◆第十五話 最終戦争 1
フリード連合首脳陣による作戦会議が始まる前に、アークはディアを呼び止めた。
「ディア、お前も会議に参加してくれねえか? 別に喋んなくてもいいからよ」
「わかった」
元はこのディアの居場所を作る目的で始めた戦いだ。アークはディアに覚悟を聞いてもらいたかった。
「そうか、ありがとよ。ところでなんでナウはディアの服を掴んでるんだ?」
元四天王のナウ。吸血鬼だったがノア・アイランドにて魂力ポーションを飲み、今はダンピールに種族変化していた。ノア・アイランドに転移して以来、なぜかナウはディアの服や外套を掴んで離さなかった。
『ディアは私の見張りだから』
そう書かれたメモを見せる。
「お、おう。確かにそうだな……」
アークは心なしかディアが迷惑そうにしているように見えた。
「じゃあ、あっちの会議場でな」
アークは会議場へと歩いていった。
「なんかディアの周りには女が集まるな。あんな無表情だってのに……」
「聞きましたか、マユカ様。この男、弟子がモテるのが気に食わない様子。さてはハーレムを……」
「うおおっ! なんでいるんだよ!」
「あなた、英雄色を好むと言いますがこれから大事な戦いですのよ」
急に背後からマルチダとマユカが現れた。
「ギルアバレークにいたんじゃなかったのかよ」
「今回は総力戦ですから。わたくしも微力ながら戦いますわよ」
「アーク、止めても無駄だ。マユカ様は覚悟を決めていらっしゃる」
後ろから見慣れた騎士もやってきた。
「ヒューガーまで来たのかよ。ギルアバレークは大丈夫なのか?」
「向こうに戦力はほとんどいないな。ミドリ部長も来ている。あとはノーグ相談役がなんとかするだろ」
マユカたち遠征隊が前線に到着した。これでもう搾りカスも出ないほど戦力を搾り出したことになる。
「しゃあねえな。マユカ、今から会議だから一緒に来てくれよ」
「あんた、どこ行っても女を引っ掛けてくるわね!」
「レオナ、使徒様はそんな女たらしではないぞ」
「あんたもその一人よ!」
会議場でナウを連れたディアの横にはレオナとメグもいた。一応、プールイ共和国の王女とアスピ族の娘ということで首脳陣には変わりない。ハルは特に役職はないがシラっと座っている。
「集まったな」
そこにアークが到着した。横にはマユカとマルチダがいる。
作戦会議には、アーク、マユカ、マルチダ、ジローニ、トギー、ハグミ、テンテン、エルフィン、ヒューガー。それにディア、ナウ、レオナ、ウォンカー、メグ、ハル。
リオン・エンパイア、ジーラ・ビス、将軍アラントとそれぞれの側近。プールイ共和国の代表モイセス、騎士団長のニール。セント共和国の代表ダンク。
イクス・ファミリアのワイズ、戦士長ブレイズ、ナルハ族の族長代理ナウカナ、妹のツバサ。デリス王国のジョン・デリスを始めとする小国郡七カ国の王と側近。ジラール王国の国王、リン・ジラールと何故かセラ。
ケール王国のシュバイツ・ケールを始めとするギルアバレークに編入した六カ国の国王と側近。
合計十九カ国と一ファミリアの首脳陣が一斉に顔を合わせた。
「みんなありがとよ。作戦会議の前にオレの方から決意表明させてもらうわ」
アークに全員の注目が集まる。
「ここにいる連中とは戦って仲間になった奴がほとんどだからよ、オレは今回もアイエンドの人間たちとは同盟を組むような気持ちでいたんだ。実際に国を動かしているのは上の一部だけだからな」
出席者たちは静かに聞いていた。アークは話を続ける。
「だけどよ、さっきジローニとも話して甘かったって気づいたわ。そりゃそうだよな。千年も好き勝手やってきたんだ。このアイエンドだけは完全に国を終わらせなきゃダメだ」
最も虐げられできた六カ国、耐え忍んできたエンパイア王国、殺されるために育てられた元十騎士。そして、五歳の誕生日に両親を殺されたディア。それぞれがただジッとアークを見つめている。
「民を皆殺しにするってんじゃないぞ。国を終わらせる。この千年の歴史に終止符を打つんだ。みんな、それでいいか」
各々が肯定の意を示す顔をしている。
「よし、じゃあ作戦会議だ。それぞれ知らない所もあるから正直に戦力や特徴を話し合ってくれ。まずはうちの斥候部からアイエンドの情報を話してもらう。ライアン」
「へい、ご紹介に預かりましたギルアバレーク王国斥候部のライアンと申しやす」
突然いなかったはずのライアンが現れた。知らない者は目を見開く。
「現在アイエンド王国は王都に約三十万人の兵がおりやす。領地軍は約五十万人、領地は全部で二十ありやす」
アイエンド王国の王都は西の方に位置していた。王都の先、海岸線側にも二つの領地があり東側に十八の領地がある。
それぞれが小国ほどの規模であり、兵力は二万から三万ほど。すでに六カ国の属国がこちらについた事は知られているので戦闘体制を整えている所だとのことだった。
「それとナウさんからの情報で十騎士の残りは三人、レベル2000のナーヴ、4000のメア、8000のシオンでやす」
「は、8000だと?」
フリード連合は、レベルの概念はある程度共有していた。よって、レベル8000がどれほどの化け物なのかはわかってしまう。
「他にレベル400の眷属が 二千人程いる筈だそうでやす。そちらは確認は取れてやせん。現在王都は封鎖されておりやして入り込めない状態でやす」
「レベル400が二千人って……」
ハグミより強いのが二千人。想像を絶する戦力だ。
「眷属は……、心臓が弱点……」
ボソッとナウが喋った。
「じゃあ、やれそうだな」
ジローニが言った。なんの心配もいらない、そんな顔で。
「二千人じゃ余裕だね」
「うん、ボクも少なく感じるよ」
「あたしもいざとなったら本気だすわ」
元十騎士たちが明るく話し始めた。場の空気も温度を取り戻す。
「魔女認定委員会は全部で十二人、大抵王城に揃ってやす。王城の裏には古い城があって、そこがダンジョンでやす。これまでの情報を合わせやすと敵はディアさんやハグミさんたち、高レベルの人間をダンジョンで殺したいのだと推測されやす」
「ふん、家畜の処理場ってわけね」
ハグミは腕を組み言い放つ。
「最後にひとつ。ギルアバレークで捕らえた暗殺者は魔女認定委員会直属の殺し屋でやした。お恥ずかしいことに侵入を許してしまいやしたので、必ずこの失態は取り返しやす。その殺し屋が言っていたのが、王都には神の力があるから絶対に勝てないとのことでやした」
「神の力? ナウ、知っているか?」
『わからない。人間とあまり話したことがないから』
アークの問いにナウがメモで答えた。
「結局、奴らも具体的には知りやせんでしたが言い伝えのようなものが委員会にはあるようでやした」
ライアンは一通りの説明を終えるとまたどこかに消えた。一同はその情報を元に作戦を立てていくこととなった。




