 そして泣きながらジローニは椅子に座ったまま寝てしまった。ディアはジローニに毛布をかけて、後片付けを終えると歯を磨いてベッドに入った。

(ジローニはサキのために泣いていた……)

 ディアにはジローニが何故泣いていたのか解らなかった。だが、サキのことでジローニが泣いてくれたことに少しだけ暖かい気持ちになった。

 ───それは『嬉しい』という感情だった。


「じゃあ、行ってくる」

「おう、気をつけてな……」

 翌朝、ディアを見送りに出たジローニはまるで蜂にでも刺されたように両目を腫らしていた。この島に連れてこられてから、これまでに三つのダンジョンを踏破した。ディアの次の目的地は山脈の向こう側にあり、少しばかりの旅となる。

 最初のダンジョンクリア報酬が【収納】で運がいいとディアは思った。野営のテントや食料、調理器具なども全て【収納】の中だ。身軽に進んでいける。途中、森の中でハナエの本を参考に薬草を集めながら、二週間ほどかけて目的地の鳥居を見つけた。


 鳥居をくぐると、岩肌が剥き出しの山に囲まれた固い地面が広がっていた。見渡す限り岩山が続き、怪力のディアでも持ち上げるのは無理であろう大岩がそこらに落ちていた。その岩陰から木製の人形が歩いてきたので【鑑定】してみる。

〈ウッドゴーレム レベル10〉

 ディアと同じくらいの身長で体は全て木製だ。

(まるで生物とは思えないが、あれでも生きているのか?)

 なぜ動いているのかわからない相手だったが、大剣をひと振りするだけであっさり倒すことができた。わらわらと湧いてくるので面倒だったが、それら全てを一撃で倒すと、そこにはいくつかの木刀がドロップされていた。

 次に現れたのは、人間の大人くらいのゴーレムだった。倒すと木製の家具をドロップした。使う予定はないが、大量の椅子やテーブルを手にする。

(やはり【収納】があって良かった)

 ディアは次々と【収納】に入れていくと、ボスらしき大型のゴーレムが現れた。

〈キングウッドゴーレム レベル40〉

 人間の倍くらいの大きさだ。ディアが大剣を叩きつけると、ボスはバラバラになって砕けた。すると転移水晶が出現するのと同時に、馬車をドロップした。

(これも【収納】できるのか?)

 ジローニと検証したときはここまで大きなものは試していなかった。ディアが手をかざして念じると、大きな馬車でもシュッっと吸い込まれた。

(こんな物まで入るのか。一体どのくらい詰め込めるのか……)

 ディアは【収納】に興味を持った。近くにあるディアの背丈ほどの大岩を【収納】してみた。大岩はシュッと消える。

(ダンジョンの中の物まで【収納】できるのか)

 ディアは思う。これはひとつ情報を得た、今後何かの役に立つかもしれないと。


 次の階層ではストーンゴーレムが現れた。全身が石でできている人型の魔物だ。

(剣は使えないか……)

 無理に叩きつければ折れるかもしれない。世界樹のダンジョンでトレントを相手にしたときはノコギリを使ったが───

(何かないか。あ、そうだ)

 ディアは廃墟のダンジョンで手に入れたバールを取り出した。大剣ほどではないが、短剣よりは長い鉄の棒だ。本来は家の解体などに使う工具だが、ディアはストーンゴーレムに叩きつけた。粉々に割れたストーンゴーレムが消えると、何枚かの石板がドロップした。

(これはいいな)

 ディアは次々と現れるストーンゴーレムを片っ端から破壊していった。


 そのあともアイアンゴーレム、ミスリルゴーレムと、各階層を踏破していき、鉄やミスリルのインゴットを手に入れる。そして五階層のボス部屋でアダマンタイトゴーレムが出てきたとき、ディアの攻略はつまずくことになる。バールの攻撃が通じないのだ。

(このままだとバールが先に壊れるな)

 ダンジョンのボス部屋は今までのそれと同じで、人工的な石造りの部屋だった。ただし、天井が高くて壁にはいくつかレンガのような突起が見える。

(もしかして、ここのボスの倒し方は……)

 ディアは壁に向かって飛びあがり、突起に手足をかけて天井の方へと登っていく。そして、ボスのアダマンタイトゴーレムに向かって、【収納】から取り出した巨大な大岩を落とした。動きの鈍いボスに命中すると、手足が曲がって動かなくなっていた。


『ダンジョンクリアおめでとうございます。報酬はオリハルコンゴーレムです』

 倒せたようだ。現れたのは転移水晶と、その隣に深い紫色のゴーレム。それは全身のフォルムが成人女性の形をしていた。

『オリハルコンゴーレムのマスター登録をいたします。使用者はゴーレムに触れて下さい』

 ディアは左手でゴーレムに触れた。

『クラウディア・モーリスをマスター登録しました。個体名を付けて下さい』

(名前だと……?)

(オリハルコンゴーレムだからオリ、とか? あとは、ハル、コン、ゴー、レム……)

 形は女性タイプだ。ハルかレムの二択だろうと考える。

(ハルでいいか)

「個体名はハル」

『個体名ハル、認証しました。マニュアルをインストールします』

 突然、ゴーレムの使い方がディアの頭に入ってきた。同時に、ハルの姿がメイド姿に変化する。顔には目、鼻、口などがないが、金属のカツラを被っているような髪の毛らしき部分ができた。

『インストール終了しました』

 どうやら戦闘用ゴーレムのようだった。他にも荷物を運んだり作業をしたりと色々命令できる。会話は対応するが、生き物ではないので【収納】できるとのことだ。ディアはハルを【鑑定】してみた。

〈オリハルコンゴーレム〉

 やはりレベルは表示されない。生き物ではないようだ。

「ハル、【収納】してみていいか?」

「カシコマリマシタ」

 ディアはハルを【収納】に入れてから取り出した。

「何か変化あるか?」

「イジョウアリマセン」

「そうか、じゃあ外に行こう」



「ハル、この男は仲間のジローニだ」

「マスターノ仲間、ジローニサン。認識シマシタ。ヨロシクオネガイシマス」

「ああ、よろしくな。お嬢さん」

 ディアは新たに得たオリハルコンゴーレムのハルを連れて、次のダンジョン攻略に向けて準備をするために拠点の家に帰ってきていた。

「女性がいると生活に彩りが出るな」

「ゴーレムだぞ? 【収納】に入る時点で生き物じゃない」

「ディア、お前は分かっていない。男は無条件に女には優しく尊重しなければいけない。それがババアであろうがゴーレムであろうとだ。それが一流の冒険者、ひいては一流の男としての責務だ」

「そうなのか、わかった」

 ババア呼ばわりの時点で尊重していないのではないかと思ったが、それを聞いてディアはなるべくハルを【収納】にしまうのをやめた。

 ハルはジローニに家事を教わると、なんでもそつなくこなしていた。さらには、毎朝ディアの訓練の相手もする。さすが戦闘用ゴーレムだと感心したが、家の中の佇まいは本物のメイドのようだった。


「───なあディア、この島を作った神って俺たちに何をさせたいんだろうな?」

「さあ、見当もつかないな」

 ある夜の食後、グラスを傾けるジローニがそんなことを言いだした。

「まずこの家も、前にいた少数の人間が作ったもんじゃないと思う。設備がしっかりしているからな。神がまずはここを拠点にしろって意味で用意したんじゃないかな。だから食い物とか生活用具がドロップするダンジョンが近くにあるんだよ」

「なるほど」

「お前の話だとゴーレムのダンジョンは石材や金属なんかが多かったんだろ? 最初に向かっていたら生活できてなかったろうな」

「そうだな。だが家具はドロップした」

「それなんだけど、それはお前に大岩を【収納】させるヒントだったんじゃないか? まず、椅子やテーブルを出してそれを【収納】させる。次に馬車だ。試してみるとデカい馬車も【収納】に入る。じゃあ、ゴロゴロしている大岩はどうなんだって試させるためじゃないか? 実際、その大岩を使わなければボスは倒せなかったんだろ?」

「確かにいいように誘導された気はするな」

「俺はあのミノタウロスにダンジョンっていうのは一体なんだって聞いたんだ。そしたら神の娘でルナ様ってのが作ったんだと。それで〈こんりき〉ってものを集めることが目的だと言っていたんだ」

「俺はナギという神様がここを作ったとユニに聞いた。神様はたくさんいるのかもな」

「どうだろう。それ以上は聞き出せなかった」

「神様が何をしたいのかはダンジョンを全部クリアしたら判るかもしれない。ただ、俺はジローニをアークに会わせなくちゃならない。その後のことはそのとき考えればいい」

 ディアは無精髭でボサボサ頭の師匠を思い浮かべた───




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