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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
第一章
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◆第八話 ダンジョン攻略 2

「ただいま、ジローニ」

「ディア! 生きていたのか!」

 拠点の家、二ヶ月ぶりにディアが帰ってきた。

「全然帰ってこないから、何かあったんじゃないかと心配していたんだ」

「そうか、すまない。ダンジョンの外で寝泊まりして踏破してきたんだ」

「なに? ダンジョンボスを倒したのか?」

「ああ、倒せた」

 廃墟のダンジョンは高層の建物や見たことのない形の家などが立ち並ぶ場所だった。そこで腐った人間や骨だけの魔物などと戦ってきたのだという。

「へえ、今度は何かもらえたか?」

「ダンジョンボスのクリア報酬が【鑑定】っていって、意識して見た品物や生き物の情報がわかる」

「おお、便利そうだな。俺のことも鑑定できるか?」

 ディアはジローニをジッと見た。

「人間、レベル45って出た」

「レベル……。牛頭の魔人も言っていたな。あいつも【鑑定】ってのを持っていたのか。レベルってなんだろうな」

「強さとかかな。帰りに見かけたウサギよりもイノシシの方が数値が大きかった」

「俺は以前、その魔人にレベル42だって言われたんだ。そこから片腕を切り取られて、戦闘力は落ちているはずだよな? でも今45ってことは上がっているってことだ」

「じゃあ、よくわからないな」

 ジローニはレベルに対して考察してみたが、強さだけではなく総合的な経験値じゃないかと予想していた。

「ディア、自分のレベルは見てみたか?」

「見えなかった。自分のは見られないのかもしれない」

「そんなもんか。まあ、数字が見えなくても強いやつは肌で感じるからな。ドロップはどうだった?」

「小道具だった。最初はハサミとかだったけど、最後の方は魔道具が多かった。よくわからない物も多いから時間があるとき【鑑定】で使い方を調べよう」

「お前そういうのワクワクしないのか? 魔道具なんて楽しそうじゃないか。男なら今見ようぜ」

 性別に何か関係あるのかと思ったが、ディアは仕方なくドロップ品を【収納】から取り出した。魔道具は火をつけるものが最もたくさんあって、あとは水が出る物、温かい風が出る物、音や絵を記録できる物、遠くの人と会話ができる物などがあった。魔道具以外だとバールやノコギリなどの大工道具が多く、ジローニは楽しそうに漁っていた。ディアはそんなジローニを黙って眺めていた。


   *


「ジローニ、今からダンジョンに入る」

 手に入れた地図を頼りに三日間の移動を経て、ディアは通信の魔道具で拠点の家にいるジローニに連絡を入れた。廃墟のダンジョンでドロップしたものだ。これはどれだけ離れていても会話ができるものだが、ダンジョンに入ると通信できなくなることがわかっている。

「しばらく潜ってくるから、また出たら連絡する」

『わかった。気をつけてな』

 通信を切ったディアは、目の前にそびえ立つ巨木を見上げた。その胴まわりだけでも小さな町くらいあるのではないか、そんな巨大樹だ。その根元に建っていた鳥居を潜ってみると、巨大な枝の上に出た。見上げても太い枝があることから、巨大樹の途中の位置にあると思われる。

 現れたのは馬車ほどの体躯を持つ、巨大な複眼のカブトムシだった。

(虫の魔物か。表面が固そうだ)

 ディアの予想通り、光沢のある茶色い甲殻に大剣を叩きつけてもダメージは与えられていない。丁寧に脚の関節を狙う必要があった。

 振り回した巨大なツノを避けながら動きの鈍い後ろ脚を中心に攻めていくと、ようやく一本を斬り落とすことができた。

(これならやれるか)

 そして二本、三本と重ね、最終的に頭部と胴体の隙間に大剣を突き刺すとカブトムシは消えた。

(魔物が最初から強いな……)

 これまで踏破した二つのダンジョンより強敵が待ち構えている予感がした。

 カブトムシの消えたあとに残されたドロップ品は壺だった。中を覗いて【鑑定】してみると、〈世界樹の樹液〉とでていた。

(そうか、ここが世界樹か)

 ディアはその名前に見覚えがあった。ハナエから貰った本に載っていたのだ。入手が極めて困難な素材とのことで、もし目にしたら全財産を費やしても手に入れておくことが推奨されていた。

(たくさん獲ってハナエに持って帰ろう)

 帰還の目的が一つ増えたことでやる気を出したディアは、いっそう神経を研ぎ澄ましてカブトムシを探した。

 そのまま一階層でカブトムシを倒していくと、階層ボスらしき巨大なクワガタが現れる。鋭い鋏のツノが襲いかかるもカブトムシと同じ要領で仕留めると、水晶玉の乗った台座が現れた───


  *


『へえ、世界樹のダンジョンか。おとぎ話の中だけにあるものだと思ったが、本当にあったんだな』

 一度ダンジョンを出たディアは、野営の支度を終えてジローニに連絡をいれた。

「希少な素材をドロップした。なるべくたくさん持って帰りたい」

「そうか、まあ焦らずやってくれ。こっちはまだ酒がたっぷり残っているからな」

 出発する前に草原のダンジョン二階層で酒を大量に獲って置いてきた。だが現状、ジローニは一人では二階層に行けない。

(のんびりもしてられないな)

 嬉しそうに酒を飲むジローニを思い浮かべて、ディアは眠りについた。


 翌日、二階層に転移してみると一階層と似たような枝の上だった。そこに現れたのは大人の手のひらほどの大きさのハチの魔物だった。【鑑定】してみるとソルジャービー、レベルは6。大剣を一振りすると、簡単に仕留められた。

(ずいぶん弱いな……)

 そう思っていると、遠くから地鳴りのような羽音が迫ってきた。

(なるほど、そういうことか)

 まるで一つの大型生物のような黒い影がみえる。それが全部ハチの魔物だった。数千の大群である。

(お母様のような魔法が使えたら良かったのにな)

 ふと幼少期の記憶が蘇る。

(全て斬ればいいだけだ……)


 ───全てのソルジャービーを倒したのは、体感で半日ほど経った頃だった。体の中に吸収される何かが、今までで一番多く感じられた。

 汗だくになったディアはよろめきながらその場に仰向けになり、乱れた呼吸を落ち着かせる。今まで多くの強敵と対峙してきたが、今回が最も難儀な相手だった。最後の一匹を斬ると転移水晶が現れたので、あの大群そのものが階層ボスにあたるのだと思われる。だが、

(もし、別のボスがいたらやられていたな……)

 まさに薄氷の勝利だった。起き上がると、周囲に大量の壺が落ちていた。【鑑定】してみると〈世界樹の蜂蜜〉という。口にしてみると濃厚な甘さが口内に広がり、さらには疲れきっていた体力が回復していくのを感じた。

(そうか、これはきっと───)

 戦っている途中、壺がドロップしていることはわかっていた。おそらくこの蜂蜜で体力を回復させながら戦うのが正しいやり方だったのだ。

(今後もこういうことがあるかもしれないな)

 不可能に思える困難でも何か方法が用意されているのではないか。このダンジョンにそんな意志を感じた。


 次の日、三階層にいくとまた同じ光景だった。このダンジョンは全ての階層が巨大な樹の中にあるのだろうか。そんなことを思っていたら、突然樹木の蔓が襲ってきた。咄嗟に斬り落とすも、まるで生き物のように蠢く蔓に囲まれていた。

(これは、樹木の魔物か?)

【鑑定】してみると、一帯がトレントという魔物だった。良く観察してみると、どうやら五体のようだ。次々と襲いかかる蔓を斬り落としていくが、残った本体は仕留められていない。大剣を叩きつけても倒しきるまで至らないのだ。

(斧のように何度も叩いてみるか?)

 だがジローニに借りているこの大剣が折れるようなことがあれば、この先の攻略はできなくなるであろう。どうしたものかとしばらく考えていたディアは、【収納】からノコギリを取り出した───


 五体全てのトレントを仕留めると転移水晶が出てきた。

(やはり、何かしらの倒し方がある)

 魔物をノコギリで切るのはいい気分ではなかったが、おそらくこれが正解なのだろう。それか母親のように火の矢でもあれば良かったのだろうが、ディアにそんな手段は持ち合わせていなかった。

 ドロップした壺を開けてみると林檎に似た果実が入っていた。〈世界樹の実〉というそれをかじってみると、芳醇な香りと甘みが口内に広がる。そして蜂蜜同様か、それ以上に疲労が回復しているのがわかる。

「これはすごいな……」

(もっと採れないか?)

 ディアはダンジョンを出て、もう一度三階層に戻ってみた。すると、再びトレントが襲ってくる。

(何度もすまないな)

 世界樹の実を気に入ったディアは、その後も周回して乱獲することとなった。


 ダンジョンの外に出て丸一日を休憩にあてたディアが次の階層に転移すると、襲ってきたのは小型の馬ほどの体躯を持つ蜘蛛の魔物だった。攻撃手段は八本の脚に付いている爪、鋭い牙を持つ口から吐くのは毒だろう。それと周囲に白い糸を張り巡らせてくる。

(早く仕留めないと、あの糸に囲まれるな……)

 ディアはカブトムシの魔物と同じ要領で脚から狙っていく。

(次々と……、面倒だな)

 ソルジャービーほどではないが、どんどん数が増えていく。四方から飛んでくる毒を避けながら数十匹の蜘蛛を斬っていった。疲労がたまれば〈世界樹の実〉を取り出して口にする。戦いながらも徐々に体力が回復していった。

(これならやれる。また長期戦だな───)

 全ての蜘蛛を倒したのは、またも半日ほど経ったあとだった。だが、体力を回復させながら戦っていたディアは二階層のときと違い、まだ立っていられた。そこに階層ボスの魔物が現れた。

〈アラクネ レベル65〉

 巨大な蜘蛛の頭部に、人間の女性のような上半身が乗っている。

(魔人か?)

 そう思ったが、人間部分にミノタウロスのような知性は見当たらなかった。良く見ると口がない。アラクネの女性部分はディアに手のひらを向けて、空気のうねりのような攻撃をしてきた。耳鳴りがディアの脳裏に響くが、それだけだった。

(何かされたのか?)

 特に影響はない。それならば向かっていくだけだ。どんな奥の手があるのかわからないが、ディアは駆けだしていく。

(【集中】)

 静かな世界の中で、飛び上がって人間部分を斜めに両断した。そのとき、女性のような顔が驚きの表情を浮かべているように見えた。

(さて、どうなるか)

 簡単に斬れたが、こんなものじゃないだろう。そう考えて構えを続けていたが、アラクネは消えて転移水晶とドロップ品が現れた。【鑑定】してみると〈ロードタランチュラの布〉〈ロードタランチュラの糸〉〈ロードタランチュラの毒〉とのことだった。

(布は助かるな。たしか裁縫道具もあったはずだ)

 毒も何かに使えるかもしれない。中身が溢れないように注意しながら壺を【収納】する。

 つつがなく階層ボスを倒したことによって、ディアはここまでの戦いを思い出す。ディアにとってはレベル6のソルジャービーの大群との戦いが最もきつかった。だが、このレベル65のアラクネは難なく倒してしまった。思い返すと、あのアラクネの攻撃は【威圧】と似たようなものではないかと推測した。どういうわけか、自分には精神系の攻撃が効かない。おそらく感情を失っているからだと思われる。あのアークでさえ、ミノタウロスの【威圧】には苦労していたのだ。きっと強力な攻撃なのだろう。

(相性みたいなものがあるな)

 ディアは剣しか攻撃手段を持たないが、精神攻撃には強い。逆に母親のような火の魔法使いだったら、あのソルジャービーの大群などは蹴散らすことができるだろう。いつか自分も、あのような攻撃方法を手に入れることができるだろうか。そんなことを思いながら、次の戦いに備えてダンジョンを出た。


 次の階層は五階層だ。これまでと同じなら最終階層になる。ディアは二日間を休息にあてて、万全の状態でそれに臨んだ。

 そこは今までと同じく巨木の枝の上であったが、雲らしき靄が足元に見えるので上層部だと思われた。するとどこからか、


「おにいちゃん、あそぼー」

「うふふ、こっちにおいでよ」


 と、そんな子どもの声がする。見てみると、手のひらほどの大きさで虫の羽をつけた少女のような生き物が飛んでいた。数は十匹。

〈ピクシー レベル32〉

「あはは、あそぼーよ」

「うふふ」

 ピクシーたちはディアの周りを楽しそうに飛んでいた。【収納】から大剣を取り出したディアは、それらを次々と斬り落としていく。

「えっ、なんで!」

 最後の一匹がそう叫ぶも、ディアは構わずに斬り殺した。

「ダンジョンでは何も信用するなと、師匠から教わっているんだ」

 誰にでもなくそう答えたディアは、ドロップした〈世界樹の枝〉を【収納】する。

 すると、見慣れた扉が現れた。中に入ると、これまでと同じダンジョンボスの部屋だ。奥の扉が開いて、現れたのは白い布を身にまとった美女だった。

〈ドライアド レベル80〉

 ディアは大剣を構えた。

「いらっしゃい、素敵な男の子」

 ドライアドの妖艶な笑みは余裕を感じさせた。

「私の目を見て。もう戦うのは疲れたでしょう」

「言いたいことはそれだけか?」

 ディアが前に出ようとすると、

「え、待って。【魅了】が効かない?」

「行くぞ」

「負けました」

 ドライアドはその場から消えて、転移水晶が現れた。

『ダンジョンクリアおめでとうございます。報酬は【ヒール】です』




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