第48話 第8節 心がくすぐったくってね
僕たちはバスルームでシャワーを出しっぱなしで、しばらくキスをしていた。
「出よう……」響子コーチが僕の腕をつかんでシャワーを止めた。
お互いの身体をバスタオルで拭きあった後、僕たちはベッドに入った。響子コーチの上に僕が覆いかぶさるような体勢で、柔らかい柔らかいキスをずっとしていた。
「響子コーチ……えっと……入れさせてください」僕は勇気を出して言った。今までもギリギリまでは許してくれていたけれど、最後の一歩は響子コーチは嫌なのかも。僕は心配だった。
響子コーチは身体を入れ替えて、僕の横に両肘をついて僕の顔を覗き込んで言った。
「ゴムはある?」僕は首を左右に振った。そうかぁ。そうだよなぁ……
「コンビニで、コンビニで買ってきます」僕は慌てて言った。
「あ~。そんなには待てないかなぁ……」この意地悪で悪戯な顔は、もう、反則にしてほしい。
「じゃあ、どうしたらよいですか?」僕が言うと響子コーチは僕の上にまたがった。
「悠太君、私としたかった?」
「それはもう……ことばにできませんくらい」日本語がおかしくなってきた。
「じゃあ、ちゃんと言ってみて。ちゃんと言葉で伝えてほしい」
「大好きです、大好きです、大好きなんです。夢でした。僕の夢です。響子コーチが全てです。おねがいします。なんでもします、響子コーチが望むことならなんだって」僕は必死にお願いした。
「それじゃあ何をしたいのかわからない」
「入れさせてください。響子コーチの中に入れさせてください、響子コーチと……」僕がさらに必死になってお願いの呪文を唱えていると、その途中で響子コーチは腰を下ろして僕たちは一つになった。
響子コーチの中は、本当に温かく、やわらかで、言葉が、出てこない、幸せな、極楽な、柔らかな、もう……
僕が歯を食いしばって声が出ちゃうのを我慢していると、響子コーチは僕の胸に顔を押し当てて、身体が小刻みに揺れ出した。
もしかして感じてくれているのかな?そう思ったのも束の間、2度3度と身体が揺れた後スッと上半身を立たせて、なんと笑い始めた。
「ひどいですよ〜。僕の経験がないからってそんな……」
「違うの、違うの、ゴメンね。ごめん」そう言いながら、響子コーチは笑い続けていた。
「もう、ひどいなぁ。ちゃんとこれから上手になります。声だって出さなくします。競泳だって、ちゃんと言われた事を実行して上手になったでしょ?だからちゃんと教えてください。僕の下手が治らなかったら、それはもう響子コーチに責任ありですよ」僕は必至で言い訳をしていた。
感じてくれてピクピク身体が揺れていたのではなく、響子コーチは笑いをこらえてピクピクさせていたのだ。そして今は、僕と深くつながったままで、目いっぱい堂々と大笑いしている。
僕もなんだか面白くなってきてしまった。というか、幸せだ。AVで勉強したセックスは、もっとこう男性が一方的に、いいのか?いいのか?みたいに攻めたり、暗い部屋で、無言でパンパンするものだと思っていた。
でも今実際に体験している響子コーチとのセックスは、そう……特別な一人だけと交わすことが許される方法での会話だ。
ダンスとかテニスとか、もしかすると強い人同士の将棋とかと共通するところがあるのかも。相手の動きを読んで、先回りして、相手にどうだ!?って突き付けたり、そう来たかぁ、じゃあこれでどうだ?みたいにラリーを続けたり。すっごいコミュニケーションだ。
それはやっぱり、響子コーチとだけしたい事だし、響子コーチには僕とだけして欲しい。これも自己中心的なのかもしれないけれど、やっぱり僕はそう望んでしまう。
「あのね、悠太君、怒らないで聞いてくれる?悠太君を怒らせたら、ゴメン、先に謝っておく」深く挿入したままで響子コーチが言った。
「響子コーチ、覚えてないと思うけど、前にも同じセリフを僕に言ってる。僕がクロールだけにすると、担当が三橋コーチになるから嫌だって言った時、別れたし、もう三橋コーチはスクールには来ないって言った時」
「ははは、覚えてないよ~。よく覚えてるね」
「僕は他の事はともかく、響子コーチとの事は全部覚えています。日記にも怖いくらい書いています」
「うわぁ~私の黒歴史がぁ~」響子コーチと僕はまた大笑いしている。
深く挿入したままで響子コーチが笑ったり話したりすると、響子コーチと僕の身体がつながっているから笑った振動や声の振動が直接身体を通じて伝わってくるので、とても、幸せが凄い。
「悠太君は今、私とエッチをしていて、どんな風に感じているかわからないんだけどね、私はね、今本当に幸せで楽しい気持ちなの。だから笑っているのはね、悠太君が下手だからとか、そういうのじゃなくってね、幸せ過ぎて笑っているだけなの。身体はもちろん感じてるんだけど、心がね、感じちゃって、なんだかくすぐったいの。だから笑っちゃってるだけなの。こんなにね、素敵なセックスは初めてだしね……悠太君……大好き……私をずっと好きでいてくれて……ありがとうね」
響子コーチは身体を倒して、時々腰を動かしながら長いキスをくれた。
「響子コーチ。僕は、今日初めての、その、エッチなんですけれど、もっとこう、黙々とするものだと思っていたので、すごい感動しています。エッチってこう、最高のコミュニケーションなんだなって感じています。自己中な考えかもしれないけれど、できれば、これからは僕とだけ、こんなコミュニケーションをしてもらいたいです。響子コーチが望むこと、僕はなんだってやります。だから、響子コーチが望む事を、ちゃんと教えてください。僕は、今までだって、自由形も長距離も、トライアスロンだって、全部こなしてきたでしょ?やればできる子だから、ちゃんと教えてください。エッチだけじゃなくって、恋人ができるのも初めてなので、デートとか、ヘタクソだけど全部教えて下さい。僕は今、最高に幸せです」
今度は僕が上半身を起こしてキスをした。
「私のコーチングは厳しいのは知っているよね?それでも私に、教えてくれって言うの?」
「響子コーチ以外に教わるつもりはないです。必ず響子コーチの教えは、絶対コンプリートさせます。今までだって、あ、ごめんなさい。僕は僕はって、うっとおうしいですね」
「なぁに?それぇ。私は悠太君をうっとうしいなんて思いませんよ。大好きだよ。私だけの悠太」響子コーチに初めて呼び捨てで呼ばれた。僕は本当に天にも昇る気分だった。
「そろそろ、イきたいんじゃない?」響子コーチが小さな声で耳元でつぶやいた。
「今日は、このまま終わりにしたいです」僕が答えると、すごく驚いた顔で僕を見た。
「え?私じゃイけない?私相手じゃイきたくないって事?」
「違います違います。そうじゃなくって、その、何て説明したらいいかなぁ。今夜このまま終わりにすると、まだ終わっていない事になって、明日仕事をしている間も、休憩をしているだけで、ずっと響子コーチとエッチしている感じになります」
「なにそれぇ?男の子なんだから、出さないとダメでしょ?」
「響子コーチこそ、なにそれぇです!三橋さんがそうだったからって、僕も出したがりって訳じゃないですからね」僕は頬を膨らませて言った。
「でも私からのお願い。悠太と初めてエッチした今夜、私の中で出してほしいの。私が不安になっちゃうから。やっぱり私じゃダメなのかな?って。また嫌な気にさせるかもしれないけれど、私は今まで、中で出された事はないの。だから、悠太が初めてになる。結婚してくれるんでしょ?」
「もちろん、どれだけ賠償金額を積まれても、もう契約破棄に応じるつもりはありませんから」
「じゃあ問題ないでしょ?悠太の初めてを私がもらった日に、私の初めてを、悠太にもらって欲しいの」
「一つ問題があるけど、一応伝えておきます」
「え?本当は初めてじゃないとか?」
「違う違う。たぶんですけど、響子鬼コーチが動き出すと、ほんの、ほんの数秒で、自由形50メートルより早いタイムで……」
僕が言い終わる前に、響子コーチの唇が僕の唇をふさいで、響子コーチはスタート台から飛び込んだ。
自由形の50メートルの僕のタイムだった23秒後半はクリアできたけれど、200メートルの1分48秒より早いタイムで響子コーチの中で果てた。
僕の初めてのエッチは、本当に本当に幸せなものだったし、セックスに対してのイメージも大きく変わったし、幸せで幸せな時間だった。
大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。