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第60話 エピローグ

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

沢山の時間を割いていただいた事、心から感謝申し上げます。

いよいよ2222回目の世界の悠太の世界線のお話しも今日で最後になりました。

プロローグシーンに戻ってのお話しです。

心から、最後までのお付き合い、ありがとうございました。

「私は病院を辞めるために、手続きを開始した。一切隠し立てすることなく。全部本当のことを言ったわ。怖いものは何もなかった。あるはずもない。悠太君を失うこと以外に怖いものなど。結局はいろいろな力が働いて……私がひどいことした元婚約者の有名心臓外科医が横やり入れて、結構助けてくれたみたいなんだけどね。私は病院を辞めるのではなく、地方の系列病院に異動となった。その地であなたを授かったの。お父さんの状態とか、私の年齢とか……無理だと思っていたので、ちょっと、青天の霹靂だったわね。その後も、私の勤務先は何度か変わったけれど、お父さんと私はセット販売での取り扱いだったから、家族全員いつでも一緒だったわね。悠太君が臨床検査技師で本当に良かったわよね。結局62歳で亡くなるまで、悠太君の記憶は戻らなかったということで」

 美咲はベッドの上で、悠太の日記をパタンと閉じた。


 翔子は顔を天井に向けて言った。

「私、もう36歳だから、大丈夫だから本当の事を教えて。私はお母さんの子供なの?」


 美咲と真理雄は眼を大きく広げて数秒間見つめ合った。そして大笑いを始めた。それがしばらく続き、翔子は怒りをあらわにして怒鳴った。

「笑い事じゃないわよ!私はお父さんと響子さんの子供なんじゃないの?それともお母さんとその心臓外科医の元婚約者の子供なんじゃないの?!」


 笑い涙を人差し指で拭いながら、ベッド上の美咲が言った。

 「あなた想像力豊かなのねぇ。驚いたわ。まず前者の否定になるけれど、間違いなくあなたは私のおなかをけり破って出てきたの。結構難産だったのよ?覚えていないでしょうけれど。なんなら真理雄君の政治力で、当時の記録を探してみてもいいんじゃない?この病院の系列で産んでるから、研究のためにカルテ廃棄されないのよ。後者に関しての否定になるけど、悠太君以外と関係を持つなんて考えていなかったから、恥ずかしながらあの歳まで処女だったのよ、私。――高校3年生の夏から完全に凍り付いた私の心を、24歳から6年かけて徐々に徐々に時間をかけて溶かした男が一人だけいた訳だけど、結婚するまでは肉体を許すつもりはないなんて子供っぽい私のこだわりも受け入れてくれたわ。さすがの私でも単為生殖はできないから、これが後者の否定論拠ね。他に何かあるかしら?」


「お母さんは……幸せだったと言えるの?お父さんに人生を振り回されただけの、被害者だったんじゃないの?」

「いったい私のどこを見て幸せではなかったかもしれないなんて思えるの?冷静に見てみなさいよ。私が加害者って訳ではないけれど、どっちかって言えば悠太君が被害者なんじゃないの?私は悠太君が欲しかった。悠太君が落ちていた。私は悠太君を拾って自分の名前を書いた。それだけじゃない。しかもあなたまで生まれたのよ?ちょっと凄くない?独り勝ちって言えない?」


「でもお父さんの記憶が戻ったら、突然戻ったら、お母さんはどうするつもりだったの?」

「じつはね、途中から思い出しているのでは?と感じる事が時々あったの。でも悠太君が自分から言い出さない限り、私は私と悠太君の真実を優先することにしたの。無論、悠太君が思い出したと言い出した時には、事実を優先するつもりだったわよ。結局最後まで、悠太君は私との真実以外、口にしなかったわ。悠太君が口にしないのだから、私の中では悠太君と響子さんとの時間なんて無いのと一緒。だから、結果的にはそれもどうでもいいわ」


「お父さんがそんなにまで夢中で愛した響子さんに対して……恨みとかやっかみとか、ないわけ?」

「私には悠太君の響子さんに対する想いがある程度理解できるのよ。その想いは私が悠太君に持っている想いと同じだからね。わからないものは、わかりようがないと思うわ。でもわかるからわかる。ただそれだけよ。執着という言葉をとっくに通り越した異常性よね。角度によっては純愛に見えるし、角度によっては精神異常に見える。面白いけどそれが現実よ。私は悠太君に対して、異常なまでの執着を持ったの。だから他のことはどうでもよかった。あなたが感じる気持ちはわからないではないの。でもね、私には響子さんの事はどうでもいいのよ。悠太君が抱いた響子さんへの想いと、私が悠太君に抱いた想いは別の話なんだから。悠太君が私と生きたのは事実で、悠太君が響子さんと生きた時間の全ては、私と生きた時間として認知された。私にとってはそれが全て。自分の望みが全て叶った結果よね。完全優勝ってところかしら?強いて……強いて言うならよ?悠太君は私にたくさんありがとうって言ってくれたけれど、時々は好きだよとも言ってくれたけれど、大好きって言葉は言ってくれなかったから……そこはね、もう一押しが足りなかったかなとは思うわね」


「もし響子さんが、後からよりを戻したいって連絡してきたら?」

「まず何より、響子さんがその後どうなったかも知らないし、興味もなかった。悠太君のこと以外、私はすごく薄情よ。だって、私が持っている情の全ては悠太君に使っていたから。他の人に回すゆとりはなかったわ。翔子だけはね、悠太君の子だから。悠太君が私と生きた証だもん。元気でいてもらわなければ困るわ。だから響子さんが連絡してきたとしても、それを叩き潰すだけだよ。私と悠太君の邪魔をするものは全部全力で叩き潰す。それだけ。ね?クレイジーでしょ?私はクレイジーなの。だからね、響子さんがどんな思いを持っているかとか、もし悠太君が記憶を取り戻したらとか、どうでもよかったし、考えるつもりもさらさらなかったの。だって、人の気持ちなんてわかる訳無いんだから。私は私の気持ちだけを考えて実行する。結果として悠太君が私のものになった。それだけでよかったし、それ以外何もいらなかった。自分が望む結果が出ている今、そうじゃなかったらなんてシミュレートするなんて無駄でしょ?」


 真理雄がうなずきながら、病室のドアに向かって歩き出した。ドアの手前で振り向いて言った。

「翔子さん。僕は全部知っている。みんなが知らない事まで全部ね。あなたは悠太君と美咲さんの子供で間違いないよ。たくさんの物語が溢れていて、それらの物語は影響し合っているけれど、つながってはいない。翔子さんが今ここにいるのはね、何気なくスーパーで買い物をしたら、その金額が¥2222だったっていうくらいの、必然と偶然が生み出した奇跡でしかないんだ。もしあの日、美咲ちゃんのスイミングスクールが東京大会の見学に行かなければ。もしあの日、美咲ちゃんが散歩に出る時に、麦わら帽子を部屋に忘れずに玄関を出る時間が5分早ければ。もしあの日、美咲ちゃんのお母さんが空手と陸上競技を勧めていれば。もしあの日、美咲ちゃんのお父さんが、美咲ちゃんの暴力沙汰に対して自分が責任を全うすると宣言しなければ。もしあの日、美咲ちゃんのおばあさんが、あの日袴をはいていなければ。翔子さんはここにはいないんだ。100億回サイコロを振って、100億回連続で1を引き続けた程度の、どこにでもある、ごくありふれた奇跡が生んだ翔子さんの人生を、思う存分楽しんでね」


 美咲は驚いた顔をして真理雄を見て、何かがつながったように何度かうなずきながら笑って言った。

「おかしいとは思っていたのよ。あなたが誰なのか……いや、あなたが『何』なのか。まあ、もうどうでもいいわね。なんだか死ぬのが少しも怖くなくなったわ。あなたが戦友と言った悠太君の娘なんだから。翔子のことは、よろしく頼むわね」


 真理雄は満面の微笑みで、二人に手を振って病室を出た。


「これが最後と決めてもがいてきたけれど、僕は成すべきを成せたのかな?」

 廊下を歩きながら真理雄は笑顔でつぶやいた。


おわり




―――――――――

あとがき


私の脳内で上映された映画である小説に最後までお付き合いいただき、本当に本当にありがとうございました。


図々しいようですが、もしよろしければ、次に投稿を始める「ReTekeZERO」にもお付き合いいただければと思います。


ReTakeZEROは、今回ご紹介した2222回目の世界ではなく、それ以前の別の世界のお話しです。

問題が起こり、人類滅亡の危機を避けるために『何か』の存在が世界をやり直す。


『何か』の存在は、何かを理由に、何かのやり方で、人類滅亡の危機が訪れると、それを回避する為にやり直し『ReTeke』を繰り返しています。

ReTekeZEROでは、今回の美咲や悠太、響子や冴子が少し違った運命をたどり、少しだけ違う立場となって登場します。しかし、魂や肉体は同じ構成ですので、同じ人間です。


なぜ悠太はあんなにも響子に溺れたのか?なぜ美咲は悠太に人生を捧げたのか?ZEROから読んでもらえれば、2222回目の世界の「縁」が見えます。


是非、引き続きお付き合い願えれば、とてもうれしいです。


ReTakeZEROのあらすじ(上、中、下の3巻構成)


(上)美咲が作ったAIアリシアが、世界を襲う感染症から人類を守る薬を作り出す。しかしその薬をめぐり核戦争が起こり人類が滅亡の危機を迎え『ReTake』(宇宙の再起動)が実行される。核戦争は回避したが、その次の危機がすぐそこまで迫っていた。

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