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ギルアバレーク戦記  作者: 森野悠
第一章
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◆第八話 ダンジョン攻略 1

 ディアの師匠はアーク。さらにその師匠、ジローニとの共同生活が始まった。

「日記に書かれていた二つのダンジョンを俺はそれぞれまわってみたんだ。入り口周辺なら難易度はそんなに高くない。ザコの魔物を何匹か倒せば何かしらドロップする」

 今のところ、場所がわかっているのは、草原のダンジョン、廃墟のダンジョン、その二箇所だそうだ。

「よく行くのは草原のダンジョンだな。一番近いし野菜や麦なんかがドロップするんだ」

 ディアがよく片手で戦えるものだと聞いたら、石とナイフでなんとかなると笑っていた。

「早速行ってみるか。こっちだ」

 二人が森をしばらく進んでいくと赤い柱の門があった。

「これは鳥居っていうんだよ。東の方の国にあるらしい」

「物知りなんだな」

「日記に書いてあったんだ」

 二人が鳥居をくぐると景色が変わり、そこは果てしなく広がる草原だった。

「お、いたな。ディア、あそこにいるデカいヤギは全部魔物だ。意外と凶暴だが仕留められるか?」

「わかった」

 ディアは素早く駆けだして、ヤギの魔物を片っ端から倒していく。その戦いぶりを見たジローニはディアの異常な膂力を充分に理解した。倒した魔物はその場で死体が消えて、いくつかの壺が残る。

「ディア、すごいじゃないか。どうやら本当に戦えるみたいだな」

「ああ、アークの弟子だからな」

「多分あいつは関係ないと思うけどな……」

 ディアは壺を手に取ってみた。なんということのない、土を焼いてできたようなものだ。

「これがドロップか。不思議だな」

「ドロップ型のダンジョンは外にもある。ギルバレみたいに素材を採るダンジョンの方が多いけどな」

 壺を開けてみると中身はヤギの乳だった。

「最初はこれで麦の粥ばっかり食っていたんだ。だが廃墟のダンジョンで石臼をドロップしてからは、食生活が一気に良くなったな。パンも焼けるぞ。柔らかく焼く方法を発見したんだ」

 ずいぶんと逞しいものだとディアは感心した。

「今の俺じゃあ、この辺でヤギやモグラを相手にするのが精一杯なんだ。だからここが何階層まであるかわからん」

「ダンジョンは俺が攻略する。この剣、借りていていいか?」

「俺が持っていても使えないさ。そいつは最高の職人が打った鋼の業物だ。ディアの馬鹿力でも簡単には折れないから、遠慮なく振るってこい」

 その日からディアは草原のダンジョンを攻略していった。ギルバレダンジョンでは、階層のボスを倒すと階段が出てくる。この草原のダンジョンの仕組みはわからないが、とにかく魔物を狩り続けていれば先に進めるだろうとディアは考えていた。

 一階層はヤギ、ヒツジ、モグラ、イノシシなどの魔物が出てきた。ドロップ品は野菜、羊毛、麦など。それらを持って帰るとジローニが喜んでいた。その後も攻略を続けていったある日、突然大きなイノシシの魔物が現れた。

(もしかしてこれは、この階層のボスか?)

 巨体を突進させてきたイノシシを、ディアは一撃で仕留めた。すると死体が消えて、ギルバレダンジョンでお馴染みの転移の水晶が出現する。手を当てると頭の中に二階層のイメージが湧いた。そこを意識してみると、ブンッと周りの景色が変わった。

 草原には違いないが岩肌の見える山がいくつかある。もう一度手を当てると頭の中にダンジョン入り口の鳥居が浮かんだのでそこへ転移した。

「なるほど、階層ボスの部屋がないだけで大体ギルバレと同じか。わかってきた」

 ドロップ品がリュックにいっぱいになっていたので、持って帰ってからもう一度二階層へと戻る。そこはサルの魔物ばかりだった。攻略を進めていき、ボスの大ザルを仕留めたところでディアは家に帰った。


「おお! これ酒じゃないか!」

 二階層でドロップした酒を持ち帰ると、いつもは冷静なジローニが珍しく興奮していた。一生飲めないと思っていた酒があるのだから無理もないだろう。

「俺は飲まないから全部飲んでくれ」

「ディア、お前は最高だ! ほら、肉をもっと食え」

 テーブルの向こうでうまそうに酒を飲むジローニを眺めながら、ディアはなんとなくアークの顔を思い出した。

「くあっ、十年ぶりの酒はたまらないな!」

「良かったな」

「こんな楽しい夜は久しぶりだ! なあ、ディアも楽しいだろう?」

「……そうだな」

「そうだろ、そうだろ。そんなしけた顔しているけど、お前だって楽しいだろう!」

「ああ、楽しいよ……」

 さんざん飲んでテーブルに突っ伏して寝てしまったジローニ。そこに毛布をかけたディアは自分のベッドに行って眠りについた。


 ディアのダンジョン攻略は続いた。三階層はワニやカバの魔物がいて、ボスはサイの魔物だった。四階層は馬の魔物がいて、ボスは八本足の巨大な馬だった。ドロップ品はいずれも動物の革製品だ。

 そして五階層まで進むと象の魔物が現れた。巨大な体躯ではあるが、動きはそこまで早くない。強い攻撃手段さえあれば倒せる相手だった。しばらく象を倒して進んでいくと、見覚えのある扉が見つかった。このダンジョンにおいて、初めての扉だ。

 中に入ると、ギルバレダンジョン十一階層と同じく人工的な石造りの部屋だった。

(もうダンジョンボスの部屋か?)

 ゴゴゴッと重い音と共に奥の扉が開く。出てきたのは毛の長い象の魔物だった。ディアが今まで戦ってきた中でも最上位の大きさだ。巨大な牙と六本足、長い鼻が攻撃力、全身を覆う毛が高い防御力を想像させた。

 ───ブバオオオオオぉぉ!!!

 ビリビリとした雄叫びがディアを襲い、青い髪が小刻みに揺れた。

(またあの【威圧】か。うるさいな)

 外の象と違って動きは遅くない。ディアは長い鼻の攻撃を避けながら近づいていき、その鼻が地に触れた瞬間───

(【集中】)

 静かな世界へと潜り込む。

(これでようやく急所に手が届く……)

 ディアは止まったままの長い鼻を駆け登り、大剣を眼球に突っ込んだ。そこで【集中】が切れると、呻き声をあげて魔物は動かなくなり、そして消えた。その場に水晶の乗った台座が現れ、手を当てると頭の中に声が響く。

『ダンジョンクリアおめでとうございます。報酬は【収納】、初回ボーナスはナビゲーションマップです』

 その声と同時にディアの体を光が包んだ───


「───それじゃ、もうダンジョンをひとつ踏破したのか!」

「不思議な声がそう言っていた。五階層しかなかったな」

 草原のダンジョンを踏破したディアは、拠点の家に戻っていた。ジローニはディアが帰りにドロップしてきた酒を片手に、話を聞いて驚いていた。

「それで、その【収納】ってのはなんだ?」

「念じると物をしまったり出したりできる」

「それ、マジックバッグと同じじゃないか!」

「なんだそれ?」

「クソ高い魔道具だ」

【収納】は魔道具ではなく、手をかざして物体をどこかへしまい、いつでも取りだすことができる。

「それと他のダンジョンの位置が書かれた地図をもらった。初回ボーナス? とか言っていた」

 ディアはテーブルの上に地図を広げた。ジローニが覗き込んで位置を確認する。

「えーと、ここが草原のダンジョンなら、廃墟のダンジョンはそれなりに近いけど、残りの五つは遠いな。この赤いのはこの家か?」

「それはこの地図の位置だ。移動するとその印も動く」

「すごいな!」


「───よし、じゃあ次はこの壺全部いってみるか」

「【収納】」

 ディアが草原のダンジョンを踏破した次の日、二人は【収納】の検証をしていた。

「おいおい、どれだけ入るんだよ」

「わからない。制限がないのかもしれないな」

 ディアの得た【収納】は生物以外ならなんでも入れることができた。

「生えている木はどうだ?」

「できなかった」

 どうやら木は地面から抜いてからでないと【収納】できないようだ。しかし、この【収納】によって、今まで大剣を背負っていたのがなくなったのも大きい。ディアの身長だと、腰に吊ると引きずってしまうのだ。

「大体わかった。じゃあ廃墟のダンジョンへ行ってくる」

「ああ、ヤバかったら引き返せよ。気をつけてな!」

「わかった」

【収納】に必要な物をしまって、身軽になったディアは一人歩きだしていった。


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