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ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第2章 中学時代後編 自分の荷物と誰かの荷物
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第7話 第1節 まず僕がやるべきこと

 中二の僕が響子コーチの幸せのためにやるべきことは何かを考えて、まずは水泳の回数を増やすことにした。それと響子コーチの意見を尊重して、なおかつ少しでも関わりを持つために、メインを自由形に切り替えバタフライも速く泳げるようになる。頑張って個人メドレーの選手になる。そしてそれなりの大会で結果を残す。ニュースとかの優勝インタビューで響子コーチのおかげですとか言おう。ここまでが具体的に僕ができること。


 この作戦を真理雄にSNSで伝えると「毎日悠太君と泳げるのはうれしい」と返事があった。さらに「三橋コーチは今の彼氏であるけれど、今だけの彼氏であることを忘れないでいること。それと響子コーチに彼氏がいるのは、自分の好きな人がどれだけ魅力的であるかの証明でしかないと意識を変えること」というアドバイスが添えられていた。真理雄は背が小さいだけで、本当は20歳超えているんじゃないかって疑う。


 自転車でスクールに到着し、入り口で深呼吸をして、僕にできる最大の元気の良さと笑顔で中に入った。


「おはようございます!」カウンターにいたのは響子コーチじゃなくて向上コーチだったので少しがっかりした。そして心のどこかで今この瞬間、響子コーチと三橋コーチは二人きりでいるかもしれないと考えると、心がモヤモヤし始めたが、真理雄から言われた言葉を心で繰り返す。「今だけの彼氏、今だけ、今だけ……」


後ろから入って来た篤が声をかけてきた。「お?今日は悠太泳ぐ日だったっけ?」

「おはよう。色々考えて水泳を頑張ってみようと思ったんだ」そう答えた。受付カウンターの向上コーチに、週3回から週5回に増やしたいことと、古岡主任コーチと話がしたいことを伝えると、向上コーチは古岡コーチに電話をした後、コンピューターで増回の手続きを進めていた。


「悠太君、増回の手続き完了です。月謝が少し上がるのだけれど、これが案内の用紙になります。親御さんに渡してくださいね。」そう言うと向上コーチにプリントを2枚渡された。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」僕は向上コーチに頭を下げた。

 向上コーチは人差し指を自分に向けて、ちょっと顔を傾けて言った。

「ん?私は何をよろしくされたのかな?」

「これから古岡コーチに話をしますが、メインを自由形に切り替えようと思っています。最終的にはメドレー選手になりたいので、全種目教えてくれる向上コーチにいろいろ教えてもらわなければダメだから。だからそのよろしくお願いしますです」そう言うと向上コーチの顔が明るくなった。


「そうかぁ、それはうれしいなぁ、悠太君は自由形もなんだけど、実は背泳ぎも絶対才能があると思ってたんだよ。今の背泳ぎでもかなりきれいだよ。うれしいなぁ」そう話していると途中から古岡コーチがやってきて話に加わってきた。

「ほんとか悠太?いやあ、辞めちゃうのかなって心配してたから、余計にうれしいよ。じゃあ今後のスケジュール立てなきゃな。専科を自由形に変えて自由形一本でいいのか?」

「いえ、最終的には長距離個人メドレーでオリンピック出場を目指したいです」そういうと古岡コーチが驚いて言った。


「え?メドレーは良いとして、長距離なの?メドレーはただでも距離が長くなるけれど悠太は短距離向きの白い筋肉じゃないか?短距離のほうが向いてる体だと思うんだけど……何かしら理由があるんだろ?否定しないぞ?でもトレーニングメニュー組むうえで、悠太が長距離を望む理由は知っておきたいかな」


 いつの間にか僕の後ろに立っていた真理雄が言った。

「古岡コーチ。僕は悠太君の筋肉はピンクだと思います。瞬発力と持久力を兼ね備えたピンクの筋肉。悠太君は小さいころから、お父さんとよく登山に行ってたんです。その時の話を詳しく聞くと、持久力も高いんだと思っていました。こないだ悠太君は筋肉がピンクなんじゃないかって、そんな話をしたことがきっかけかもしれません」神フォローを真理雄がしてくれた。そのとおりであると僕が言おうと思ったときに、響子コーチも出てきて言った。

「悠太君、増回するんだね。うれしいよ」響子コーチは満面の笑顔で言ってくれた。それを聞いた僕の脳みそはねじが外れた。


「古岡コーチ。理由は響子コーチに喜んでほしいからです。響子コーチが長距離の方が得意だって言ってたから。響子コーチがバタフライのコーチだから。響子コーチが自由形のほうが良いって言ったから。響子コーチです。理由は響子コーチです。それだけです」僕は大きな声で言っていた。その場にいたみんなは困った顔をしていた。初めに笑いだしたのは真理雄だった。真理雄の笑い声につられて、みんなが笑いだした。


「わかったよ悠太。誰かのために一生懸命になる気持ちは大事だよ。時代遅れだけど男に生まれてきたからには、誰かのために突き進めって俺は思っているよ」それを聞いた響子コーチは困ったような顔をしていた。僕は響子コーチを幸せにしたい、響子コーチが嫌がることから守りたいと誓ったのに、僕が響子コーチを困らせている。どうしよう……みんなの前で……。


 響子コーチが眉間にしわを寄せて声を出した。「悠太君、途中でやめるなよ?こんな大勢の前で私を喜ばせたいって宣言したんだからね。私は私より強い男が好き。だから途中でひざを折るなよ。私は厳しいよ?覚悟はできているの?」みんなの前なのに、世界は二人だけのような感覚になった。

「どんなときも、どんなことも、絶対にやめない!響子コーチを喜ばせる以外は何もほしくない」こぶしを握り締めていった。

「わかった。期待してる」そう言うと響子コーチは奥に戻っていった。それを聞いていた古岡コーチは天井を見ながら言った。


「う〜ん……じゃあ悠太。俺も本気でスケジューリングするからな。メドレーはそもそも距離が長くなるし、400メドレーになったら持久力が勝負だからな。泳ぐだけじゃなくて食べ物やジムトレーニングや今までとは違うからな?覚悟決めろよ」そう言ってこぶしを突き出してきたので、僕もこぶしで返した。


 古岡コーチが作ってくれたスケジュールは、月、水、金曜日のメインが自由型、火、木曜日のメインは背泳ぎ。毎日のサブとしてバタフライ。古岡コーチは年齢が早い段階からの筋トレを勧めない人なので、ジムトレ内容は主に呼吸制御をしてのランニングマシンを使った持久心肺強化としている。このクラブは選手コースの場合、将来生徒がオリンピックに出場したときなどの宣伝になることもあるためか、選手コースの回数増回やジムの使用については、数百円の違いに収まるので親に話がしやすい。何より「やる気」になったのは、持久力アップのジムトレの担当が響子コーチになっている。泳ぎのサブで毎日バタフライだから、毎日響子コーチと話ができる。


大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。

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