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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
最終章
102/112

◆第十四話 覚悟



 フリード連合各国は、エンパイア王国に接する大森林を抜けて元属国である六カ国へと兵を移動させていた。その六カ国は現在、ギルアバレーク王国の一部となったばかりだ。

 そこを素通りして、アイエンドの本国との国境付近に連合全ての戦力は集まった。


「やあ、アーク」

「リオンも来たのか」

 ギルアバレーク王国の本陣にやってきて、アークに声をかけてきたのはエンパイア王国の国王リオン。

「当然だ、これは決戦である。全ての力を注いでお互いの国の生死をかけるのだ。王が来るのは当然であろう」

「その通りだ。アーク、さすがリオン殿はわかっているな」

 そこにまた声をかけてきた人物がいた。

「あんたも来たのか、陛下」

 ビス王国、国王のジーラ・ビスだった。

「陛下、初めまして。エンパイア王国、国王のリオンです」

「会うのは初めてだなリオン陛下。ジーラ・ビスだ」

 魔導通信で話したことはあったが、会うのは初めての二人だった。


「ずいぶん連れてきたな。国は大丈夫か?」

 ビス王国の陣は、先が見えないほどの兵士で埋まっていた。

「リオン殿も言っていたであろう。これはお互いの亡国をかけているのだ。負けたら連合国は全てやり返されるのだから、国に戦力を残す意味がない」

「はは、どこも一緒だな。こっちも国は空っぽだよ」

 エンパイア王国もビス王国も、全てと言っていい兵を連れてきた。それぞれ二十万人の兵を率いているのだ。本来はそこまでの戦力を有していなかったのだが、連合の決戦を前にして一気に志願者が増えたそうだ。両国とも、成人男性の半数ほどが兵士となっている。

 ギルアバレークに至っては冒険者たちも入れて十万人を用意した。兵士は新兵も含めて全員だ。

 そしてプールイ共和国からは九千人の兵と代表のモイセス。セント共和国からは三万五千人の兵と代表のダンクが到着した。

「あんたまで来ることなかったのに。戦えないだろ?」

「はい、私は文官でしたからね。でも今は国の代表です。兵士の戦いを見届けるくらいはできますよ」

 そう言ったのはプールイ共和国のモイセス。鎧が見事に似合っていなかった。

「私も同じです。それに村で力仕事もしていましたから土嚢作りくらいはできると思います。ディアさんのおかげでレベルも上がりましたしね」

 セント共和国のダンクは以前ほどオドオドした様子はない。いい目をしているな、とアークは思った。

 そこに黒塗りの高級車が列を成して到着した。大量の魔導二輪車も後に続く。

「やあ、皆さんお揃いですな」

 いつもの白スーツにサングラスの男、アスピ族の族長ワイズが車から降りてきた。

「おい、あれを」

「はっ!」

 一族の部下が持ってきたのは大量のポーション。

「可能な限り採ってきた。こいつを皆さんで配って下さいや」

 ワイズは普段売り物にしているポーションを無償で放出した。思いは同じだった。負けたら終わりなのだ。

「ありがとうな、ワイズ」

「なに、このくらい使徒様への恩に比べれば微々たるもの。我らは戦闘においてこそ本領を発揮しますのでな。戦える者は全員連れてきましたぞ」

 アスピ族とナルハ族はそれぞれ族長が契りを交わし、イクス・ファミリアとなった。そのファミリアからは千人の戦士がここに来ている。数は他に比べて少ないが、個人の戦闘力は最も高い。

 続いて七カ国小国郡が一万五千人をひきつれてきた。これもほぼ全部の戦力だ。

 そしてつい最近東部戦争によって多数の兵士を失ったが、それでも最も多くの兵士を連れてきたのはジラール王国だった。その数は二十五万人。現在、先の戦争においての隕石や戦闘の被害を連合各国が協力して復興させている。むしろ短期間で前より王都が発展しているくらいだった。

 連合各国が揃い、そこにギルアバレークに加わった旧属国の六カ国二十万人の兵が合わさって、フリード連合軍は総合計九十八万五千人となった。

「百万人ってなんとかなるもんなんだな」

 アークは見渡す限りに集まった兵士たちを眺める。かつてアイエンド王国の総兵力を聞いたときには背中も見えないような数字だった。

「ふふ、おそらくどこの国もわかっているのだろう。これが最終決戦だということを」

 リオンはどこか嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「なんだ、嬉しそうだな。決戦だってのによ」

「戦えるってだけで嬉しいさ。前に比べたら」

 そう。戦いたくても耐え忍ぶ期間が長すぎた。いままであの貴族の一族が国を存続させてきたのだ。でも、今なら勝負ができる。勝つか負けるかはわからないが、戦えるだけでリオンは嬉しくなっていたのだ。

「おいアーク、首脳会議までまだ時間がある。少しいいか」

 そこにジローニが声をかけてきた。

「ああ、わかった。じゃあ後でな、リオン」


  *


 ジローニとアークはテントの中で向かい合った。二人きりである。

「なんだよ、ジローニ」

「アーク、お前アイエンドをどうしたい?」

「どう?」

「ああ、懲らしめてごめんなさいって言わせたいのか、それとも許さないのかだ」

 ジローニの問いにアークは少し考える。

「そうだな、最初はぶっ潰してやるって思ったけどよ。色々わかってくるうちに悪いのは吸血鬼や魔女認定委員会だってわかってきたよな。だからそいつら上層部を叩きてえな」

「じゃあそれ以外は?」

「これまでもよ、戦ってきた相手が仲間になっただろ? 人間の方は話せばわかるんじゃねえかな。トギーたちにしてもいい奴らだったしよ」

「やっぱりそうか」

 ジローニはため息混じりに言った。

「なんだよ、ダメか?」

「アーク、今度ばかりは今までとは違う。話してわかる奴もいるだろう。だが俺たちは対アイエンドとしてまとまってきたんだ。今からが本当の戦争なんだよ」

「ジラール王国のときだって戦争だったじゃねえか」

「あのときは勝って同盟に参加させる腹づもりだっただろう。より大きな敵、アイエンドがいるからだ」

「まあ、そうだな」

「お前はディアや魔女認定された連中の居場所ができれば満足かもしれない。だがこれだけ多くの国や兵を巻き込んでいる。そしてたくさん死なせた」

 そう言われてアークは東部戦争で死んだギルアバレークの兵士たちの顔を思い浮かべる。冒険者時代の顔見知りもいた。さらにはエンパイア王国など四千人も死んだという。同盟国全てに死者が出ている。他にも六カ国がアイエンド軍として攻めてきた時には三万人も殺した。

「ああ、そうだな。たくさん死んだ」

「そうだ。今までみたいに仲間を作る戦いじゃないんだ」

「……」

「アーク、アイエンドを終わらせるぞ。この国を獲るしかない」

「こんなでけえ国をか?」

「そうだ。上層部だけを叩いてあとは復興じゃダメなんだ。完全にこの国を無くして初めて歴史が終わる。多くの虐げられた者たちの歴史がだ」

 アークは目を閉じた。

『総司令官殿、失礼ですがやる理由は貴方よりもありますぞ。やれなかった、いや、やらなかっただけで』

 属国だったハノール王国の王の言葉を思い出す。自分はディアやマユカ、ミドリのためにやる理由があるんだと言ったが、それ以上にやる理由のある人たちがいたはずだ。薬師のハナエだってそうだ。逃げまわって人生が変わってしまっただろう。大切な人を殺された人だって数えきれない程いるはずだ。この千年の間に。

 民を守るために耐え忍んできた貴族もいる。そして死んだ。自分の首を差しだして。それを泣きながら斬った幼い王子がいた。今では覚悟の決まった目をしている。

 東部の奴らだってわかっている。負けたらギルアバレークやエンパイアが獲られる。その後はビス王国やプールイやセント共和国も。そうなったらジラール王国まで全部アイエンドの支配下だ。

 アークは目を開いた。

「すまねえ、ジローニ。覚悟ができてなかったわ」




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