◆第十七話 家畜の意地
「あ、あれは、龍?」
絶望からの突然起きた出来事にアークは何がなんだかわからなくなっていた。
「あれはユニが言っていた神獣だな。山のようにデカくて見ればわかると言っていた」
「神獣? フェンリルの仲間ってことか?」
「仲間かどうかは知らないがな」
ディアは神獣の存在を知っていたのであれがそうかと思った。そしてもう一人、神獣の存在を知る者がいた。
(団長、来てくれたのね……)
ハグミはそっと一礼した。
真紅の古龍は地上を一瞥すると、その身を翻して飛んでいった。
「た、助けてくれたのか?」
「そうみたいだな……」
また、古龍を信仰するナルハ族は空に向かい手を合わせた。
「あれが古龍様……」
ナルハ族のツバサは、古龍の去った空を眺めていた。
「アーク、おそらくあれが神の力というやつだろうな」
アークとジローニは黒煙の残る空を見上げていた。
「ジローニ、もう何人死んだかわかんねえな」
「そうだな。テンテンもやられた」
「ワイズもやられたってよ。兵士もほとんど残っちゃいねえ」
「そうだな。さっきので援軍もほとんどやられた」
「もう、後には引けねえ。ここで負けたら死んだ奴に顔向けできねえな」
「ああ、そうだ」
「じゃあ行くか」
散歩にでも行くような足取りでアークは古城に向かった。他の面々もそれに続いていく。絶対に生きて帰る、とは思っていなかった。
───ただ、絶対に勝つと心に決めて。
*
ダンジョンに入ると広いエントランスホールのような部屋だった。〈古城のダンジョン〉に似た、昔の城といった雰囲気だ。
そこに待ち受けるのは千年前の兵士たち。エピックの眷属だというレベル400の屍鬼だった。
「ナウ、こいつらがそうか」
「ん……そう」
見たところ五百人くらいだろうか。
「ハル、セラ」
「はい!」
「はいぞよ!」
豹となったハルがブレスをぶつける。さらにセラが魔法で炎の龍を襲わせた。
「これでも死なねえのかよ……」
焦げても動いている屍鬼をみて、アークはそんな言葉を漏らした。
「心臓にとどめをさせ!」
ジローニの指示の元、全員が屍鬼の心臓に剣を突き刺した。
「ナウ、この階層にはボスとかいねえのか?」
「ここのボスは私だった……」
ナウが階層ボスだったらしい。
「お、お前を殺さなくても進めるのか?」
「ん、大丈夫……」
「じゃあ次はナーヴって奴か」
「そう。でもいないかも」
次の階層は大広間だった。そこにも屍鬼が五百人ほど待ち構えていた。そこにディアが世界樹の杖で霧をぶつける。
「やっぱり死なないな」
凍っているように見えても屍鬼は動いていた。再び全員で心臓を突き刺していく。
「ナーヴってのいなかったな」
『多分みんな一緒にいると思う。ナーヴ一人じゃ勝てないから』
メモにそう書かれた。
「じゃあ次のメアってのもいるかわかんねえな」
「ん……」
次の階層は広くて長い廊下だった。そこに千人の屍鬼がいたがこれも全員で倒した。魔法で動きを止めれば、あとは心臓を突き刺す作業をするだけだ。
「なんかあっけねえな」
「陛下、多分太らせているのよ」
アークの呟きにハグミが答える。
「太らせる?」
「レベルを上げさせているのよ。回収するために」
「ああ、魂力ってやつか。神様を生き返らせるのに必要なんだってな」
「家畜ってわけか」
ジローニはギルバレダンジョンを思い出す。
「そう、僕たちはまんまと太らされていたってわけ。ねえ、ナウ?」
「ん……」
皮肉のつもりでトギーがナウを見るが、表情に変化はない。
「なあ、ナウ。お前シオンとかメアの仲間だったんだろ? そいつらと戦えるのか?」
「ん……。そのためにレベル上げた」
ナウは魂力ポーションでレベルが2000近くまで上がっていた。
「そうか、じゃあいいけどよ」
「アーク、次に吸血鬼が三人揃っていたらどう戦うか」
ジローニがアークに問う。
「シオンは俺がやる」
そう言ったのはディア。
「まあ、そうなるよな。勝てるとしたらディア、お前しか考えられねえ」
話し合った結果、ナーヴにはエルフィン、トギー、ハグミ、ジローニ。メアにはセラ、ハル、ナウ。シオンにはディア。アークはそれ以外のために待機。
アークを待機するように提案したのはジローニだった。以前、アークの【鑑定】ができなくなったときに聞いたことがあった。
「───そういやアイナって婆さんにこの指輪をもらったんだよ」
そう言って指輪を外すと【鑑定】ができたことから、指輪が【鑑定】を阻害する魔道具だとわかった。
そのときのレベルは59だった。それからアークはダンジョンに潜っていないはずだ。場合によっては一撃で殺されてしまう。そう思ってアークを戦闘から外したのだ。
「さあ、家畜だと思ってナメていると痛い目に会うことを教えてやろうぜ」
「そうね」
「はは、家畜の意地だね」
一同は次の階層へと進んだ。そこは広めのボス部屋だった。奥が一段高くなっていて扉があり、その前には棺が置いてある。
───そしてシオン、メア、ナーヴの三人が現れた。




