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ギルアバレーク戦記  作者: 推元理生
最終章
100/112

◆第十二話 待ちわびた英雄



 ディアがアークから聞いたのは、六カ国の返事がどうであろうと明日にはアイエンド王国の国境まで攻め込むということだった。

「じゃあ、朝には戻ってくる」

「おう、頼むぜ」

 ディアはナウの見張りを任されていたが、ずっと見ているのも面倒なのでナウを連れてノア・アイランドに転移し、明日の朝に戻ってくることにした。

 今の所ナウは協力的だ。だが十騎士の四天王には変わりない。油断はできないので隔離しておこうと考えたのだ。

「行くぞ」

「ん……」

 ナウがディアに掴まり二人は転移する。拠点の家の前に着くとナウは口を半開きにしてキョロキョロと辺りを見回していた。

「こっちだ」

 ナウを連れて家の中へ入っていく。するとそこにはゴーレムの素材や紙の資料が散らばっており、その奥に何かの実験用具のような物を持った老婆がいた。

「おや、ディアかい。お邪魔しているよ」

 そこにいたのはアイナだった。


  *


「ふうん、ついにアイエンド王国に攻め込むんだね」

「ああ、明日には国境に行くって言っていた」

 ディアはアイナがアイだとは言わなかった。ナウがまだ信用できる相手ではないからだ。

「その子はアイエンドの吸血鬼だね。捕まえたのかい?」

 アイナはナウを見て言った。

「知っているのか?」

「まあね。噛みつかれないように気をつけな」

「わかった。変な動きをしたら殺す」

 ディアがそう言うとアイナはナウに向き合った。

「あんた、ナウって言ったね。ディアの持っている剣は魔剣黒凪だよ。知っているかい?」

「……ん?」

「知らないようだね。この魔剣黒凪はナギ様が偶然作った『レベル喰い』だよ。あんたたち魔物のレベルを喰って消滅させられるのさ」

「……!」

「何もしなければ斬らない。アークに頼まれているからな」

 ディアはそう言って魔剣黒凪に手を添えた。ナウは冷や汗をかきながら、そっとアイナを【鑑定】してみた。

〈かよわい乙女 レベル3〉

「もしかして……、アイ?」

「そうさ、あんたもあのときいたね。五百年ぶりになるかい」

 アイナはあっさり正体をあかした。

「ルナ、様……が」

 ナウはメモにペンを走らせる。

『あのときはシオンたちがごめんなさい。ルナ様はあなたに会いたがっています。もうすぐ目覚めるはずです』

「あたしだって会いたいさ。たった一人の娘だからね。でもアイエンド王国がすっかり拗れてしまっているからね。近寄るだけで殺そうとしてくるぐらいさ」

『仲間に頼めばいいのでは? あのシオンを子ども扱いしていた赤髪の女とか』

 今はギルアバレークで団長をやっている。あれが出てくれば一発で解決するはずだ。

「あの子たちは国同士、人間同士の争いには直接介入しないのさ。手伝うくらいはするけどね」

『じゃあ、ルナ様に会ってくれないのですか?』

「人間たちが四天王を倒したら会えるようになるさ。ギルアバレークの英雄はどうやら本物らしいからねえ」

「……」

 ナウはアークを思い浮かべる。アイにここまで言わせるとは、あのレベルの見えない男は相当な人物なのだろう。

 そしてあの赤い髪の女。なんのためかわからないがギルアバレークに肩入れしているのは確かだ。直接戦いに参入しないのは良いのか悪いのか……。

「だからあたしもナギ様の魂を受け継いだ人間に任せるよ」

「……」

 アイナとナウは無言で視線を合わせた。

「ああ、そういえばアイナに見てもらいたいものがある」

 そこにディアが口を挟む。

「これなんだが……」

 ディアは【収納】から一本の魂力ポーションを取りだして机の上に置いた。

「天使のダンジョンでドロップしたものだ。これをハルに飲ませたら種族が変わったんだ。〈オリハルコンヒューマン〉といって、レベルも急激に上がった」

「なんだって……?」

「だが、食事と睡眠が必要になったんだ。だからこれは魔物を生き物に変える物じゃないかと思うんだが何か知っているか?」

 目を見開いてディアを見るアイナ。

「いや、知らない。そんな、バカな……」

「アイナでもわからないのか」

「ディアや、今あたしが研究しているのがまさにそれさ。ハルが生命を宿ったからにはあたしにも可能性があるんじゃないかと思ったのさ」

「じゃあアイナも飲んでみるか? 人間になったら寿命ができてしまうと思うけどな」

「ずいぶんあっさり言うね……。ディア、これはまだ余っているのかい?」

「あと八本ある。セラがボスじゃなくなったんでもうドロップできないからこれで最後だ」

「い、一本もらっていいかい?」

「ああ、もう使わないから半分やるぞ。全部あげてもいいんだが、もしかしたらまたミドリが欲しがるかもしれないからな」

 ディアは三本の魂力ポーションを【収納】から無造作に出した。

「マスター、こんな物を……」

 アイナは魂力ポーションを手に取る。

「あの……」

 そこに口を挟んだのはナウだった。メモにペンを走らせる。

『それ、私にひとつ飲ませてもらえますか?』


  *


「お、戻ったかディア」

 翌朝、ディアとナウはフリード連合の本陣へと戻った。

「あれ、なんかナウの感じが変わってねえか?」

 アークの指摘通り、ナウの青白みがかっていた顔色が肌色になっていた。一見、色白の人間に見える。

「種族が変わったんだ。アイナによるとダンピールといって魔物と人間が半々の生き物らしい」

「なんだそりゃ?」

「魔物を生き物に変えるポーションを飲ませたらこうなった」

「お前ほんと説明下手だな。まあいいけどよ、それなら今までより弱くなったのか?」

「いや、レベルは上がっている。1800以上あるな」

「なんだよ、強くなっているじゃねえか。大丈夫なのか?」

「ん……、大丈夫……」

 ナウがボソッと喋った。

「うおっ、しゃべった! まあ本人がそう言うならいいけどよ。じゃあ引き続き頼むぜ」

「わかった」

 アークも今まで色々と驚くことが多かったので、種族が変わったくらいでは動じなくなっていた。ミドリに比べればたいした変化ではない。

「アーク、六カ国の代表が集まったぞ。あれ? ナウの感じが変わったか?」

 そこにジローニがやってきた。ナウについて、またさっきと同じ説明をしたがジローニも動じなかった。

「へえ。この方が健康的でいいじゃないか」

「ん……」

 ナウもまんざらでは無さそうだった。

「じゃあ会議場に行くか。あいつらどんな決断になっているかな」

 アークたちは六カ国の代表が集まる会議場へと向かった。


 会議場に行くと、そこには昨日はいなかった顔ぶれがあった。どうやら代理を寄越していた三カ国の国王が直接来たらしい。それによって六カ国全ての国王が揃うことになった。

「おはようさん。なんだ、みんな眠そうだな」

 爽やかに挨拶したアークだったが、六カ国の代表たちは国王を呼びに行ったり自国で話し合いをしたりと寝る暇などなかったのだ。

「それでどうするか決まったか?」

「はい、意見がまとまりました。私が代表してお話しします」

 そう言ったのはケール王国の国王だった。名前をシュバイツ・ケールといい、六カ国の中では王としての歴が一番長い。

「結論から言いますと、我々もアイエンド王国と戦わせていただきたい」

「お、そうか。じゃあ一緒にやろうぜ」

 アークはひと安心した。当初の目的が六カ国を吸収することだった。昨日はつい引き気味のことを言っていたのでどうなるのか不安が残っていたのだ。

「ただ、それには条件があります」

「お、そう来たか。言っとくがうちは平等だから変な優遇はできねえぞ」

「承知しております。条件とは、我々をギルアバレークに併合して頂きたいのです」

「へ?」


  *


 六カ国は国とは言いながら、もう数百年もアイエンド王国の属国だった。国王も便宜上国王と僭称せんしょうしていたが、アイエンド王国の下級貴族の方が立場は上であるくらいだ。

 それはアイエンド王国に併合されていないからだと言えた。つまり、貰うものは貰って面倒は見ない。そして時には理不尽に魔女狩りが行われる。それなら併合してひとつの領地にしてもらいたいくらいだったが、そうはならなかった。あくまでも他国。それなのに税は取る。アイエンドにしてみればその方が都合良かった。


「───なるほどな、それならアイエンド王国を叩き潰した後にちゃんと独立すりゃいいじゃねえか」

「総司令官殿、我々はずっと待っていたのですよ。貴方のような人を」

「あ?」

「我ら六カ国は同じような立場ゆえ連帯感を持っておりました。ただし、その中に王はいないのです。我らも虐げられている者同士平等でありました」

「くすぶっていたってことかい」

「はい。もし強力な統率力や指導力を持つ者が我らを率いることがあれば、我らも立ち上がることができる。そして平和と安寧を次の世代に受け渡せる。そう願っていたのです」

「そんなのは……」

「何を無責任な。自分たちでやれとお思いでしょう。しかし我らは、我らの民たちは生まれ変わりたいのです。正直、今の国には誇りも思い残すこともないのです」

「国が無くなるんだぞ?」

「我らの国は属国であったときの方が歴史が長いのですよ。当然、私も生まれたときから属国の王子でした。ここで命をかけて生まれ変わりたいと思ったのです」

 自分の国を無くして、他国に入れてもらいたいという。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。

「アーク、時間がないぞ」

「せ、急かすなよジローニ」

 作戦ではいち早くアイエンド王国の国境に向かって陣を敷き、連合からの応援を待つ手筈だ。

「それはあんたたちの総意か? 他のやつらはどうなんだよ」

「はい」「そうだ」「その通りです」

 アークは頭を抱える。以前ビス王国からプールイ領を渡されたときは共和国にして独立させた。だが今度は少し違う。国そのものを併合してくれとのことだ。しかも時間がない。

『あなたなら守れるでしょう。守りたいもの全てを』

 そこに浮かんでくるのはあの貴族の声だ。

「チッ、わかったよ……」

 アークは立ち上がる。

「今からお前たちはギルアバレーク王国の一員だ! もうアイエンドの好きにさせるな! 女とガキを守り抜け!」

「はい!」「おう!」

 その時をもって、ギルアバレーク王国は大幅な領土拡大をすることになった。


『六カ国が同盟に加わった! 全軍集合だ!』

 アークの指令は連合国内に響き渡った。東に憂いのないところまで広がったフリード連合各国の戦力が全て西側へ進軍する。歩兵から騎馬隊、魔導トラックに黒塗りの高級車。全てが移動を始めた。

 大国アイエンド王国といよいよ決戦である。


  *


「動き出したようですね」

「バカな奴らだ。本国には絶対に勝てないというのに……」

 ギルアバレーク王国内、魔女認定委員会直属の潜入部隊が慌ただしく動く兵士たちを眺めていた。

 彼らは各国に潜入して魔女候補を探す潜入のプロだ。もし今、彼らが忍び込んで来たのならライアンたち斥候部やハルに突き止められていたはずである。

 しかし彼らはギルアバレークに戸籍を持っていた。ギルバレのときから冒険者や商人として潜入していたのである。今はバーテンダーや城の使用人として働く者たちである。

 彼らは普段、目立った諜報活動をせずに生活していた。そして噂程度の情報を時折り本国に渡すのだ。

 そんな彼らおよそ百人が、兵士のいなくなったギルアバレークで行動を起こそうとしていた。

 ───本国からの指示。それは魔女の殺害だった。




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